AX700の240fpsスーパースローモーションでスポーツを撮影!ビデオカメラだからこそできる映像表現の広がり。 この1台があれば多様な映像制作の仕事に対応できる
最近はαなどデジタル一眼カメラとジンバルを組み合わせて映像制作を始める人が圧倒的に多い。篠田健仁さんもその一人。自身で映像制作会社を起業し、コンサルティングや映像制作など多方面で活躍している。現在主に使用している機材はソニーのFDR-AX700(以下AX700)とデジタルミラーレス一眼カメラのα6500。仕事ということになるとAX700の稼働率が高いという。なぜAX700なのか。機材選びのポイントとその使いこなしについてお聞きした。
協力:ソニーマーケティング株式会社
●本格的に映像制作に取り組もうと思ってからまだ2年もたってないとのことですが、作り手になろうと思ったきっかけと、最初に手にしたカメラを教えてください。
YouTubeでいろいろなかたの動画を見ているうちに、自分も動画を作ってみたいと思いました。2017年の秋にソニーのRX100 VとPILOTFLY C45(ジンバル)を買って動画撮影を始めました。RX100Vはとてもコストパフォーマンスは良かったのですが、撮影に慣れてくるに従い、もっと綺麗に撮りたい、ほかのカメラでもっと幅広い表現に挑戦してみたいという欲求が募ってきました。
そこで、2018年の2月にデジタルミラーレス一眼カメラのα6500とPILOTFLY Adveturerというジンバルを買いまして、そこからさらに本格的に動画制作を始めることになります。
最初は長時間記録とNDフィルター内蔵で選んだ
●その後どういう経緯で専用機のAX700を選ぶことになるのでしょうか? コンパクトデジタルカメラやAPS-C機の次はフルサイズ機のα7シリーズを検討するのが王道というか、順当な流れだと思うのですが。
たしかに周囲からは「どうしてビデオカメラなの?」という反応がありましたね。
昨年から本格的に映像制作の仕事を始めたのですが、まず依頼された仕事がファッションショーの撮影でした。スタッフと二人で6、7台のカメラを回さなければならないなかで、手持ちの機材では録画時間がギリギリ足りず、これは長時間撮影できるカメラをもう1台必要だ、という話になりました。
αのように作品性を広げる多彩な撮影機能をもっていて、かつ長時間撮影ができるカメラを探していたところ、AX700の存在を知りました。その際サイバーショットのRX10 IIも検討していたのですが、ビデオ専用機のAX700なら安心して長時間撮影できること、NDフィルターも内蔵されていることが決め手になり、AX700の購入を決めました。
AX700であれば、α6500とPP(ピクチャープロファイル)を合わせることで、編集の色合わせも最小限ですみます。個人的にもソニーの色味が好きなので、買うのであれば、ソニーのカメラ資産を増やそうと思いました。
▲ボディ背後にあるオートとマニュアルの切り替え、NDフィルターのスイッチがわかりやすい。
●AX700を使ってみての印象や、αでの撮影との違いなど教えてください?
AX700はセンサーサイズが1.0型ということもあり画質や感度性能、色再現において満足な性能で、光学式の手ブレ補正も優秀です。しかもグリップ形状が業務用ビデオカメラのようにホールド性が高く、手持ちで安定して撮影できる構造になっているので、安心感を持って手持ち撮影ができます。
AX700は動画撮影に必要な機能をバランス良く、高いレベルで搭載していると思います。やはり動画専用機として作りこまれていると実感することが多いです。
以前αでスポーツ撮影をしていた際、選手の素晴らしいプレイをレンズ交換していて撮り逃してしまいました。その悔しい経験から、スポーツ撮影など画角の変化や動きの激しい被写体を追いかけるときなどはAX700を使用しています。AX700はレンズ一体型ですが、35㎜換算で29mmから348mmまで広い焦点域をカバーしますし、内蔵NDがクリア、1/4、1/16、1/64と3濃度あるので動画撮影において露出調整がしやすいです。
もちろんαも使います。やはりセンサーサイズの違いによる“ぼけ”の表現とか、撮影する素材に合わせてレンズ交換できるとか、デジタル一眼カメラだからこその良さがありますね。
これは個人的な意見ですが、画質にトコトンこだわるとしたらフルサイズやAPS-Cのセンサーを搭載し、レンズ交換もできるαのほうが良いかもしれません。一方実際の撮影現場で臨機応変な対応を求められる場面では、使いたい機能の呼び出しや設定変更をスムーズに行えるなど、操作性の高いビデオカメラのほうが優位だと思っています。中でもAX700は必要な項目をしっかり押さえ、動画撮影を安心して行いたいというニーズを満たしてくれています。
現在、私の仕事の多くはAX700で撮影することが多いですが不満はないですね。というか、AX700で撮ることで「撮れ高」が増えています。スポーツのように待ったなしのシチュエーションでは必然的にAX700を選びます。一方で、やや暗めの室内でダンサーを撮るような仕事では、感度優先で少しでもセンサーサイズの大きいα6500と大口径のレンズを選ぶこともあります。もちろん同時にAX700も回してますが。
動画撮影に必要な操作ボタンがボディに並んでいる
●AX700の使いこなしのポイントがあれば?
