この記事は2009年12月号に掲載された記事を転載したものです。
みなさんこんにちは。VJ M.M.Mのカワムラです。今回は短い距離で大きな絵を映し出す事のできる「超短焦点プロジェクター」と、超音波で発生させた霧を、プロジェクターのスクリーンにする「フォグスクリーン」を使った映像表現に挑戦してみました。
どちらの機材も使用用途が限られるため、普段は目にする機会の少ない機材です。しかし使い方によっては、他の機材では真似のできない、オリジナリティー溢れる演出を行う事ができます。「オリジナリティーのある演出」はそれだけで価値のあることで、特にイベント業界では、目を惹く演出はそのまま広告用途に転用できる為、各社が日々研究開発をしています。今回はそのような広告用途を含めた実例を交えながら、実際の使用感をレポートしてみたいと思います。
製品について
一般に出回っているプロジェクターは、TVに比べると大きな映像を投影できる反面、スクリーンからある程度の距離を離さないといけないため、設置にはそれなりに広いスペースが必要でした。しかし今回紹介するサンヨーの超短焦点プロジェクターXL51は、なんと本体を壁にピッタリと付けた状態で最大80型(横幅160cm)の画面を映し出すことができます。従来のプロジェクターでこれだけの大きさの画面を投影しようとすると、最低でも1~2mくらいの距離が必要になるので、このプロジェクターの焦点距離性能は驚異的と言えます。具体的な使用例としては、ビルの廊下壁面やデパートのショーウインドウの中など、広いスペースを確保することが難しい場所でその威力を発揮します。また、超短焦点の特徴を生かして、会議テーブルの上にプロジェクターを置いて、テーブルに直接画面を投影するといった、一風変わった投影方法も可能です。
一方のフォグスクリーンですが、読者の中で、実際にフォグスクリーンを見た事があるという方は少ないのではないでしょうか? ゆらゆらと空中に映像が浮かんでいる様子は、まるでスタートレックやスターウォーズなどのSF映画に出て来るホロスコープ(立体映像)を見ているかのようです。実際には壁状の霧に映像を投影しているので、横から見れば厚さはありませんが、手で触ることもできますし、(霧なので感触はありませんが)後ろ側に回り込むこともできます。暗闇に映像が浮かんでいる様子は、とても目を惹くので、広告的な観点から見るとその効果は絶大です。
設置が簡単なのも魅力
今回のロケは、いつもイベントでお世話になっているクラブにお邪魔して撮影をさせて頂きました。
設置をしてみてまず感じたことは、「どちらの機材もあっけないほど準備が楽だ」ということです。通常の機材では、準備に軽く1時間以上はかかってしまいますが、今回はちょっとした微調整まで含めて、15分ほどで全ての準備が完了してしまいました。
超短焦点プロジェクターは、フォグスクリーンの後ろに置くだけで準備は完了してしまいます。通常のプロジェクターのように、スクリーンの位置や大きさに合わせて、天井からつり下げたり、専用の台を用意して高さを調整する必要はありません。また、フォグスクリーンに関しては、平らな場所にさえ置けば、後はスイッチを入れるだけでアッという間に1・5mほどのフォグスクリーンが立ち上がります。霧の量や吹き出すスピードを微調整することができるので、プロジェクターの光量や、設置した環境に応じて簡単に微調整を行うことができます。どちらの機材も機動力が高く、手軽に準備・撤収ができる点はカタログには載っていない重要なポイントだと感じました。
よく、プロジェクターとスクリーンの間を人が横切ると、スクリーンに人影が映ってしまい、せっかくの映像が見えなくなってしまう。という光景を目にした事があると思います。超短焦点プロジェクターは、プロジェクターとスクリーンの間が数センチしか空いていないため、たとえ人がスクリーンのすぐ前を横切ったとしても、人の影が映像を遮ることはありません。また、従来であれば設置場所の構造上、どうしてもプロジェクターの光が人に当たってしまうような会場であっても、このプロジェクターを使えば、従来では不可能だった演出方法を行うことができます。
クラブの映像演出で時々問題になるのがスクリーンの色についてです。中でも映画館にあるような白色のスクリーンは暗闇で目立つため、クラブのように暗い空間を楽しむ演出には不向きです。クラブの映像演出のコツは空間のメリハリにあります。時間帯やDJの選曲する音によって空間をテンポよく変化させていく上で、白いスクリーンの存在感は大きな障害になってしまいます。その点フォグスクリーンは、光が当たらなければ消えてしまう無色透明のスクリーンなので、映像演出面の側面から見ると、とても理想的なスクリーンと言えます。
未来を予感させる映像演出
今回の超短焦点プロジェクターとフォグスクリーンを使った映像演出は、まだまだ面白くできる可能性があります。たとえばスクリーンに手をかざすと映像の色や形が変わったり、人が前を横切ると自動的に映像が表示されるようなインタラクティブな要素を付け足すことで、さらに一歩進んだ映像演出を行う事が可能になります。
近年では「デジタル・サイネージ」と呼ばれる、映像端末を使った広告表現の需要が高まってきています。今後ますます映像市場に注目が集まる中で、アッと驚く演出方法や機材が次々と発表されるでしょう。このフォグスクリーンはそんな将来を予感させるのに十分な機材だと感じました。
今回のVJ的オススメ度は90点。使い方によっては、まだまだ無限の可能性を秘めている機材だと思います。機材の持っているオリジナリティー性も抜群で、ちょっと他では見ることのできない目を惹く映像表現としては、ピカイチではないでしょうか。
今後もジャンルを問わず、様々な注目機材を実際の現場に投入して、独自のレポートをお伝えして行きます。次回もお楽しみに!
◆バーカウンターにフォグスクリーンを設置した様子