TEXT&MOIVE 斎賀和彦
駿河台大学メディア情報学部教授。デジタルハリウッド大学大学院客員教授。 元テレビCMディレクター。ハイエンド編集システムの公認トレーナーを経て、現在は大学、大学院で理論と実践の両面から映像を教える。企画、撮影、編集まで、可能な限り自分で行うのを主義としている。美しい機械と美しい女性が好き(駄洒落も好き)。
EOS 5D Mark IIではじめてフルサイズセンサーで動画を撮った日から、わたしにとって一眼動画とはEOSムービーのことでした。キヤノンが力を入れて一眼ムービーの機能とクオリティを最高レベルに追求していったかわりに、ボディは大きく重くなりました。今のわたしの主力機EOS-1D X Mark IIに24-70mmF4の標準ズームを付けると2.1kgを超えます。本気の時や仕事では気にならないけれど、遊びや家族旅行のときはためらう大きさと重さです。
そんなわけで昨年、オリンパスのOM-D E-M5 IIをサブ機として買いました。12-40mm(換算24-80mm)レンズをつけて850g、仕事鞄に入る日常使い一眼として愛用しています。動画の手軽さとクオリティのバランスがとても良く、気に入っていますが、いろいろな部分で割り切って使い分けをしていたことも事実。その証拠に持ち出す割合はEOS:OM-Dで4:6なのに、撮った枚数は7:3でEOSのほうが多いのです。
そんな中OM-Dのフラッグシップがフルモデルチェンジ、相当気合いの入ったスペックになっています。
▲右はわたしの現在のメインカメラ、EOS-1D X Mark II。今回のOM-D E-M1 Mark IIを横に並べてみるとこれだけサイズが違う。
OM-D E-M1 Mark II(以下E-M1 II)はスチル機としては新次元の高速連射と手ブレ補正、動画機としては4K対応が大きな特徴です。まずはスチル機として見てみましょうか。OM-Dのボディ内手ブレ補正には定評のあるところですがE-M1 IIはボディ単体で5.5段分レンズ内手ブレ補正と連携する「5軸シンクロ手ぶれ補正」で6.5段という公称値を誇り、海外では5秒の手持ちスローシャッターでぶれなかったといった作例が話題になっています。
いやいくらなんでも手持ち5秒でぶれないってのは嘘だろうとやってみました(写真1)。写真歴も長いわたしですが自分のなかの常識が崩れていく気がします。
(写真1)
(写真1の部分拡大)
これは夜景でも大きな力になり、夜の長時間露光というこれまでなら三脚必須だった撮影が手持ちで可能になる時代が始まったのかもしれません(写真2)。手持ちで長時間露光が可能になるとその分ISO感度を低くできるので結果的にS/Nを含めた画質も向上します。
(写真2a)手持ちでシャッタースピードを変えて撮影した画像の部分拡大
(写真2b)上の部分画像のカット全体
スチルの場合は秒単位のスローシャッターも有効ですが、1/30秒や1/60秒がシャッター速度の下限となる動画ではどうでしょう。実は個人的にいちばん興味があったのもそこ。4Kの手持ち動画撮影って現実的なのだろうか?
結論から言えば激しくカメラを動かさなければ充分手持ち4K撮影が可能に思えました。
というのも手ブレ補正に頼るだけでなく高感度特性も明らかに向上していて、E-M5 IIではISO3200でも厳しかったのですがISO6400でも実用域に感じられました。また動画時の手ブレ補正がE-M5 IIよりも丁寧な(?)挙動をします。
ミラーレス機ゆえファインダーはEVFになるのですが、それゆえ動画撮影時にEVFに接眼した姿勢での操作が行えます。これは一眼レフにはないアドバンテージだろうと思います。
画質という面では単に4KではなくD
CI-4K(本機ではC4K:シネマ4Kと呼称)を選択できるのもユニークですが、E-M1 IIの4KとC4Kは較べると明らかに画質が違います(写真3)
(写真3)
割り当てられているビデオレートが違う(C4Kが倍以上)ので差があるので予想はしていましたが、このくらい差があると映画でなくてもC4Kを使いたくなります。
ただしE-M1 IIのC4Kは24pオンリーなのでアスペクトレシオの違い(FHDや4Kは16:9、C4Kは17:9)も含めて混在編集時には注意が必要です。
今回、4K、C4Kを混在させながら全カット手持ちで撮影してみました。
OM-D E-M1 Mark II 4K from SAIKA on Vimeo.
12-100mmというフルサイズ換算24-200mmで、かつボディとレンズの連携した手ブレ補正はひじょうに効果的。この組み合わせは旅行やスナップ撮影に最強の4Kカメラになり得ると感じます。一方、全域F4とはいえマイクロフォーサーズのセンサーは小さいので被写界深度でいえば(フルサイズ)F8相当。背景ぼけを活かした浅い映像表現には不向きです。マイクロフォーサーズはレンズもコンパクトなものが多いので明るい単焦点レンズをカバンに入れておくと、より楽しいでしょう。
動画オンリーということならセンサーサイズの大きいビデオカメラも充実してきました。手持ち撮影の場合ではそのほうが使いやすいはずです。一方で一眼動画は進化の途中段階とは異なり、今は写真と動画を高い次元で両立させる方向に軸足を向けているように思います。
小型軽量で、スチル機としても動画機としても新しい時代を感じさせるスペックをもったE-M1 IIは、わたしにとって気軽に持ち出せる最高のサブカメラになりそうです。