αなどデジタル一眼カメラの特徴である“ぼけ”は、作品系の映像制作では重視されるのですが、記録系の仕事ではそれほど重要視されないので、スポーツ競技を撮影する自分にとってはAX700がとても使い勝手がいいんです。トーンもピクチャープロファイルのPP7やPP10を選んで調整していくことで問題ありません。記録モードは4Kではなくても、フルHDの50Mbpsでも充分なクオリティです。
そしてAX700で自分が特に気に入っているのは、物理的なボタンによって撮影中でも直感的に操作できることです。アイリス(絞り)、シャッタースピード、ISOの設定変更ボタンが左手で操作しやすいところに並んでいて、すぐに操作できるのが便利です。
▲メニュー、アイリス、ISO、シャッターのボタンとダイヤルで操作は快適にできる。
●フォーカスは?
基本的にマニュアルフォーカス(以下MF)ですね。APS-Cセンサーを搭載したα6500に単焦点レンズを装着した状態でもMFで操作しているので、AX700の1.0型センサーならなんとかMFでも合わせられます。オートフォーカス(以下AF)で大体合わせてから、MFに切り替え、フォーカス拡大して合わせるという一連の流れの操作がAX700は本当にやりやすいと思います。
●ピクチャープロファイル(PP)は?
AX700単独の時はPP10(Hybrid Log-Gamma。以下HLG)のことが多いです。AX700とα6500を併用時は、α6500にHLGがないので、ともにPP7(S-Log2)にします。グレーディングする必要がないときは、ともにピクチャープロファイルをオフにして、撮ってそのままということもあります。
インパクトのあるスーパースローモーション。240fpsを手軽に使える凄さ
●今回の作例ではスーパースローモーションをふんだんに使っていますね。
スポーツでは120fpsや240fpsが効果的です。セパタクローのように特に動きの速いスポーツ競技の場合は、スーパースローモーションの240fpsのほうが、インパクトがあります。AX700はフルHD解像度で240fpsが撮れるのが良いですね。しかもその切り替えがカメラ側面のS&Qボタンでできてしまうのが便利です。
▲セパタクローの試合を撮影中の篠田さん。
スローモーション撮影時はフリッカー補正が効かないので、会場での撮影前にフリッカーが出ないかどうかをチェックします。フリッカーが出なさそうであれば、プレイの流れを見ながら、得点の瞬間や喜んでいる一瞬の表情をスーパースローモーション撮影します。240fpsで5秒撮影できるので実用上充分です。映像もとても印象的になるので、撮られたプレーヤーもすごく喜んでくれます。
●デュアルスロットは使いますか?
これもAX700の大きなメリットですね。仕事での撮影の場合は128GBのカードを2枚装着し、同時記録設定にします。たまに長丁場、たとえば8時間ぐらい回すときもあるのですが、そういうときはリレー記録にします。
バッテリーが長く持つのも利点で、普段撮影をする際、一番大きいタイプのNP-FV100Aを2つ持っていくのですが、2つとも使い切ることはないです。
ジンバルと手持ちの使い分け
●AX700ではどんな撮影スタイルが多いですか?
