「人に近づいて撮れる」「狭い空間を通り抜けられる」これまでの空撮ドローンでは難しかった映像表現が可能なマイクロドローンが注目されている。この連載では初心者が導入にあたってつまづきそうなポイントを中心に解説していく。
文●青山祐介/構成●編集部
講師●田川哲也/ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。まだドローンを「マルチコプター」と呼んでいた6年ほど前から、空撮用ドローンを製作し始める。2014 年からレーシングドローンの製作も手掛ける。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。2016 年 ドバイ国際大会日本代表チーム エンジニア。現在 DMM RAIDEN RACING チーム エンジニア。
ゴーグルはプロポと並んでドローンをFPV(一人称視点)で飛ばす上で欠かすことのできないアイテムです。ドローンに搭載したカメラの映像を見ることで、ドローンに乗っているかのような感覚で飛ばせるFPVフライト。それだけにゴーグルの違いによる映像の“見え”はとても重要です。
ゴーグルには大きく分けて“BOXゴーグル”と呼ばれる画面がひとつの一眼式と、左右の目でそれぞれの画面を見る二眼式があります。一眼式は二眼式に比べると比較的安価で、メガネをかけた状態で装着することができます。ただし二眼式に比べて大きく、やや表示が遅れる傾向があると言えます。二眼式は左右の目それぞれで2つのディスプレイを見るスタイルで、とてもコンパクトなのが特徴です。
受信機やバッテリーを別に買う必要があるものも
FPVドローン向けのゴーグルは、映像を表示するゴーグルと受信機、アンテナ、バッテリーで構成されます。まず受信機は、ユーザーの多いFATSHARKの製品の多くが別売なのに対して、SKYZONEやEachineのゴーグルは内蔵となっています。別売の場合は、自分の求める映像の品質に見合った受信機を選ぶことができるというメリットがあります。
また、映像品質を左右するという意味ではアンテナも大事なパーツです。受信機の多くがダイバーシティ方式を採用しているため、2本のアンテナを使用。最近は無指向性の“クローバーリーフ(キノコ型)”と呼ばれるものと、指向性のあるパッチアンテナを組み合わせて使う人が多いようです。
さらにバッテリーも必要です。ほとんどのFPVゴーグルでは電源を外部から供給する形になっており、バッテリーをストラップに付けたりして使います。FATSHARKやEachineのゴーグルにはバッテリーが付属しているのに対して、SKYZONEは2〜4セルのリチウムバッテリーを別に買い求める必要があります。
また、FATSHARKには18650という形式の汎用リチウムイオンバッテリーが使えるケースがオプションとして用意されています。いずれにしてもマイクロHDドローンから始める場合は、機体のバッテリーに加えて、これらゴーグルのバッテリーが充電できる充電器を用意する必要があります。この充電器はアマゾン等で購入することができます。
FPVゴーグルを使うために必要な周辺機器
▲写真は監修の田川さんが使用しているFPVゴーグル(FAT SHARK HDO)。製品によっては受信機やアンテナが同梱されるものもあるが、FAT SHARK製品は別売のケースが多い。
①映像受信機
機体に備えられたVTX(映像送信機)からの信号を受信するためのもの。FAT SHARKの場合は別売となる。田川さんが愛用しているものはImmersionRC社のrapidFIREという製品(149ドル)。写真のようにゴーグル右側面に取り付ける。
②アンテナ
受信機別売のゴーグルにはアンテナも付属しないためアンテナを用意する必要がある。受信機に2つアンテナをつけるタイプの場合は、キノコの形をしたアンテナ(クローバリーフアンテナ)と面形状のアンテナ(パッチアンテナ)をつけるのが一般的だが、田川さんは小型軽量ながら感度の高いLumenier AXII(19.99ドル)を愛用している。
③バッテリー
FAT SHARKのゴーグルを購入すると、一般的には7.4V 1800mAhのリチウムポリマー電池が同梱される。オプションで18650のリチウムイオン電池とバッテリーケース(写真)が販売されているので、これを使うことも可能。
④視度補正レンズ
これは必須ではないが、近視用の視度補正レンズもある。FATSHARK FPV ゴーグル専用で-2.0D、-4.0D、-6.0Dの3つのレンズセット(2,590円)。アマゾンで購入できる。
FPVゴーグルを装着した状態
▲向かって右側面にはバッテリー。左側面にはアンテナを取り付けた受信機。アンテナは左右別々の方向を向くように設置している。
映像の遅延を嫌ってアナログ伝送を利用
さて、ゴーグルを通して見る映像ですが、カメラで撮影した映像そのものと違い、一度アナログ方式の電波を介しているため、決して画質がいいとは言えません。電波の状態によってはチラつきが発生したりしますが、こればかりは慣れるしかありません。
確かにデジタル方式にすれば画質を高められますが、デジタル・アナログの変換により遅延が発生します。映像を見ながら飛行するのに、この映像の“遅れ”は操縦者の反応も遅らせてしまうため、ほとんどのマイクロHDドローンユーザーは低画質でもアナログによる伝送を利用しています。
