映像+(EIZO PLUS)
新しい映像が生まれてくる現場 vol.9
『IT/イット “それ” が見えたら、終わり。』
11月3日(金・祝)より全国公開中
Ⓒ2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2017年 アメリカ映画/2017年 日本公開作品/原題:IT
上映時間 135分/スコープサイズ/5.1chリニアPCM+ドルビーサラウンド7.1(一部劇場にて)
字幕:野口尊子/映倫区分:R15+/配給:ワーナー・ブラザース映画
ダーク版『スタンド・バイ・ミー』とも言えるスティーヴン・キングの名作「IT」を原作とした、半端ないホラー映画。特殊メイク、特殊効果とVFXを見事に融合させ、次々と新鮮な恐怖をたたみかける2時間を作った、アンディ・ムスキエティ監督に制作現場を聞く。
STORY
1989年、アメリカの田舎町に住む吃音の内気な少年、ビル。この平和な町を、子供が次々と消えるという恐怖が襲う。ビルの弟もある雨の日、おびただしい血痕を残して失踪した。ビルはいじめられっ子7人で結成した “ルーザーズ・クラブ” のメンバーとともに、失踪事件に挑む。そして彼らの前に、不気味なピエロのペニーワイズが現れるのだった。
INTERVIEW ── 監督・製作 アンディ・ムスキエティ
Q:ペニーワイズのイメージについて教えてください。
アンディ:ペニーワイズは、イットの一つの化身にすぎない。ペニーワイズは子供たちの心理にコネクトしていて、彼らが一番恐れているものに形を変えることが出来る。トラウマや、イマジネーションのネガティブな部分にね。彼は、支離滅裂に自己的な快楽の瞬間を楽しんでいる。こいつは、かつて生きていた人々を模倣しているんだ。
映画の大部分では、彼は人間の姿をしている。役者に特殊メイクをし、CGとミックスさせているんだ。僕はペニーワイズはほとんど子供のようにキャラクターを見せたいと思っていて、そう特殊メイクに指示をしている。大きい目、先がちょっと上を向いた鼻、細い髪、そしてりんごのほっぺ……。そういう子供っぽいルックスにすることによって、彼をもっと不気味に見せられるんじゃないかと以前から感じていたんだ。無垢なかわいさと、あんな恐ろしいことができるという対比を作りたかった。彼の頭部は巨大なひび割れたメロンに似せて作っていて、大きな尖った歯からはよだれがきりなく垂れているんだ。彼のピエロ衣裳には中世、ルネサンス、エリザベス朝の要素が融合している。ペニーワイズはデリーを何百年もの間、苦しませてきたという事実があるからね。
Q:ペニーワイズ役のビル・スカルスガルドについて教えてください。
アンディ:ビル・スカルスガルドとは、キャラクターを一緒に作り上げた。撮影のひと月ぐらい前からコンセプトについて、かなり話し合った。彼がキャストされてからはね。ビルは驚くべきだ。僕はまず、オーディションでのビルの演技に魅了されたんだが、それ以降、毎日が新しい発見の連続だった。彼はこのキャラクターに謎めいた、興味をそそられる雰囲気をもたらしただけでなく、ペニーワイズの異常なまでに芝居がかったところを探る根性も持っていたんだ。ビルの表情には狂気が宿り、その仕草さからは完全に不穏なものがにじみ出ていた。この役は肉体的に消耗させられる点もあったが、ビルには脱帽だよ。彼のエネルギーはつねに全開だった。僕が初期段階から考えていたのが、ペニーワイズの外斜視だった。彼には、片方の目が別の方向を向いている、この特殊なルックスは、ポストプロダクションでCG加工するものだと思いながら、ペニーワイズの特徴としてビルに話したところ、彼は『それならできるよ』と言って、その場でやってみせた。もうビックリしたよ。映画の中でも観ることができるけど、じつに不気味だ。ビルの青い目は、ポストプロダクションで黄色に変えているけど、外斜視は彼が自分でやったんだ。声についても、ビル自身が「ちょっと不快なハイピッチの声」と呼ぶものにしている。
Q:撮影について。
