文●川井拓也

株式会社ヒマナイヌ代表。配信チームLiveNINJA主宰。Ustream黎明期からマルチカメラによるライブ配信や収録を手がける。筆者のブログ●http://himag.blog.jp/

※この連載はビデオSALON 2018年2月号に掲載した内容を転載しています。

Vol.020 キヤノンHF G10の血を受け継ぐGX10はマルチカメラ収録&配信に向いているか?

最大4K/60p収録に対応する
キヤノン家庭用カメラのフラッグシップモデル

キヤノン iVIS GX10
248,000円
1.0型CMOSを採用し、画素ピッチの見直しなどで高感度と低ノイズ化を実現。最大4K/60p(3840×2160 4:2:0 150Mbps)に対応。FHD 120pのスローモーション記録も可能。4段階の濃度を切り替えられる回転式の内蔵NDフィルターを搭載。ハンドル類や音声入力面で省力化し、価格帯を抑えたモデル。

▲筆者手持ちのXF205(左)とHF G10(右)と並べた状態。中央がGX10。

▲アクセサリーシューは専用で、外部マイクやライトは専用アクセサリーを使用する。

▲リングはフォーカスとズームを切り替えて使える。カスタムダイヤルには露出等を割り当てられる。

▲記録メディアはSDカード。デュアルカードスロットを備える。

◉ キヤノン民生機のフラッグシップの使い勝手はどうか?

ミラーレス一眼は百花繚乱の様相ですが、量販店でのビデオカメラ売り場の縮小っぷりには目を覆うばかりのものがあります。しかしマルチカメラ収録をやっている立場からすると、家庭用のフラッグシップ機は安価なので、複数台揃えやすく気になるジャンルです。キヤノンのビデオカメラ新製品は家庭用の GX10(26万)、XLRオーディオ入力対応の業務機 XF400(42万)、さらにHD-SDI搭載の XF405(49万)の3製品をラインナップ。

1.0型CMOSセンサーやデュアルピクセルCMOS AFなど基本的な性能は共通で、筐体は XF205シリーズと近いサイズです。3連リングがないという欠点がありますが、ズームはズームリモコン、リングはフォーカス、露出はカスタムダイヤルで行えば、なんとかなるという感じです。電源、リモコン、ヘッドフォン端子は後方に、HDMI出力とマイク、USBはグリップ前方にあります。大きく変わったのはSDカードスロットでグリップ上方に移動しました。これはすごく使いやすくなった印象です。

◉ なんだ!この巨大なACアダプターと短いケーブルは!!

しかし驚いたのが、まるでプリンターの付属品のような巨大なACアダプターです! 大容量モバイルバッテリーくらいの大きさがあるのはまだいいんですが、問題はケーブルです。これが中途半端に短い! これはキヤノンに限ったことではないのですが、カメラを三脚につけた時にACアダプターが宙に浮いてしまうというのは、どうしてメーカーとして気にしないのでしょうか? バッテリーで使うことが前提だと言われればそれまでなんですが、この部分のケーブルをあと1m長くしてもコストそんなに変わらないと思うんですよね。GX10はこの巨大なACアダプターをまず三脚の足かミッドスプレッターに固定しなければ使えません。

ACアダプターのケーブルが短い……

▲マルチカメラ収録ではACアダプターから給電しながら撮影することも多いが、写真のように大きなアダプターが三脚に取り付けると宙ぶらりんの状態になってしまう。もう少しケーブルを長くしてほしいところ。

◉ HDMI端子から1080i 信号が出せない仕様なのでスイッチャーを選ぶ!

マルチカメラ収録ではスイッチャーにHDMI出力端子から信号を入力する前提なので、スルーアウトがどのような解像度をサポートしているかが重要です。驚くことにGX10は1080i が出せません。業務用スイッチャーは1080i しか受けられない機種も多く ip変換コンバーターが必要になります。さすがにコンポジット信号出力は残せとは言わないけど1080i 出力はまだつけておいて欲しかった。

◉ デュアルピクセルCMOS AFとアドバンストズームは素晴らしい!

数年前に EOS C300 や同社デジタル一眼に搭載されて話題を呼んだデュアルピクセル CMOS AF がビデオカメラにも搭載! これはうれしいですね! また、MF時にピントリングを回すと、時計のような表示が出て12時の部分に3つの矢印が重なると合焦、2つの矢印が下に出ている時は前ピン、上に出ている時は後ピンです。

AFも合焦は早くフェイスキャッチと併用できます。キヤノン機の特徴としてフェイスキャッチ優先があるので、人物が画面からいなくなった時にフォーカスが背景に逃げてしまうことを防げます。複数台のカメラを無人で配置することが多いマルチカメラ収録にはうれしい機能です。記録設定を2Kにすると30倍まで画質劣化なしのアドバンストズームが使えます。これが全域光学ズームそのもののスムーズさで素晴らしいです。本体で 4K/60p の録画ができることがウリの GX10 を2Kのマルチカメラ用に使うなら1.0型センサー搭載の30倍ズーム機としてアリ!……ですが、1080i が出力できないことだけ覚えておきましょう!

MFのピント表示がわかりやすい

▲MF時の表示。左から合焦。前ピン、後ピンの表示。EOS C200などにも採用されているが見やすい。