私はもともとデジタル一眼カメラにジンバルを組み合わせて撮影していたので、AX700もそれに合わせてジンバル(Ronin-S)を導入しました。最近はジンバルも活用しますが基本的には手持ちか三脚固定の撮影が多いです。特にスポーツ撮影は手持ちで撮影することがほとんどです。迫力のある映像を撮るために、選手の動きや状況に応じて自分自身も動く必要があるためです。手持ち撮影のときはカメラ側の光学式手ブレ補正を活用し、手ブレ補正を「アクティブ」モードにすれば望遠端までズームしても結構ブレずに撮影できます。
ジンバルに乗せるときにはAX700の手ブレ補正は「スタンダード」モードに設定します。ジンバルだけではなくカメラ側も手ブレ補正をONにすることで、微細な上下動を吸収してくれ、ジンバルとの相乗効果でブレを最小限に抑え、見てもらいたいところに集中してもらえる映像を撮影できます。ただ、この組み合わせだとかなりの重さになるので…2時間くらい撮影すると結構体に堪えます。
ジンバルを併用した映像はあらかじめ決めたカットで効果的に使います。例えば、引きの画でちょっとスライドさせるような映像はインサートカットとして使えます。映像の最初からブレているカットだと見る人が集中できないので、ブライダルでもスポーツにしても最初にジンバルで撮った印象的な画をもってきて、中のほうは手持ちでカメラを振っているような映像があると作品全体に幅が出るのかなと思っています。
ジンバルは安定性があってレールやクレーンなどを使用して機械的にブレが止まったような映像を求めるときはいいのですが、逆に言うとちょっとでも揺れるととても気になってしまいます。またスポーツなどではカメラを振ったときのタイムラグが若干あるので、AX700+ジンバルで撮るのは「こういう画がほしい」という必要性の高い時だけと決めています。
でも、この組み合わせを周りに薦めたら気に入ってくれて、こういう使い方をするクリエイターの方も増えてきている印象です。
人を追いかけるような場合は手持ちで撮影します。手持ちだと撮りたいときにパッと行けるというメリットもありますし。AX700を使うようになってから、ある程度手ブレをどう残すのか、そのあたりまでコントロールしながら手持ち撮影することが面白くなってきました。
映像の仕事はデジタル一眼だけではこなせない。ビデオカメラ本来の良さをもつAX700を加えることでほとんどカバーできる
●AX700でも充分に仕事をこなせるんですね。
いただく仕事は様々で、1分から2分できれいな映像を求められているのであれば、α6500で単焦点レンズを使って撮ることがあります。一方で、対談とか、舞台や踊りを最初から最後まで撮って欲しいというような記録映像の場合はAX700で撮ります。あと、最近はYouTubeライブでの配信映像をリアルタイムで撮影することもあり、その場合もAX700を使用しています。
イベント映像記録の仕事はワンマンオペレーションで全てに応える必要があるので、デジタル一眼カメラだけだとこなせないことがたくさんあります。しかし、デジタル一眼カメラにAX700を加えることで、ほとんどのケースをカバーできるようになります。
AX700の良さは、手軽でもありながら、本格的にも撮れるところ。まずはオートでも簡単に一眼ライクなきれいな画が撮れる。操作にしてもNDフィルターがスイッチであるとか、操作も物理的なボタンによる操作がベースになっているので直感的に行えます。そこまでカメラに詳しくないかたでも使えるので、スタッフに渡してディレクターズカメラのように回してもらうこともできます。
アクセサリーとしては、必要に応じXLR入力端子搭載の外部マイクやシンバルを使用することがありますが、ほぼ本体のみで完結しているというのも動画を撮る専用機ならではのビデオカメラの良さですね。これ1台あればどこでも映像の仕事ができてしまいます。
●これから動画の仕事もやってみたい人にAX700はコストパフォーマンスが高いチョイスですね。
シネマティックな作品映像も好きで制作しますが、私自身が携わった仕事を振り返ると記録映像の仕事が多いです。とにかくそこで起こることを全て記録してほしいという依頼をされます。仕事である以上、まず確実に撮ることが重要で、撮り逃しはあってはならない。加えて可能な限り画質が良いほうが望ましいですし、個人的にもそこはこだわっています。
小さいサイズのセンサーを搭載したビデオカメラではスマートフォンで撮られた動画とさほど変わりません。AX700は、これから映像の仕事も始めたいと思っている人には画質も含め機能面でも最適なカメラだと思います。将来シネマカメラを導入したとしても、業務用ビデオカメラのノウハウが詰まったAX700はサブカメラとしても充分使えます。一台持っていて決して損はないカメラだと思います。
写真協力:medium videos、岩本勝暁、HuyTienSinh
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