vol.28「実際に空撮するまでのプロセスと カメラワークを解説」
文●野口克也(HEXaMedia)
東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空 撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/
誰もが空撮できる時代になってきたなかで…
数年前までは、一部の限られた人々しかできなかった「空撮」。それが今では、安価で小型なドローンが次々と発売され、飛ばす意思さえあれば、誰もが「空撮」できる時代になってきています。
そんな中で映像制作のプロの現場では、どんなプロセスで撮影が行われているのでしょう。今回は撮影までの準備や許可取り、空撮のカメラワークについてお話します。
実際の撮影に至るまでのプロセスは、映像の使用用途によって様々です。用途は主にTV番組、映画、CMや自主制作などでしょう。今回は、BS-JAPANで放送中のテレビ番組『空から日本を見てみよう+』で使われた、ドローンのインサートショットを例にとって説明していきたいと思います。
航空法の申請に加えロケ地の管理者への許諾も
まず、ドローンを飛ばす上で必要になるのが、航空法の認可です。細かい説明はここでは省きますが、この認可には2週間〜1ヵ月程時間がかかります。個別の案件ごとに申請をしていると仕事にならないので、まずは日本全国で1年間、有効となる包括認可を取ります。「人または物件から30m以内で飛行」、「人口密集地(DID)での飛行」、「目視外飛行」、「夜間の飛行」、これらは仕事をする上で最低限必要です。
次は撮影場所を管理する個人、法人、団体への撮影申請。これは場合によって難易度は変わります。電話1本、口頭で許可を貰える場合もあれば、様々な書類を交わしつつドローン空撮の必要性を説明し、口説く必要がある場合もあります。
特別に許可が下りた白川郷の撮影前夜
▲『天空の村 世界遺産白川郷合掌造り集落』。野口さんがテレビ番組『空から日本を見てみよう+』のロケで撮影した空撮ショットのみでまとめた作品。
今回紹介する白川郷の場合は、過去には比較的容易に許可が取れていたのですが、ドローン事故報道の増加や、外国人観光客などによるゲリラフライトも増えて、最近では基本的に禁止となっていました。それを担当ディレクターが白川村の観光課に働きかけ、時間をかけて口説いて、早朝の1時間だけ担当者同行の条件で、撮影許可を取ることができました。
YouTubeには、ドローン撮影が禁止になる前に撮影された白川郷の動画がいくつかアップされています。しかし、それらは数年前に撮られたもので、すでに古くなりつつあります。今回撮影に使用したドローンはDJI Inspire 2。レンズ交換ができる専用ジンバル一体型カメラZenmuse X7を使用しました。「せっかく特別に許可が出たのだから、アーカイブ的にも使えるものにしよう!」……と張り切りすぎました。
当日の撮影時間は短いので、前日に白川郷入りして、現地をロケハン。どの場所で、どのレンズを使い、どんなカメラワークをするかを予め考え、プランを組み立てました。自分の中でこうしたいというイメージは浮かんでくるものの、1時間という限られた撮影時間のため、捨てざるを得ないカットも多くありました。ロケハン後、白川郷内の民宿に泊まり、翌朝を迎えます。
いざ本番を迎える
撮影当日。立ち会いの観光課の職員と番組ADの2人が、一応は監視員としてついてくれるのですが、人員整理はできてもドローン撮影の補助にはなりません。基本的には1人での撮影です。
朝の1時間の撮影ということで、山の影が集落に落ちていると明暗の輝度差が気になります。「薄曇りくらいがいいなぁ」と思っていたのですが、期待を裏切って見事なまでの快晴でした(笑)。
実際のカメラワークを解説
ファーストカットは段の下の河原から飛ばし、クレーンアップ。上昇していくと河原に生えた木の向こうに合掌造りの集落が見えてきます。ここでは少し広い印象を与えたいので、DJI標準の15mmレンズを使用しました。続く横移動のドリーショットで集落を捉えます。
次は比較的被写体に近づいて撮影したカット。これはオリンパスの12mmレンズを使いました。このショットでも手前の木から集落へのクレーンアップ、低空で進んでいきます。事前に「建物の真上は飛行させないで欲しい」との要望があったので、家々を縫うようにフライトしました。ほぼ全カット、水田の上を飛んでいます。
ここで一度、集落全景を入れた大俯瞰を盛り込みます。せっかく自由に動けるドローン空撮なので、展望台がある山の上から上下方向の高度を落としつつ前進しながら集落にぐっと迫っていくカメラワークにしました。
明暗差の激しい場面はLog収録
次は山の影が集落に落ち込んで、やや黒く潰れてしまうような画になる構図です。DJIの撮影設定のカラーモードをスタンダードにして、陽が当たっている部分が白飛びしないように露出を合わせると、ダイナミックレンジが狭いため、日陰の部分が潰れてしまいます。
しかし、この時はD-Logで撮影していたので、暗部のディティールを活かしつつ、色をまとめられました。スタンダードのカラーモードも初期のDJI製品よりも、落ち着いてきて悪くはないのですが、輝度差(明暗差)が大きい被写体では、暗部が潰れる傾向があるので、そうした被写体を撮る時はD-Logを使って、後から編集で救うことにしています。色の好みは人それぞれですが、昔のリバーサルフィルムで写した色調の雰囲気を目指しました。
やや望遠気味のレンズを使ったショット
今回の撮影ではPhantomなどのレンズ固定のドローンが搭載する広角レンズでは写し出せないアングルを、いかにレンズ交換式のInspireで作っていくかが課題となりました。その課題に応えたのが次のカットです。ここではオリンパス25mmをチョイス。
眼の前の茅葺きの家を大きく写しながら横ドリーしつつ、高度を上げていくと、レンズの圧縮効果で密集している後ろの茅葺き集落が動きながら見えてくる…という狙いでした。横ドリーしながら下手(向かって右)から家が入ってきて、ゆっくりと高度を上げながらその家の周囲を旋回、その後木を避けるためにやや高度を上げつつなめらかに前進しつつ、カメラはチルトダウンします。25mmなので、繊細にゆっくりとチルト操作をしないと成立しないカットです。Inspire 2ですが、ワンオペでこなしました。
最後のカットはもう少し、どーん!と広角レンズで高く上げて谷全体と、後ろの雪山まで入るようなカットにしようと考えていましたが、時間切れで……。その25mmをつけたまま引いていくようなカットで、締めました。
ドローン空撮では4次元的な画作りを意識する
既にプロの方には釈迦に説法ですが、ドローン空撮を始めたばかりの方には、ぜひ「4次元的画作り」つまり、3次元の位置[高さ+高度+奥行]と速度[時間]。そして画角と構成を、まずは最初に絵コンテ的にイメージしてみてください。
ロケハンをして、どこからどう撮るか決定をして、それから必要なカットを撮影してゆく。そんなことを様々な映像をみながら学んでいくと、ドローン空撮映像のレベルアップになるかと思います。