非常にありがたいことに、私の映画「千年の糸姫(英題:1000 Year Princess)」のワールドワイドの配給契約をアメリカの会社と結ぶことができ、まずはAmazon プライムでの配信が始まった。

⇧ふるいちやすし監督がロンドンフィルムメーカー映画祭で最優秀監督賞を受賞した映画『千年の糸姫』(英題:1000 Year Princess)はアマゾンプライムビデオで視聴できる。プライム会員なら無料なので、ぜひ観てみてほしい!アマゾンで「1000 Year」で検索する。

 

この上なく嬉しいことだが、その際、MEバージョンの音声トラック(セリフなし、音楽、エフェクト、環境音のみ)を要求されて焦った。もちろん映画祭に出す時点で英語字幕入りのバージョンは作成してあるのだが、国によっては現地の言葉でアフレコしないと受け付けてもらえないことがよくある。そのために日本語のセリフを消した物が必要になるのだ。世界配信などを想定していなかったので結局セリフをカットし、空いたところを他から持ってくるという細かい作業をする必要があった。その時に改めて感じたのが環境音をより良い形で、現場で録音しておくことの重要性だ。もちろんそれはステレオで録っておきたい。

そこで以前から気になっていたRODE STEREO VIDEOMIC X というステレオマイクを代理店である銀一から借りて使ってみることにした。RODEというメーカーは音響関係者の中では高品質・低価格のマイクを作るメーカーとして広く知られているが、近年は映像のための製品も数多く開発している。その中でもこのモデルは10万円超えの高級モデルで、他のモデルとは一線を画す物になっていて、その差がどれほどかが気になっていた。まず一番に目を引くのが左右独立してそれぞれバランス出力(ミニXLR)が用意されている点だ。カメラマイクとして使用されることを考えると、ケーブルを長く引き回すケースはあんまりないことから、バランス出力は必要ないと考える人も多いだろうが、何よりカメラという電子機器の近くはノイズの発生源となることがある。その近くをバランスケーブルを使って繋ぐということはとても安心だし、カメラと離れたところでレコーダーに収録する場合にも、またはその逆でも、安心して長いケーブルを使うことができる。このあたりは高級モデルとしての本気度が伺える。さらにこのモデルは四角い9Vの乾電池で駆動するようになっており、アッテネーターやローカットフィルターも本体に装備されていることから、そこにマイクアンプが内蔵されているようにも思える。

専用のウィンドシールドは強い海風は時々防ぎきれないこともあるが、それでもかなりの効果があった。海でも山でも街中でも、こういう環境音を録って、きっちりライブラリー化しておくと、いつかどこかで役に立つ。

以前から私はカメラに付いているマイクアンプの脆弱さを問題にしていたが、そこがマイクの直後に補強される形になるのなら嬉しいことだし、もちろんファントム電源を必要としないのでカメラのバッテリーを消費することもない。

音の印象としてはひじょうにリッチで繊細な音質で、ステレオ音場も広過ぎず狭過ぎずとてもナチュラルなものだった。それはマイクユニットやバランス出力、マイクアンプといったものの品質やチューニングの賜物だと言えるが、それが果たして10万円の価値があるかどうかは意見の分かれるところかもしれない。個人的には環境音を大切にする方には決して高い出費だとは思えないのだが、どうだろうか?

(編集部注:7月中旬に価格改定があり、RODE STEREO VIDEOMIC Xは72,000円に値下げになりました)

環境音だけではなく、例えばそこで人の声等を収録する際にも、現場の独特のアンビエント(残響音など)も含めて録ることが大好きな私は、後で補足するためのガンマイクやピンマイクを用意しつつも、このマイクの音も録っておきたいと感じた。言葉がはっきり聞こえるための親切さとその場の臨場感は時として相反するものだが、作品の性質によっては臨場感や空気感、リアリティーを優先させることが「良い音」だということも分かってほしい。報道番組ではなく、特に旅の記録などではこのリアリティーがひじょうに楽しいものとなるはずだ。それをしっかり使い分けるのもロンサムビデオの流儀だ。

 

⇧︎環境音(アンビエント)だけではなく、たとえば人の声のような主体になる音声も、環境の中での反射がその場その場の臨場感を出してくれる。それも込みで収録するにはガンマイクやピンマイクよりもステレオマイクで収録するほうがいい結果を得られる。できればピンやガンなどの音もマルチで録っておいて、スタジオでちょうど良くMIXするのが最良だ。映像に空気感を求めるなら音にもこだわってほしい。