マリモレコーズ江夏由洋氏


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ソニーは今年のNABでPMW-F55と組み合わせる新しいレコーダーAXS-R7を発表。そのレコーダーで採用したフォーマットがX-OCNという新しいフォーマットである。X-OCNとは、Extended tonal range Original Camera Negativeの略。ソニーでは「RAWデータに比べてデータサイズを低減しつつ、RAWと同水準の高解像度、高色再現性、広いダイナミックレンジ情報を保持することにより、ポストプロダクション工程におけるカラーグレーディングや合成等の素材として圧倒的な自由度を提供する」としている。
 X-OCNは、RAWではなく、しかしXAVCのようなH.264コーデックを採用しているわけではないので「コーデック」でもない。技術的な詳細部分はブラックボックスなのだが、肝心なのは、ユーザーが運用においてメリットがあるのかどうかという点だろう。
 今回、マリモレコーズの江夏由洋さんが、PMW-F55とAXS-R7で4K HDR、しかも120pを多様したサンプルムービーを作成したというので、主にX-OCNの使い勝手、画質、ワークフローについて取材した。



収録について

前述のようにカメラはPMW-F55。レコーダーはF55との装着を想定して開発されたAXS-R7。ボディの高さも同じで、まるで一体型カムコーダーのようである。R7と組み合わせることで、4K RAW収録、しかも120pでの記録が可能になる。江夏さんは4K/120pをどうしてもやりたかったという。この組み合わせの最大のポイントがそこだと力説する。映像はHD、2K、4Kといった画面解像度をアップすることで、クオリティが上がっていくが、フレームレートという時間解像度は後回しになりがちだった。これまでは120pの場合は、HDに落とすしかなかったが、空間解像度とともに時間解像度を上げることで、一皮向けた新しい映像世界を見せることができる。


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記録メディアはAXSメモリーカード。より高速のAXS-A1TS48(1TB)と、AXS-A512S48(512GB)が新たに加わった。512GBのカードでの記録時間は4K RAWで23.98p時には60分だが、120p時にはわずか11分しか撮れない。X-OCNには、STとLTの2つのモードがあり、記録時間が変わってくるのだが、STでは同じく120pで16分、LTでは27分と記録時間が増える。データ量はRAWに対してSTは約7割、LTであれば約4割になる。120pともなると記録容量が問題になってくるので、これだけでX-OCNを選択する意味が出てくる。
 23.98pであればSTで84分と充分な記録時間になる。今回のサンプルムービーはトータルで3分弱なので、素材としては512GBでカード1枚で余裕で足りたという。


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 現場のモニタリングはATOMOS SHOGUNで行なっている。F55でS-Log3撮影。カメラからはHD-SDIからOUTが出るので、モニターにはLogの状態を表示させ、SHOGUNではモニターにLUTを当てREC709の状態にして確認した。最終的にはHDRとして仕上げをしている。X-OCNだからといって、モニタリングが不便になるということはなく、従来のXAVCやRAWとまったく同じである。今回のフッテージでは、X-OCNをメインに比較するためにシーンによってはRAWでも収録した。


特別ではないX-OCNのワークフロー


 X-OCNで撮ったAXSメモリーカードをアダプターに入れて、中のファイルは見てみると、MXFファイルになっており、実はRAWと変わらない。フォルダ構造も複雑ではなく、Clipフォルダの中にワンショットずつのフォルダがあり、その中にmxfファイルが格納されている。Finderでコピーをするだけだ。


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X-OCNフォーマットで収録されたデータは、ソニーが提供するRAW Viewerで現像や変換などができる。さらに主要グレーディングソフトでも対応予定となっている。現状ではブラックマジックデザインのDaVinci Resolve12.5.1ですでに対応しているので、それで直接読み込むことができる。


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X-OCNはRAWではないと言うが、DaVinci ResolveのCamera RAWのウィンドウを見てみると、Sony RAWと表示され、色温度をはじめRAWと同じパラメータをいじることができる。つまりRAWと同じ16ビットの階調データを持ち、RAW同様にパラメータをポストプロダクション段階で調整することができるというわけだ。


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 素材はRAWと比べて全く遜色はなく、サンプルムービーではRAWとX-OCNを両方使用したがその区別はつかないという。作業においては、プレビューでRAWのほうが重くややカクつく程度。120pは60pに比べるとややノイズが多いかなというくらい。
 編集素材はソニーのプロフェッショナルRAID(6TB)に入れて運用しているが、4K RAWとファイルの大きさには悩まされてきた。クオリティで区別がつかないのであれば、X-OCNにすることで少しでもデータ容量が小さくなるのは助かる。


 今回の作例は4K HDR仕上げということで、ダイナミックレンジの限界に挑戦する意味で、花火を背景したモデルや、防空壕のなかでライトを持つなど通常のSDRではダイナミックレンジ的に厳しい、輝度の立つシーンを設定して撮影した。HDRの効果を確認しながら編集するにはHDRに対応したモニターが必要になるが、今回は、編集時にだけソニーの有機ELタイプのマスターモニターBVM-X300を使用した。


撮影した映像より(グレーディング後)
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まとめ 
X-OCNで4K HDR、120pという新世代の映像制作が手軽になる

 4KとHDR、そして120pが組み合わされることによって、次の世代の高画質が見えてきたよう気がすると江夏さんは言う。8Kというと、まだ見せる環境が整っていないので現実的ではないが、4K HDRはすぐそこにある。
 江夏さん自身、HDRには実はあまり乗り気ではなかったのだが、ここ数ヶ月で依頼も増え、自分でも制作するうちにその魅力と凄さが実感として分かってきた。SDRからHDR(ダイナミックレンジだけでなく色域の拡張含む)への進化は、HDから4Kになった以上の驚きがあると言う。
 ソニーPMW-F55とAXS-R7、そしてX-OCNという選択肢は、4Kを16bitのシーンリニア収録し 、4K HDRで仕上げるという新世代の映像制作のワークフローを、少人数のロケスタイルと手持ちの編集システムで実現してくれるシステムだと言えるだろう。
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