第3回ヒマナイヌスタジオの映画的アングル手法
写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)
テレビと映画の映像技法の違いを理解することが第一歩
ヒマナイヌスタジオは自動スイッチングによる無人オペレーションシステムをコアにしたライブ配信スタジオです。今回はその「自動スイッチング」と「対談と鼎談」というコンテンツを成立させるための映画的アングル手法について解説したいと思います。
テレビというのはニュースでもバラエティでも天気予報でも生放送されているものはだいたいカメラ目線で出演者がこちらに話しかけてくるスタイルです。一方で映画というのはカメラは常に主人公たちの行動を盗み見るように捉えます。会話のシーンでは互いの目線に近い位置からカットを切り返すというのが定石です。ヒマナイヌスタジオはスナックの隣の会話を聞いているようなライブ配信を目指しているのでテレビではなく映画の文法を取り入れようと考えました。
ライブ配信のスクリーンサイズを前提に絵作りを考える
それがテレビであれ映画であれライブ配信であれ最終的に視聴者がどんな画面サイズで見るのか?は映像設計をする上で重要な要素となります。テレビは50インチ、映画は映画館の大スクリーンとすればライブ配信は5インチのスマホになります。パソコンで見る人はいますが、今の主戦場はスマホの縦で見るというレイアウトです。
横なら映像は5インチですが、縦なら下にコメント欄がついた実質2インチ程度の映像になります。この極めて小さな画面で印象的な画面にするため、ヒマナイヌスタジオのカメラは人の表情だけにフォーカスしています。
被写界深度を浅くして背景から人物のイキイキした表情を浮かび上がらせることはもちろん手のリアクションが入るギリギリの寄り絵にしています。人が一番興味を引くのは人の表情の変化だからです。
自動スイッチングで飽きないアングルを作る方法
次に、4カメが入力順に切り替わっていく自動スイッチング(VR-4HDの機能名ではオートスキャン)で飽きないアングルを作るにはどうしたらいいのでしょうか? まず映画的な手法としての切り返しアングルを作ります。
ホストとゲストが対談している場合、まずはゲストを横から捉えるアップ(1カメ)、次にホストのアップ(2カメ)、次にホストの対角から見たゲストのアップ(3カメ)です。1カメと2カメは同じ画角にすることが好ましく、カメラ位置、人物位置、レンズ焦点距離のバランスが極めて重要となります。
このベースとなる2アングルに加え、3カメではズームレンズを使って、ホストの対角線上にいるゲストの顔を捉えます。時にはホストの肩を写り込ませて肩越しのショットにするということもあります。
4カメでは、ホストとゲストが対面しているという状況がわかるアングルを作ります。これは映画ではエスタブリッシングショット(状況説明用のショット)と呼ばれるものに相当します。
次に、こうして作った4つのアングルを「時間軸でどう構成していくか?」を考えます。
◉各カメラのアングル(焦点距離は35mm判換算)
【1カメ】
▲ (自動スイッチングは1→2→3→4→1→2…の順になる)。120mm/F2.8レンズによるゲストの顔。
【2カメ】
▲ 120mm/F2.8レンズによるホストの顔。
【3カメ】
▲ 70-200mm/F2.8ズームレンズによるゲストの顔。ホストの肩を写り込ませて、肩越しのショットにすることも。
【4カメ】
▲ 40mm/F1.7レンズによる全体ショット。
たった4つのアングルの繰り返しで2時間持たせるコツ
自動スイッチングによるライブ配信はたった4つのアングルを繰り返すだけです。通常のマルチカメラによるライブ配信ではカメラマンがその時にあったアングルをズームレンズとカメラワークで作り、それをスイッチャーが最適なタイミングで挿入していき、映像の変化を作っていきます。
それに比べると自動スイッチングは極めて単調なものになってしまうリスクがあるが、「人の表情」にフォーカスすることで想像以上にダイナミックでスリリングなコンテンツになり得ることがわかりました。
人間の表情は常に変化し続けるので、7秒ごとの自動スイッチングでも視聴者は映像の時間の中にゆらぎを感じ、説明しない限りそれが自動スイッチングであることに気づかないのです!
そのために重要なのが、奇をてらったアングルにしないということです。4台のカメラをもうこれ以上ないというくらい映画などで見慣れたベーシックなアングルにすることで自動スイッチングの繰り返し感を消すことができます。
映画の手法をライブ配信に応用し、自動スイッチングでコンテンツを量産するのがヒマナイヌスタジオの特徴。次回は人の声にフォーカスしたサウンドデザインについてお話します。
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ヒマナイヌスタジオのオリジナル番組『動く人間図鑑』は毎回濃いキャラクターのゲストを迎えるサシ飲み番組! ヤクザな事務所でバイトしてた頃の仰天エピソードを披露するダンバヤシタマミさんの強烈なトークをどうぞ!
●ビデオSALON2018年10月号より転載