プロフィール
脚本、監督、撮影、編集、音楽を一人でこなす映画作家。モナコ国際映画祭:最優秀撮影監督、脚本、音楽、アートフィルム賞。ロンドンフィルムメーカー国際映画祭:最優秀監督賞。アジア国際映画祭:最優秀監督賞。最新作『千年の糸姫/1000 Year Princess 』はアメリカSMGグループから世界配信中。
第12回 いくつかの小さな光源を駆使して センシティブで立体的なライティングをモノにしてほしい
ここまで構図について背景やボカシをコントロールして撮り手の意思を表現することを学んできたが、一つの考え方として、目の前にあるものから引き算して一点を強調したり、キャンバスを立体的にすることができると映像がダイナミックになると言える。
逆に画面いっぱいにすべてを鮮明に見せ続けていると散漫になり、視聴者の感覚も麻痺してくる。映画という時間的変化の中でその押し引きが重要なのだ。その引き算の究極が闇、影を使うというもので、裏を返せば自然光を含めて照明をどう使うかということだ。
ここで再認識しておきたいのは、カメラの技術の進歩の中で特に重要な感度の飛躍的な向上という部分だ。照明の技術に関しては昔から多くの素晴らしい教則本や学校まで存在するが、そこで教えられることから、さらにカメラの感度向上を踏まえて大きく考え方を変えなくてはいけないところもある。最高感度で夜の森でも撮れるというだけではなく、わずかな光でもノイズの少ない美しい影が撮れるということだ。ノイズを嫌って感度を上げず、まず強いライトを当て、そこでできてしまった影をこれまた強いカウンターライトで消すといった方法はもう必要なくなったのだ。キーになるライトの光量を減らせば、より自然で柔らかい画になるし、手頃なライトを使って丁寧で自由なライティングができる。そこで生まれる光と陰を構図にもうまく利用してほしい。影や暗部といったものは、もちろん画を立体的にするものだが、要らない物を消すだけのものではない。陰そのもので人の感情やシチュエーションを表現するべきものなのだ。
特に人を撮る時にはそのエネルギーが例え暗闇であってもそこに映り込む。美しいものにただ光を当てて見えやすくするのではなく、陰も含めてフレーム全体の構図を考えてほしい。そして陰の深さ、重さといったものを、0か100かではなく、センシティブに使いこなせるようになれば立体感は増し、そのカットの持つ意味合いや作品性は視聴者にじんわりと伝わっていくものだ。
▲主体を中央に置いてしっかりライトを当てると、確かに安心して見られるし美しさを損なわないのかもしれない。だがこの時、暗部はただの黒バックで何の意味も持たない。つまり女優の姿しか写っていない凡庸な構図となる(左)。続く2つは光の方向、そして何より視線の持つエネルギーによって女優の左右の闇が全く違う意味を持つ。向かって左の闇には視線が放つエネルギーがあり、右の闇には彼女を押しつぶすかのような重さがある。どちらかの闇を多く配置することで実際真ん中の構図は重く苦しく、右の構図は希望につながる明るさがある。(女優:細田英里 ヴィヴィアンInternational Agent Office所属)
余談だが、私の作品はよく暗いと言われる。だがそういうことを言う人のほとんどがカメラマンを含む映像技術者達であったり、ニュースやバラエティー番組を基本に考えている人だったりするが、多くの視聴者は画面の持つ印象をそのまま受け取り、感じ取ってくれている。私は親切で優等生的な映像を目指しているわけではないので技術者のロジカルな意見には耳を貸さない。とは言え暗けりゃいいってものでもない。そのシーンの持つ意味合いや作品性などによって、またその時間的変化も踏まえて、場合によっては飛んでしまうほど明るくすることもある。
大切なのはそのダイナミクスを大きく自由に使うこと。そして重ねて言うが、今時のカメラはその幅を拡げてくれているということだ。
加えて照明機器の進歩も目覚ましい。特にLEDは小さなバッテリーでも充分使えるし、値段もドンドン下がっている。ぜひそういう物を手に入れていろいろ研究してもらいたい。大きな物をドンと買うより、いくつかの小さな光源を駆使してセンシティブで立体的なライティングをモノにしてほしい。ほとんどのシチュエーションで光量は充分だろう。もし足りなくなったらその時に大きい物を用意すればいい。
そういったライティングのお手本はまだないと言ってもいい。私たちの試行錯誤にかかっている。古典的な映画ではよく見られる、昼間に撮ってそれを夜のように見せる加工も必要ない。闇や陰を味方に付けて夜に撮ればいいのだ。暗い部屋で撮ればいい。機材が進歩する分、私たちも進化しなければならない。
▲最近手に入れたNANGUANG RGB66( スタジオポリゴンズ:http://store.polygons.jp/fs/polygons/RGB66)というLEDライトは素晴らしい。基本的な色温度調節はもちろん、ディフューザーはハードとソフトの切り替え、さらにはRGBを自由にブレンドできる着色ライトまでが、フィルターを一切使わずスイッチで切り替えられるという魔法のようなライトだ。それで2万円以下という価格なので、迷わず2つ購入し、現在試行錯誤を繰り返している。一回り大きなモデルもあるが、被写体の近くでセンシティブに使いたくなるライトなので小さいほうを選んだ。
●ビデオSALON2019年3月号より転載