ビデオサロンに掲載された岡野肇さんの連載の再掲載です。今回は2005年秋に始まったiTuensのお話。
◆iTunesが示すもの
先月号で「このままITが普及すると、データベースの時代がくる」と言いましたが、2005年8月5日、その日が来てしまいました。皆さんもうご存知かもしれませんが、米国アップルの「iTunes Music Store」が、日本での音楽配信を開始したのです。この音楽配信自体はあまり関係のない話なのですが、実はこの奥に深い事実が隠されているのです。
この配信を利用するには「iTunes」という無料ソフトを利用するのですが、これがとても「データベース」チックなソフトなのです。今までは携帯プレーヤー「iPod」管理用と自分のライブラリーが中心でしたが、「iTunes Music Store」の開始とともにその役割は大きく拡大しました。つまり、「データベース」が初めて今、脚光を浴びようとしているのです。
巷では音源の購入方法の改革のようにしか捉えられてはいませんが、「音楽」そのものの捉え方や購入動機に革命的に変化が起こってしまうかもしれないのです。ここで断っておきますが、私は「iTunes Music Store」の宣伝をしているのではなく、「データベース」が「商品化」されたということを皆さんにお話ししたいのです。以下、それはどういうことなのか具体的に箇条書きにしてみます。
1.「情報」や「キーワード」で買う。
今までのレコード店も、ジャンルやアーティスト、レーベル別など商品の配置に気を配ってはいましたが、「データベース」を検索・ソートするこの方法だと、「情報」や「キーワード」を複合的に絞り込むことができ、予想外の曲を「発見」することもあります。例えば「東京」というキーワードで検索すると150曲がヒットしました。年代やジャンルをはるかに超えたラインナップです。しかもほとんどすべての曲が30秒間製品と同じ音質で視聴できるのです。
2.カヴァー曲や同名異曲を買う。
カヴァーブームが続いています。シングルだけでなくアルバムの曲も検索されるので、あの曲を意外な人が歌っているというケースも発見できます。
3.「iMix」は選曲ジャーナリズムだ!
「iTunes Music Store」に「iMix」という機能があります。いろいろなテーマでユーザーが選曲した曲のリストをブラウズするものです。アーティスト別のMyベストや思い入れのある曲リストも良いのですが、メッセージ性の強い曲を集めたり、想いを代弁している曲リストによって、何かを伝えることもできそうです。若者の集うクラブのDJもある意味で選曲勝負なのですが、この「iMix」を使って自分の主張を全国発信できるのです。
ここからはちょっと辛口発言ですが、「データベース」をもっともっと楽しむためには、さらなる進化が必
要でしょう。検索の元となるフィールド数がまだ圧倒的に少なく、今は、作詞家や作曲家、初発売日などのフィールドがありませんし、高度な検索やソートの機能もありません。メーカーサイドからだけでなくユーザーも情報入力に貢献できるシステムズづくりが大切だと思います。
「東京」というキーワードで検索してみると、B’sの「東京」から「ラブユー東京」、そして西田佐知子の「東京ブルース」まで。おまけに「東京」の名がつくアルバムやアーティストまでもが表示される。
(この連載は2005年当時のものです)
岡野 肇
PROFILE
1960年生まれのかに座のB型。
18歳と10カ月で高卒後広島から上京。
伝説の番組「ザ・ベストテン」のドライアイス担当を皮切りに、
美術・録音・照明・VE・撮影・制作・演出と各分野をめまぐるしく駆けめぐり
29歳と11カ月で株式会社まじかるふぇいす(現有限会社)を設立。
現在は特に「音楽とビデオの融合」を目指し、日夜企画書と格闘中の
映像・音楽プロデューサー。趣味はナレーションとデータベース作り。