アンディ:ペニーワイズはデリーの下水道、地下の世界の深い洞窟の中に住んでいて、下水道を通ってあっちこっちに動き回るんだ。だから、下水のシーンはとても重要だった。さざ波に光が反射してできる波及効果が素晴らしいから、CGではなく実写で撮影したんだ。でも効果を得られる一方、光が役者の顔や目、正しいジェスチャーの時にうまく当たらなかったりとコントロール出来ない。なんどもリテイクを繰り返したよ。
ペニーワイズは、常にずっと現れている。彼は常に、犠牲者を誘惑する。犠牲者を食べる前に、彼は相手を怖がらせないといけない。恐怖がなければその肉は美味しくないからね。だからイットは、そのビジュアルを隠すことで恐怖をかきたてられない。映画づくりにおいて、それはちょっとチャレンジでもあった。なぜなら……ホラー映画のABC(基礎)は、モンスターを見せないことだし、実際、見せない方が楽なんだ。難しいのはモンスターを見せながら、毎回、観客を驚かせることだよ。撮影中は出来る限り、子供達が特殊メイクしたペニーワイズに出会うのを遅らせるようにしたよ。ペニーワイズ役のビルにも、現場以外でルーザース(子供達のグループ)に会って欲しくないと伝えて、彼もそのことに完全に同意した(笑)。子供たちは、本当に彼のことを怖がっていたよ。彼らは12歳で、背が5フィートしかないし、ビルはすごく背が高くて特殊メイクでクレージーな顔をしているからね。
Q:あなたにとっての恐怖とは。
アンディ:恐怖とは、変化するもの。人生にはいくつかの段階があって、その段階ごとに違うものを怖がるようになる。13歳の頃、僕は幽霊や奇妙な存在、暗闇が一般的に怖かった。でも大人になって想像力のパワーを失い、それと共に、暗闇を怖がる能力も失うんだ。大人になって感じる恐怖は、難解で、より人生と関係のあるものになる。だけど僕は今でも、センチメンタルに付随する、子供の頃、僕を怖がらせたものに興味があるんだ。日本のホラー映画では『リング』(1998/中田秀夫作品)と『ハウス』(1977/大林宣彦作品)が大好きだ。それから黒沢清の『回路』(2001)が素晴らしいと思うよ。
アンディ・ムスキエティ(監督)/ANDY MUSCHIETTI(Director)
『MAMA』(13/製作総指揮:ギレルモ・デル・トロ、出演:ジェシカ・チャステイン)で長編映画の監督としてデビュー、ファンタスポルト映画祭で最優秀作品賞と最優秀監督賞を、ジェラールメ映画祭では最優秀作品賞と観客賞を受賞。プロデューサー、バルバラ・ムスキエティは姉。パームスプリングス国際映画祭で “見るべき監督” に選ばれている。
ブエノスアイレスのCINE大学(FUC)で学び、製作会社クアトロ・カベサスでCM監督としてキャリアをスタート。ヨーロッパに拠点を移し、バルセロナとマドリードを拠点とするコマーシャルや映画製作会社トーマ78を設立。コカ・コーラ、メルセデス、フォード等のCMを監督し、カンヌ・ライオンズ金賞など、世界最大級の広告賞を多数受賞してきた。
《STAFF》
監督・製作:アンディ・ムスキエティ
原作:スティーヴン・キング
製作:ロイ・リー、ダン・リン、セス・グレアム=スミス、デイビッド・カッツェンバーグ、バルバラ・ムスキエティ
脚本:チェイス・パーマー、キャリー・フクナガ、ゲイリー・ドーベルマン
撮影:フチョン・ジョンフン
美術:クロード・パレ
編集:ジェイソン・バランタイン
音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ
衣裳:ジェイニー・ブライアント
特殊メイク:アレック・ギリス、トム・ウッドラフ
《CAST》
ジェイデン・リーバハー(ビル・デンブロウ)
ビル・スカルスガルド(ペニーワイズ)
フィン・ウォルフハード(リッチー・トージア)
ジャック・ディラン・グレイザー(エディ・カスブラーク)
ソフィア・リリス(ベバリー・マーシュ)
ジェレミー・レイ・テイラー(ベン・ハンスコム)
ワイアット・オレフ(スタンリー・ユーリス)
チョーズン・ジェイコブズ(マイク・ハンロン)
ニコラス・ハミルトン(ヘンリー・バワーズ)
ジャクソン・ロバート・スコット(ジョージー・デンブロウ)