ふるいちやすし プロフィール
脚本、監督、撮影、編集、音楽を一人でこなす映画作家。モナコ国際映画祭:最優秀撮影監督、脚本、音楽、アートフィルム賞。ロンドンフィルムメーカー国際映画祭:最優秀監督賞。アジア国際映画祭:最優秀監督賞。最新作『千年の糸姫/1000 Year Princess 』はアメリカSMGグループから世界配信中。
第15回 ジンバルは個人制作にとって画期的なツールだが、 機材に“使わされる”ことのないようにしたい
前回お話しした三脚以外にも、様々な“動き”を助ける機材がある。ジンバル、スライダー、ドローン、ジブクレーン等々。その中で電動ジンバルの最近の進化と低価格化は目を見張るものがあり、デジタル一眼にそこそこ大きなレンズを付けても大丈夫な物が5万円前後で買えるようになった。これにより、レールを引くなんてことはおろか、スライダーやクレーンなんかも必要なくなったと言っても過言ではない。もちろんそれらにはそれぞれメリットと特有の動きはあるが、セッティングの煩わしさと自由度を考えると、よっぽどのことがない限りジンバルで事足りるだろう。そう言い切れるのは、ジンバルの省エネ化、セッティングの簡易化、そして何よりモーターの強化でデジタル一眼が載せられることが大きい。
いくら便利だからといってもそこだけ画像のトーンが変わってしまってはどうしようもないし、例えばメインカメラに業務用の大きなカメラを使っていたとしても、レンズを同じ物で揃えられれば、完全にとは言わないまでも、トーンは揃えられる。私もその点が一番気になって、これまでGoProやOSMOのような、便利だけどトーンが全く変わってしまうカメラを映画で使おうと思ったことはなかった。残る問題は、クラシックレンズなどを使っていると、当然マニュアルフォーカスなのだが、ジンバルショットではカメラに触れることができないので距離感だけを頼りに動いてフォーカスを合わせるようにしなければならないこと。当然、せっかくの動きの自由度は犠牲になってしまうので、一応メーカー純正、或いはサードパーティー製のオートフォーカスレンズも用意してある。正直言ってこれには全く期待していなかったのだが、近頃のコンティニュアスオートフォーカスの進化、顔認識の進化には驚いた。もちろんメーカーや機種によって差はあるのだろうが、動画撮影に充分使えるレベルまで来ていると思う。また、ジンバルにも主要メーカーのカメラ対応のコントロールを装備しているものもあり、かなりの慣れは必要だが専用ケーブルでカメラと繋ぐだけでレンズに直接触れずにマニュアルでズームや静止画のシャッターを操作することも可能だ。レンズのトーンは諦めなければならないが、昨今の一眼ならカメラ側のピクチャープロファイルでトーンを作り込むことができる。
今回使用した物(Snappa Kylin)は三軸と言われ、三つのモーターで三方向のブレを軽減してくれる物だが、しかし私はこのスムーズ過ぎる映像があまり好きではない。
ずっと以前にほぼ全てのカットを三脚を使った、いわゆるフィックスショットのみで作品を作ったことがあったのだが、その時に感じた“生気”のなさがとても嫌いで、それ以来、積極的に手持ちのショットを使うようにしている。
機械的に安定したショットは確かに安全で見やすいものだが、カメラワークにおいては揺れやブレさえも表現の一つの要素なのだ。
そこで私は安定のジンバルとは逆の物理スタビライザー、COMODO Orbit という物も使い続けている。これは手持ちのブレを少し緩和させてくれる程度の物だが、その分、動きの自由度は高く、感性のおもむくまま振り回すことができ、“生きた”ショットが撮れるのだ。
このように、ジンバルやドローンといった機材の出現と低価格化によって、個人作品でもカメラワークの幅は拡がる一方で、工夫次第で高級映画のようなカットが撮れるようになった。もちろん使えるものなら何を使ってもいいのだが、決して機材に“使わされる”ことのないように、映像演出としてそのカットのテーマや役者の心情表現に合った物を選んでほしい。
時として行き過ぎた安定は個性を消し、退屈で冷たいものにもなり得るということを忘れないでほしい。
▲スライダーと全く同じとはいかないが、何よりセッティングの手間が省け、自由曲線で動かせるのがいい。コンティニュアスオートフォーカス、顔優先の精度も上がり(SONY α7III)、フォーカス抜けや迷いはほとんど見られなくなった。(女優:平間 絵里香)
▲SNAPPA Kylinはローアングルとハイアングルでハンドルの形状が変えられる。モードも全固定、パン固定、ティルト固定の3つがあり、手元のジョイスティックでそれぞれのマニュアルコントロールも可能。カメラワークの自由度は高い。
▲COMODO Orbitはモーターを使わない物理スタビライザー。手持ちを少しサポートしてくれる物と考えればいい。その分カメラワークの直感的な動きが可能。そもそもブレや揺れ、またノイズや傾きなどを”悪”と考えてしまうと、映像表現の幅を失ってしまう。一つのカットだけで判断せず、全体の流れの中で効果的に使うことで作品のダイナミクスが生まれることがある。
●ビデオSALON2019年6月号より転載