第4回人の声にフォーカスしたサウンドデザイン

写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)

 

目指すはラジオ!音だけでも成立するコンテンツ!

ヒマナイヌスタジオが人の表情にフォーカスしたカメラアングルを採用していることを前回はお話しました。今回はサウンドデザインの話です。お手本にしているのはラジオの音。ラジオは人の声を中心として構成されており、視覚を使わず何かをしながら音声を楽しむメディアです。「対談と鼎談」をライブ配信するにあたり、映像を見ていても人の表情や仕草などが鮮明に見えておもしろいけれど、音だけを聞いていてもラジオのように楽しめるようなものを目指したいと考えました。

 

絵の中で主張しすぎないマイクは何か?

マイクには様々な種類がありますが「対談と鼎談」においてはマイクは目立たなければ目立たないほどいいと考えました。カラオケボックスで使うようなハンドマイクは見た目からして馴染まないので選択肢から排除します。会議室などにあるグースネックマイクもバーカウンターのセットでは違和感があります。なるべく絵の中で主張しないマイクを考えると選択肢はラベリアマイク(通称:ピンマイク)、バウンダリーマイク、ガンマイクが残ります。スイッチャー兼オーディオミキサーであるローランドVR-4HDの能力や設置位置を考えて、この中から2つの方式を選ぶことにしました。

●ワイヤレスラベリアマイク・ゼンハイザーAVXを採用


▲ワイヤレスマイクはWi-Fiと同じ2.4GHz帯を採用しているものが多く、イベント会場など複数の電波が飛び交う場所では混線を起こすこともある。ゼンハイザーAVXは1.9GHz帯を採用しており、混線の心配が少ない。

 


▲出演者に取り付けるAVXのラベリアマイクと送信機。

 

 

 

ラベリアマイクは演者の胸元につけて集音できるのでクリアな集音が期待できます。VR-4HDはXLR入力が4系統あるので4本のマイクを使うことができます。カウンターはホストとチーママに加え、ゲスト1名もしくは2名を前提に設計しているためゼンハイザーのAVXシリーズを4セット導入しました。AVXシリーズは1.9GHz帯の電波を使っており、干渉波が入ってきても自動的に空いてる周波数に逃げてくれる機能があります。また同程度の値段のB帯ワイヤレスシステムと聴き比べた時に集音特性が極めてよく、圧縮感も気にならなかったので採用しました。

 

 

AVXシリーズの運用で重要なのが受信機同士の距離

ゼンハイザーのAVXシリーズは超小型の受信機が特徴的な製品です。業務用ビデオカメラのXLR端子に直接挿してインタビューなどをするのに便利な形状なのですがVR-4HDのXLR端子に4つの受信機を挿すと互いの距離が近すぎて電波干渉が起こります。具体的には特定のチャンネルの声が急にロボットボイスになるという現象が起こります。この現象を回避するためには受信機同士を離す必要があります。XLRの延長ケーブルを使い、それぞれの受信機を15cm程度離して設置したことでこの現象はほとんど起きなくなりました。


▲ローランドVR-4HDのXLR入力端子。

▲VR-4HDのXLR端子にAVXの受信機をそのまま挿すと複数マイクを使った場合、各マイクが電波干渉を起こす。そのため、別のケーブルで物理的に距離を離して、干渉が起こらないようにしている。

 

 

ゲストが頻繁に入れ替わる状況に対応するには?

ラベリアマイクは演者のシャツの下からケーブルを通したりスーツの裏側にパーマセルで固定したりと事前にフィッティングする必要があります。女性の服などはクリップをつける場所が少なくケーブルの逃し方などに苦労するところです。対談中にゲストの入れ替えがある場合はミキサーのフェーダー操作に加えマイクの付け替えなどの作業が必要になります。

その場合は現場が無人で運用できなくなるのでラベリアマイクではなくバウンダリーマイクを使います。机面に設置して集音するバウンダリーマイクはコップを置いたり、紙をめくる音などの混入に注意する必要がありますが、一度設置したらそのまま運用できるので便利です。バウンダリーマイクはホスト側に1本、ゲスト側に1本設置します。

 


▲テーブルマイクはカメラに写したくないため、バウンダリーマイク(オーディオテクニカAT841b)を使用。

 

VR-4HDのオーディオディレイは100〜120msに設定

スイッチャーを使う時に重要なのがリップシンクです。カメラだけの同録ではほとんど考える必要がない項目ですが、スイッチャーは映像処理のため音より絵が数フレ遅延します。この遅れる絵に合わせて音をディレイさせる機能がVR-4HDにはついています。カメラのHDMI出力性能などによってこの最適値は変わるので誰にでもオススメできる数値というのは言及しにくいのですが、概ね100〜120msでリップシンクが合うはずです。この機能は自動スイッチング機能を搭載したスイッチャーとしてはVR-4HD以外にもV-1HDやV-60HDにも備えられています。

 

人の声を聞きやすくするために最適化した音声設定

これらの入力音声をVR-4HDのEQやコンプ機能を使ってラジオの音に近づけていきます。空調ノイズなどはローカットで落とし、高域も少し絞り人の声の中域を上げていきます。これにコンプなどを組み合わせて、急に大きな笑い声などが発せられても音が破綻しないような最適値を探ります。VR-4HDには自動ミキシングもついているのでこれらを組み合せることで無人オペレーションとは思えないサウンドに仕上げることができます。ラジオの音声をお手本に人の声を聞きやすくチューニングしているのがヒマナイヌスタジオの特徴です。次回は飲食店のように見える照明デザインについてお話します。

 

PICK UP CONTENTS! ヒマスタの収録動画を紹介

ヒマスタ3分動画  「動く人間図鑑:柴田大輔」より抜粋

ヒマナイヌスタジオのオリジナル番組『動く人間図鑑』は毎回濃いキャラクターのゲストを迎えるサシ飲み番組! 「Tinys Yokohama Hinodecho」のコミュニティビルダー柴田 大輔氏による関係人口トークをどうぞ!

 

●ビデオSALON2018年11月号より転載