文・写真●染瀬直人
360度VR動画編集に新しい流れ!?
中国・深圳に本社を置くVRカメラ・メーカーの企業Shenzhen Arashi Visionは、アドビシステムズとの連携により、Adobe CreativeCloudの動画編集ソフトウェアPremiere Pro用の新しいプラグインを開発した。この拡張機能をインストールすると、6眼レンズから成るプロ・ハイアマチュア向けVRカメラであるInsta360 Proで撮影した素材フッテージを、ステッチ作業の前の段階から、直接、Premiere Proに読み込み、編集作業に取りかかることができる。このプラグインは無償で提供され、今4半期中(4〜7月)にPremiere Pro CC 2017以降のユーザーに提供される予定になっている(2018年4月23日 ロサンゼルス時間)。
プロ向けVRカメラは、基本的に全方位に向けて配置した複数の多眼レンズで構成されている。従来までのワークフローでは撮影後に複数の素材をステッチングソフトウェアでステッチして合成することにより、360度を満たしたひとつの全天球映像を生成できる仕組みになっている。ステッチングソフトには、フランスのKolor社のAutopano VideoやスペインのSGO社のMistika VRなどがある。また最近の一体型VRカメラには、専用のステッチングソフトが同梱されている場合がほとんどで、Insta360 ProであればInsta360 Pro Stitcherがそれにあたる。
Arashi Visionが”NoStitch”編集と呼ぶ新ワークフロー
Premiere Pro用の新しいInsta360 Proのプラグインをインストールすると、Premiere ProにInsta360 Proのステッチ前の素材を直接読み込むことができるようになる。今回、開発されたプラグインでは、まず簡易的なステッチの低解像度のプロキシバージョンが生成される。Premiere Proユーザーはそれを用いれば、ステッチングソフトでの工程を経なくても、スムーズに編集に取りかかることができる。プロキシバージョンを使って、自分のプロジェクトにとって必要な部分だけ、カットして作業することができるのだ。最終的には、使用したい部分のフッテージだけが書き出し時に本ステッチされ、使用しないフッテージをステッチするために費やされる無駄な時間を避けることができ、合理的と言える。 ステッチング時間は大幅に短縮され、プロキシバージョンを生成するために必要なものだけになる。
また、これまでのワークフローでは、2つの圧縮がおこなわれていた。1回目は最初のステッチングソフトにおけるステッチのレンダリング時に。2回目はポストプロダクション編集後の最終的な書き出し時にである。この新たなワークフローでは、編集時のプロキシバージョンに対するあらゆる調整や変更が、非圧縮のまま適用されて、圧縮はPremiere Proの書き出し時にステッチングされる時のみになる。
このようにステッチのポストプロダクションが簡素化されることにより、VR動画参入へのハードルが下がり、360度ビデオ業界がさらに活性化する可能性が高まるだろう。クリエイターは時間を節約することができ、圧縮も最小限に抑えられ、すべての作業が完了した後に本ステッチをともなう最終的な書き出しがおこなわれるという訳だ。
VRポストプロダクションの効率化に期待が持てる
このプラグインのステッチの精度については、まだ検証できていない段階なので何とも言えない。これまでもメーカーの付属の専用ソフトでは、ステッチの精度や、レンダリングのスピードにおいて、 専門のステッチングソフトウェアには及ばない場合があり、それ故に高品質な成果物を期待する場合はMistika VRやAutopano Videoなどを使用することがあった。
実際、Insta360は、先ごろMistikaVRとの提携も発表している。また、撮影時にInsta360 Pro以上のビットレートや、大型のセンサーを搭載したカメラを使用した撮影を求めるハイエンドなクリエイターも存在するので、全ての制作がこのフローでOKとは言えないかもしれない。とはいえ、ステッチと編集の過程が合体した新しいフローは、360度VR動画制作において、画期的な開発であることは間違いない。VR動画編集がまた新たな段階を迎えたと言えることは確かだ。
●ニュースリリース(英文)
http://blog.insta360.com/insta360-pro-adobe-premiere-pro-cc/