NHK放送技術研究所の最新の研究成果を広く一般に紹介する「第68回 技研公開」を、5月29日(木)~6月1日(日)の4日間の日程で開催する。
http://www.nhk.or.jp/strl/open2014/index.html
今年の技研公開は、“ココロ動かすテクノロジー”をテーマに2020年の本放送開始を目指して研究開発を加速している「8K スーパーハイビジョン(以下、8K)」などを中心に31の研究成果を展示。
昨年9月にサービスを開始した「ハイブリッドキャスト」では、8K時代の高精細な大画面を生かしたサービスイメージなどを展示。さらに、立体テレビの研究における高品質化技術や、人にやさしい放送技術では立体の形状や硬さを再現するシステムなどの展示を見ることができる。
【開催期間】
平成26年5月29日(木)~ 6月1日(日)
【会 場】
NHK放送技術研究所( 東京都世田谷区砧 )
【ホームページ】
http://www.nhk.or.jp/strl/open2014 (PC、スマホ)
週末の5月31日(土)、6月1日(日)には、技研の研究員が解説する「ガイドツアー」や、手話通訳士が同行する「手話通訳付きガイドツアー」、子供たちを対象とした「スタンプラリー」などのイベントも開催。
8Kスーパーハイビジョン関連のみどころは?
一般公開に先立って、プレス向けに解説が行なわれた。8Kスーパーハイビジョンに限定して、トピックスをお届けしよう。
▲これまで撮影の現場で使用されてきたスーパーハイビジョンカメラ。その開発の経緯や現状での運用については、ビデオサロンの別冊ムック「4K&デジタルシネマカメラ」でNHKスタッフに取材したレポートが詳しい。
感度と静音性を重視したシアターカメラ
2016年の試験放送、2020年の本放送に向けて、カメラから伝送までありとあらゆる部分で開発の進捗が具体的に感じられた今年の技研公開。
併設されたシアターでは、新開発したスーパーハイビジョンのシアターカメラで撮影したミラノスカラ座来日公演「リゴレット」を上映(約10分)。映像はすべて「引き」でステージ全体を捉え、あたかも観客席にいるかのようなコンテンツになっていた。
カメラは、劇場内で撮影することを考慮して、感度と静音性を重視した設計にしているという。センサーは2.5インチの大型センサーでフル解像度のRGB撮像素子の信号から画素加算処理して出力することにより、高感度・低ノイズ化を実現した。
8K/120Hz/12ビット/広帯域を実現したフルスペックカメラ
スーパーハイビジョンの規格の要素として8Kの解像度のことがメインに語られるがポイントはそこだけではなく、スーパーハイビジョンでいう「フルスペック」とは
●8K解像度
●フレーム周波数120Hz
●階調12ビット
●広色域表色をカバー(BT-2020)
をすべて見たなさなければならない。
NHKとしては、スーパーハイビジョンのリファレンスとなる画質を提示する必要があったという。そこでようやく完成したがのフルスペックカメラ。上記の要件をすべて満たしたもの。横に置かれたフル解像度120Hz表示装置にそのフルスペックカメラで撮影した映像を表示していた。インターフェイスは光伝送で約144Gbit/sを1本で接続。現状のディスプレイではまだ色域のすべてをカバーできていないというが、それでも従来との色の違いは確認することができた。
スーパーハイビジョンカメラの小型化を目指して開発した1億3300万画素のイメージセンサー
フルスペックカメラはリファレンスになるものだが、実際の運用の現場では小型カメラが必要になる。そこで開発されたのが、単板カメラ用の1億3300万画素イメージセンサー。もちろん動画イメージセンサーとしては世界最高の画素数で、フレーム周波数は60Hz。イメージセンサー4画素で映像信号の1画素を構成できるので、単板ながら色解像度を確保できる。横画素は7680画素×2、縦画素は4320画素×2。センサーサイズは35㎜フルサイズに対応。撮像面の対角線は43.27㎜となる。これは16:9での対角線なので、市販のスチルの35㎜フルサイズ用レンズで対応することができる。
スーパーハイビジョンはこれまでは2.5インチセンサーで開発されてきたが、今後はこの単板センサーの採用が現実的なところだろう。
ソニーのF65を流用したシステム
F65は4Kのデジタルシネマカメラとして映画業界で活躍しているが、イメージセンサーは8Kの解像度を持ち、RAW記録であれば、8K解像度での収録が可能である。この市販のカメラを利用して8K、4K、2K映像をリアルタイムに同時出力するベースバンドプロセッサーユニットと組み合わせた展示もされていた。今後、スポーツ中継や番組制作でも活用していくという。
より機動性が上がる小型のメモリーパックとレコーダーを開発
これまでスーパーハイビジョンの収録にはP2カードを16枚同時記録するシステムが使われてきたが、その元になる製品がパナソニックのほうで開発されなくなったことで、新たな収録システムが必要になっていた。高速大容量の個体メモリーパックを開発。着脱式にすることで、より機動性を向上させている。センサーのRAW出力からグリーン信号を補完処理して映像を圧縮することで効率よく、高画質記録できる。最大12Gbpsでの記録が可能で、一つのメモリーパックに約45分の収録を実現。レコーダーは2種類あり、記録のみのポータブル機と中継車に設置するタイプの録画再生機。
もちろんカメラの開発だけでスーパーハイビジョン放送が実現するわけではなく、ハイブリッドキャスト、衛星放送システム、ケーブルテレビの伝送方式、ディスプレイ一体型スピーカーによる視聴環境の提案など、撮影、収録から伝送、視聴まで一通りを網羅した展示になっていた。