広い「FOV=視野」が見やすいとは限らない
ゴーグル選びでポイントとなるのは「FOV(Field Of View)=視野」という、ゴーグルを装着した状態で目の前に広がる画面の大きさのことです。視野は狭いと映像がつぶれて見にくく、確かに大きいほど見やすいといえます。
ただしあまり大きすぎると、映画館のスクリーンの目の前で見ているような状態で、画面の隅に配置したバッテリー残量や飛行時間といったOSD情報を見るのに視線を動かさなければなりません。これだと前方の景色を見ながらドローンを飛ばすということに集中できないため注意が必要です。
ゴーグルで見えるカメラ映像と視野
①遅延のないアナログ電波を使用するため、画質は粗い
▲FAT SHARK HDOのレンズ部分。装着すると右のようなカメラ映像を見られる。以前連載でも説明したとおり、映像は遅延の少ないアナログ映像を利用する。5.8GHz帯の電波の使用には無線従事者免許と無線局の開局申請が必要。
▲BETAFPV 85Xのカメラ映像をHDOで表示したもの。表示画質は機体のカメラとVTXの性能にも依存する。左下にはバッテリー残量、右下には飛行モードや飛行時間などのOSD情報が記されている。
②視野とその見え方のイメージ
各社ゴーグルのスペック表を確認してみると「視野」もしくは「FOV(Field of View)」という単語が目に入ってくる。視野とはゴーグルをかけた時に目の前に広がる画面の大きさのこと。視野の度数が大きければ、視野が広く画面が大きく見える。
▲机に座ってパソコンの画面を見ているくらいの大きさ。
▲リビングで40インチクラスのTV画面を見ているくらいの大きさ。
▲映画館で映画のスクリーンを見ているくらいの大きさ。
主なFPVゴーグルとスペック比較
FAT SHARK HDO 56,954円
FAT SHARKのフラグシップモデル。有機ELパネルを採用し、色鮮やかな発色と高コントラスト比が特徴で明暗差の激しいシーンでも階調豊かな映像を描き出す。また、従来のLCDタイプのゴーグルで不満があった周辺解像度の低下にも強い設計になっている。
SPEC●パネル:有機EL/解像度:960×720(4:3)/視野(FOV):37°/受信機:別売/アンテナ:別売/録画機能:搭載/瞳孔距離調整:59-69mm/バッテリー:付属/重量:159 g
FAT SHARK HD3 Core 45,450円
HD3はHDOの1世代前のフラッグシップモデル。HDOに比べ、解像度は低いものの、視野は42°でHDOの37°よりも広い。HD3 CoreはAVケーブル等、普段はあまり使わない部品を省略し、コストを抑えたバージョン。
SPEC●パネル:LCD/解像度:800×600(4:3)/視野(FOV):42°/受信機:別売/アンテナ:別売/録画機能:搭載/瞳孔距離調整:59-69mm/バッテリー:付属/重量:152g
FAT SHARK Dominator V3 37,589円
FAT SHARKのゴーグルの中では比較的求めやすい価格帯。機体のFPVカメラの縦横比が4:3のものが多いためかゴーグルでも4:3を採用するものが一般的だが、こちらは16:9を採用。最近は、FPVカメラもHD対応のものが増えてきたため。
SPEC●パネル:LCD/解像度:800×480(16:9)/視野(FOV):42°/受信機:別売/アンテナ:別売/録画機能:搭載/瞳孔距離調整:59-69mm/バッテリー:付属/重量:152 g
SKYZONE SKY03 50,621円
2眼タイプはFAT SHARKが8割以上のシェアを占めているが、SKYZONEはそれに次ぐシェア。受信機とアンテナ付きで、フロントカメラを備えゴーグルをかけたまま、外界を確認できる。黒・赤・白のカラーバリエーションを用意。曇り防止の空冷ファンも搭載する。
SPEC●パネル:LCD/解像度:800×600(4:3)/視野(FOV):37°/受信機:搭載(48chダイバーシティ)/アンテナ:別売/録画機能:搭載/瞳孔距離調整:57.5-69.5mm/バッテリー:別売/重量:231g
SKYZONE SKY02S V+3D 31,428円
FAT SHARK V3同様に製品も16:9の縦横比を採用する。上位機種のSKY03よりも解像度は若干高いものの、視野は30°と狭めになっている。空冷ファンは省略されているが、受信機・アンテナ・フロントカメラは搭載されている。
SPEC●パネル:LCD/解像度:854×480(16:9)/視野(FOV):30°/受信機:搭載(40chダイバーシティ)/アンテナ:付属/録画機能:搭載/瞳孔距離調整:59-69mm/バッテリー:別売/重量:190g
Eachine VR D2 Pro 12,073円
一眼タイプのゴーグルは2眼のゴーグルに比べて価格が安いので、導入しやすい。ただし、サイズが大きくかさばるというデメリットもある。このゴーグルには5型の液晶画面を備える。アンテナや受信機も備え、録画機能も備えている。
SPEC●パネル:LCD/解像度:800×480(16:9)/視野(FOV):ー/受信機:搭載(48chダイバーシティ)/アンテナ:別売/録画機能:搭載/瞳孔距離調整:57.5-69.5mm/バッテリー:別売/重量:285g
※価格はbangoodでの2019年5月現在の販売価格で変更になる可能性があります。
●ビデオSALON2019年6月号より転載