マグネットで着脱できる
マンフロットのフィルターシステムXUME を試してみる
Report◎斎賀和彦
(2月27日本文を加えました)
一眼動画に凝り出してしばらくすると、シャッター速度の壁にぶつかります。一眼動画の特徴のひとつでもある絞りを開けた浅い画を撮るにはシャッター速度が速くなりすぎる(詳しくは後述)。その対策にはNDフィルターが有効なのですが、フィルターワークって着脱が手間だし……。昨年遅くに発表されたマンフロットの新フィルターアクセサリー XUME(ズーム)は、マグネットを使ったスピーディなフィルター交換を実現する新しいアイテムです。
経験者には釈迦に説法ですが、映像・画像は、絞り×シャッター速度×感度の組み合わせです。絞りを開放近くにして背景をぼかしたいとき、シャッター速度を速くするのが基本ですが、スチル写真と異なり動画の場合、速いシャッター速度で撮られたシャープな画像の集合体は動きがパラパラとした印象になります。適度なブレ(手ぶれではなく動きの残像としてのブレ)が視覚的に自然な動きに感じるのです。
絞りもシャッター速度も固定すると後は感度で調整するしかありませんが、一眼動画の多くは最低感度がISO100。明るい屋外では光の量が多すぎるのです。
絞る(ピントが深くなる)か、シャッターを速くする(パラパラ感がでる)か、もうひとつがNDフィルターで光の量を減衰させる。これが本格的に一眼動画を撮るときにNDが必須と言われる所以ですが、フィルターの脱着は面倒だし、レンズ交換できるメリットの裏返しにレンズ径の異なるNDを揃えるのはお金も掛かります。業務用カムコーダーには切換式ND内蔵カメラも多いのですが、一眼カメラには存在しません(シネマEOSにはND内蔵機がありますが)。一眼ムービーのウイークポイントのひとつがここなのです。
シャッター速度による動画比較 from SAIKA on Vimeo.
XUMEはレンズ用マグネットベース、フィルター用フレーム、レンズキャップから構成されます。もちろん、フィルター本体も必要ですが、フィルターはマンフロット以外でもOK。そのためかマンフロットのフィルターはXUMEとは呼ばないようです。
▲XUMEはレンズにつけるマグネットベース、フィルターにつけるフレームが基本。このふたつが磁力で一体化することでフィルターを固定する。
まずレンズにマグネットベースを取り付けます。この先端にマグネットが仕込まれているのがポイント。つぎにフィルターにフレームを取り付けます。フレームは汎用性があり、前述のようにフィルターはマンフロット製以外でも問題なく使えます。手持ちのフィルターが流用できるのはコスト的に助かります。マンフロットにないクロスフィルターなどを使うときにも便利。ただし、枠に厚みがある場合、ベースとフレームの厚みが加わってケラレが生じる可能性もあるので注意が必要です(特に広角系)。今回はマンフロット製のND8、ND64、プロテクターの3枚にフレームを取り付けました。
Manfrotto XUEM from SAIKA on Vimeo.
このフレームがマグネットベースと磁力でくっつく仕組み。フレームを付けたフィルターをレンズのベースに近づけるとピタッと貼り付き、引っ張ると外れるので、フィルター交換が圧倒的に素早くできます。通常時はプロテクターでレンズ保護して、必要に応じて秒単位でNDに切り替えられるスピード感と簡単さは、業務用カムコーダーの内蔵NDに次ぐ快適さで、一眼ムービーの弱点を見事に補うように思います。特に大判センサー&明るいレンズで浅い画を狙うときには必須と言えましょう。
磁石だけで付いていると何かの拍子に脱落してしまいそうな不安があります。今回、撮影の行き帰りその他、意識的にXUMEを付けた状態でカメラを下げ、振り回したり、あえて(そっと)机の角にレンズの先端を当ててみたりしましたが、一度も外れることはありませんでした。その割に手で引っ張ると簡単に外れるので、マグネットの強度は絶妙なバランスに設計されているようです。
このマグネットベースを複数のレンズにつけておけば、現場でのフィルターワークが早く、ローコストにできることになります。フィルター径の違うレンズはステップアップレンズで対応可能です(前述したケラレが心配ですが今回試した中望遠では問題なしでした)。
フィルム時代と異なり、後処理での色補正が容易になったデジタル時代。フィルターの使用頻度はその面倒くささもあって低下しています。しかし、動画のクオリティをあげるには、光の量に応じたNDワークがとても効果的です。
そんなフィルターワークを圧倒的に簡単でスピーディに行えるマンフロットのXUME。この新しいアプローチはもっと注目されて良いと思います。
▲マグネットベースは構造上のためかフィルター溝が切られていないので、普通のレンズキャップが装着できない。そのため磁力で付くキャップも用意されている。