Report◉岡野 肇 協力:キヤノンマーケティングジャパン

 

ホール等で、コンサート・リサイタルや講演会、各種イベントを主にマルチカメラで収録する映像制作分野においても、マルチカメラの1台に4Kカメラを用いるケースは珍しくなくなってきた。ただし、この仕事の性格上パッケージで納品することが多く、最終的に4Kで届けるにはまだメディアが一般化されていないので、いまだにDVDやブルーレイでの仕上げがほとんどである。撮影した4K素材は「自由にトリミングができる」ものとして使用し、重宝している。今回、4K/60p撮影が可能なキヤノンのXF400を現場に導入したので、撮影・編集の両面からレポートしてみたい。

 

30pと60pの違い

私が最初に導入した4Kカメラは第1世代とも呼べるもので、1型センサーではあるが30pにしか対応していない機種だった。インターレース素材との混在において特にパラパラ感を強く感じて戸惑ったが、4K導入のメリットを優先して渋々導入したという経緯があった。そして今回、初めて仕事の現場においてXF400で4K/60pを使うことになり、大きく考えを改めることとなった。

本来はシャッター数値でも感じ方は変わってくるが、私の現場では蛍光灯下でない限り、シャッタースピードはほぼ1/60で使用するため、30pと60pの差が大きく出る。今回、60iと30p、60pで撮影してみたが、これまで慣れ親しんだ60iと60pの差はわからなかった(pであることの違和感は感じなかった)。

30pでは特に被写体の動きやカメラの動きに対して顕著にパラパラ感を感じてしまっていたが、60pはそのパラパラ感がなくなったというより本来プログレッシブ撮影のメリットであるシャープさや高解像度感がプラスされている。もはや「iとpの混在」という言葉もいらなくなり、60pで統一したい願望が生まれてきた。

実はこれまでも視聴者やクライアントからは30pの素材が混じることに対するクレームは皆無であったのだが、制作者の目線からすると気になっていたという人もきっと多いと思う。60pを体験することで今度は制作者である私自身が納得した、という少しややこしい結論を出したいと思う。

最終的にはHDの60iにするわけだが、私のシステムでは4K素材は解像度を落とさないままProRes 422に変換し、HDのタイムライン上で自由に拡大・トリミング・ズーム・パンさせて使用している。

 

4K/60pはくっきりと、しかもパラツキは抑えられる


▲当然、動きのあるシーンだと60pと30pで大きな差が出る。動画として見ると60pのほうが自然に見える。ちなみに画角だが、トリミングをすることを前提に中途半端な画角にしている。

 

Wide DRの効果は絶大だった

今回の撮影で特に楽しみにしていたのがWide DR機能だ。舞台撮影では避けて通れないシチュエーションがあるからだ。それはピンスポットの使用や照明効果で舞台の明るさが大きく変わること。特に4Kカメラ無人固定設置の場合、マニュアルで操作できないからだ。今までは長年の勘でオートアイリスの設定をある程度暗めに設定し、編集上で調整していた。まあこれを長年標準としてきたわけだが、この措置は白とびを抑えることに力点を置いているため、暗めのシーンではかなりアンダーに撮れてしまい、編集時に調整するとどうしても取りきれないノイズが増えるというリスクもあった。

今回、今までのカメラとXF400のWide DR機能を使ったカメラとを隣に並べて撮影したのでその違いがよくわかったのだが、Wide DR機能で撮影すると、やはり全体的に多少明るさが抑えめに撮れるが、従来の方法ほど極端でなく、ノイズも問題なく編集上の調整で解決する。それに小さい範囲の白とびも抑えられていてかなり精細に輝度を調整したようなイメージを受ける。


▲カメラは通常のシステムとは別にXF400を2台用意。前方と後方に一台ずつ。これは前方のカメラ。

強固な筐体が安心感に

最後に、このカメラそのものの感想を述べよう。まずは筐体だが、以前から私が使っていた家庭用1型4Kカメラを一回り大きくした程度のコンパクトさは、大荷物になってしまいがちな舞台撮影の現場ではとても助かる。材質的に強固な上に軽くて、手触りも良い。このことはカメラマンの心理的な安心にも繋がると思う。

液晶画面も明るく見やすく、これも安心につながる。舞台記録撮影はやり直しのきかないものを撮影する性質上、この「安心」につながることは些細なことでも嬉しい。余談かもしれないが、客席の最後列に配置したのにカメラマイクの音がしっかりしていることに驚いた。もちろんかなりオフマイクにはなっているがパンチの効いた力強さを感じた。

今回このカメラを私の現場で使ってみて、すぐにでも今の4Kカメラと入れ替えて使ってみたいと思ったというのが素直な感想だ。


▲前方のカメラのフォーカスは、事前のゲネプロでマニュアルで合わせた。ピント位置表示が分かりやすい。


▲XF400の4K/60p、Wide DRで撮影したものから調整した動画のタイムラインから1コマ抜き出したもの。

 

【作例】

一台は舞台後方、もう一台は舞台前方(ただしオーケストラピットが間にある)で、2台とも4K/60p、Wide DRでの据え置き撮影です。最終的な納品がDVDのため、編集のタイムラインは1080iにしています。そのためYouTube上では動きのある部分でわずかにジャギーが出てしまっていますが、YouTube納品でしたら、1080/60pタイムラインにするといいでしょう。素材は4K/60pで、編集時にそこからズーム、パンなどの切り出しをすることでカメラワークをつけています。

2018年9月30日(日)練馬区立練馬文化センター大ホール(こぶしホール)
●撮影協力:ガレリア座 第31回公演 オペレッタ・プロジェクト21

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ビデオSALON2018年12月号より転載