THE BLUE HEARTSは、1995年の解散以降もパンクロックのレジェンドとして日本のミュージックシーンに大きな影響を与えており、国内で最も成功したパンクロックバンドのひとつだ。「THE BLUE HEARTSショートフィルムセレクション from ブルーハーツが聴こえる」は、そんな彼らの楽曲をテーマにしたオムニバスの短編映画企画。6人の気鋭の監督たちがそれぞれTHE BLUE HEARTSの楽曲を一曲ずつ選び、それをテーマに短編映画を制作した。6作品のうちの一つを監督したのが、この企画の立案者でもある工藤伸一氏だ。そして撮影された短編作品に狙い通りのルックを与えるために、グレーディングにはブラックマジックデザインのDaVinci Resolve Studioが選ばれた。

監督の工藤伸一氏(左)とカラリストの三浦徹氏(右)


工藤氏はBOAT RACE振興会、大正製薬、ブルボンといった企業のTVCM やミュージックビデオ作品を数多く手がける映像監督で、今回の企画では作品のテーマとして「ジョウネツノバラ」という曲を選択し、「frozen expectation ジョウネツノバラ」というタイトルの短編を撮影した。禁断の恋愛模様を描いたストーリーで、主演には永瀬正敏と水原希子を迎え、脚本は永瀬正敏によるものである。同作品は、ロサンゼルズ・アジアン・パシフィック映画祭にて、「フェスティバル・ゴールデン・リールアワード(短編部門)」/「ニューディレクター・ニュービジョンアワード(短編部門)」の2部門に正式ノミネートされ、その他さまざまな映画祭で上映が予定されている。また、日本国内ではゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016で上映され、高い評価を受けた。
約26分間のこの作品にはセリフがひとつもない。そのため映像の力で「魅せる」ことが不可欠であった。「26分間セリフなしで、どれだけもつのかも一つのチャレンジでした。そのため、観客を飽きさせないための画作りには相当こだわって、カメラアングルやトーン、グレーディングを含めて妥協せずに作りました。不安もありましたが、26分という尺をまったく感じさせない映像のパワーが伝わる作品になり、映画祭でも高い評価をいただけました」と工藤氏は話す。
シネマスコープの画角もそのこだわりの一つだったという。そのため、撮影にはアナモフィックのレンズが使用された。「一般的なレンズで撮ってそれを後でトリミングするのではなく、アナモフィックで撮るということにこだわって、テストグレーディングもかなり時間をかけました。グレーディングによって同じシーンでもこれだけ印象が変わるというのを実感しました。」(工藤氏)
アナモフィックレンズで撮影されたフッテージは縦方向が2倍の状態で収録される。
「Resolveはボタンひとつで、アナモフィックの素材をシネマスコープの画角に戻せるので、ひじょうに便利でした」と話すのは、同作のDITおよびカラリストである株式会社スパイスの三浦徹氏。VEやDITとして豊富な経験を持ち、現場でResolveを使って作業することが多く、近年はDaVinci Resolve Advanced Panelを導入しての本格的なグレーディングも手がけている。

グレーディング作業を行う三浦氏。三浦氏はビデオSALON11月号の特集「Blackmagic URSA Mini研究」でもブラックマジックデザインのURSA Miniについてお話を伺っている。
「撮影から作品に関わったので、現場にResolveを持ち込んで作業して、そのデータをグレーディングでそのまま引き継ぐことができたのも時間の節約になりました。」と三浦氏は評価する。「今回は低照度環境下での撮影が多かったので、現場では暗部が少し浮いたしっとりやわらかいトーンで行こうと考えていましたが、プレグレーディングの段階で試しにKodakのek200TのLUTを当ててみたんです。それは病室で登場人物が亡くなるシーンだったのですが、そのLUTを当てると暗部が締まりミッドとハイライトが上がって、独特のトーンが生まれました。フェイストーンが凄くマットな感じになって、現実とはちょっと違う雰囲気を作りだせたんです。」監督の工藤氏も、その病室のシーンについて「人が死ぬシーンとして今までで一番ではないかと思うくらい美しいものができました。まったく生々しくなく、ホラーな感じもありません。死というものをひじょうに美しく捉えられています」と付け加える。
撮影はデジタルで行われたため、フィルムの質感を引き出すことにも注力したと三浦氏は言う。「よりフィルムっぽさを出すためにResolveのプラグインで粒子を足しています。光学フィルターを使ってトーンの調整をすると平面的な効果しか出ないんです。今回は古いアナモフィックレンズの光学ブロックとResolveのプラグインやLUTを組み合わせて使いました。アナログとデジタルの効果を組み合わせることによって、より立体的にトーンが調整できるんです。」
「トーンの硬さや柔らかさ、シャープネスなどはResolveを使って処理をすると印象が全然違ってきますね。上に何かを乗せただけではなくて、きちんと画全体になじんでくれる。デジタルなのかフィルムなのか分からないようないいトーンが出ています。」(工藤氏)
最後に三浦氏はこう締めくくった。「今回初めて劇場公開の作品をグレーディングしました。本当は劇場用のスクリーンで作業したかったのですがそうは行かなかったので、モニター環境を完璧に合わせて作業したところ、劇場でも自分が思った通りのトーンが再現できていました。小さなハコですが、Resolveでここまで思い通りの色が作り出せたことは素晴らしいです。」
●予告編

●ブラックマジックデザイン
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