CineWhoop(シネフープ)と呼ばれる撮影用小型ドローンで作られた注目の映像とそれに関連する技術を紹介していきます。

文●青山祐介/構成●編集部

 

vol.4『Banned From Doing This Since 2017』

 

 

撮影したパイロット

Mr Steele
この作品の撮影者であるMr Steele(ミスター・スティール)は、レースやフリースタイルの分野では有名なフリースタイラーだ。2015年頃からFPVドローンに取り組みはじめ、現在はETHiXという会社を作って、オリジナルのドローン関連パーツの企画・販売を行なっている。
YouTube●https://www.youtube.com/c/MrSteeleFPV/featured

 

精力的にさまざまな撮影スタイルにチャレンジしているMr Steele。とりわけ速いスピードで建物をグルグル回るようなスタイルの撮影を得意としている。

クロバティックなフライトを魅せるラジコン(RC)の複葉機。そんなRC飛行機をあらゆる角度で間近に捉えたこのドローン映像の作品に、私は釘付けになりました。

スモークを吐きながら悠々と飛行する複葉機を、まるで地上に駐機させてクレーンに載せたカメラで舐めるように撮影したような距離感の映像は、ドローンも含めて空中を飛んでいるということを忘れてしまいそうです。この映像作品のように、RC飛行機を360度周囲から撮影するというのは、CineWhoopの機動力がなせる業だといえます。

映像作品のタイトルは『Banned From Doing This Since 2017』。これを機械翻訳すると、「2017年以降、これを行うことは禁止」となります。とても意味ありげなタイトルですね。

コメントを見ると、「Nope I was banned by flying at Joe Nall in 2017 by the AMA」とあり、「2017年にジョー・ノール(RC飛行機のフライトミーティングイベント)でAMA(アメリカの模型航空機協会)によって飛行が禁止された」と訳せます。そこから想像するに、2017年からRC飛行イベントにおいて、こういう撮影が禁止されたということだと思います。つまり今回の映像作品は、プライベートでの撮影なのでしょう。

被写体となったRC飛行機の操縦者はColton Clark (コルトン・クラーク)さん。クラークさんはRC飛行機による3Dフライト(RCヘリや飛行機の飛行スタイル)の第一人者であり、20年以上のキャリアを持つベテランです。2017年からはプロポメーカーのフタバが主催するフライトチーム・Team Futabaの一員として活躍しているようです。

RC飛行機をFPVドローンで撮影する動画は最近よく見かけるようになりました。しかしこの作品のように、飛行機の翼のすぐ先でドローンを飛ばして、迫力ある映像を撮影した作品はあまり見かけません。

Mr SteeleのYouTubeチャンネルをのぞいてみると、3年も前からRC飛行機の撮影に挑戦しています。当時から主役はあくまでもRC飛行機。その飛行機の技をいかに美しく見せられるかを第一にしたいという信念のもと、FPVドローン撮影をしていることがよく伝わってきます。 

 

CineWhoopのTechネタ

本連載の監修でドローンエンジニアの田川さんがCineWhoopでキレイな映像を撮るためにメカニカル的な観点でワンポイントアドバイス!

監修 田川哲也

ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。現在 DMM RAIDEN RACIN G チーム エンジニア。

 

 

手ブレ補正のないカメラでも 安定した映像

SteeleさんはドローンフレームメーカーのImpulseRCとタイアップして、彼オリジナルのフレームを発売しており、さらにフライトコントローラーやESC、モーターなど各種パーツをセットしたBNF(Bind-N-Flyの略。プロポが別売のもの)も販売しています。フライトコントローラーとESCは前回紹介したKISSです。前回のFinky同様に彼もKISS使いの第一人者です。

今回の動画は、この6S(セル)機にGoPro HERO6を搭載して、2.7K/60fpsで撮影されています。2020年8月にYouTubeに投稿された映像なのに、HERO6が使われていることに「今さら?」と思う人もいるかもしれません。

GoProにHERO7以降搭載された手ブレ補正機能Hypersmoothや、手ブレ補正用ソフトReelSteady Goなどのソフトスタビライザーは、映像制作の強力な武器であると思います。しかし、使いどころによっては補正による揺り戻しが発生したり、映像が歪んで破綻してしまったりすることもあります。本来、撮影者が撮りたいと思う画と違うものが撮れてしまうこともあります。

この動画は、機体のセッティングがしっかりしていて、カメラに振動が伝わらないセッティングや高度な操縦技術があれば、手ブレ補正機能がついていないカメラでも素晴らしい映像が撮れることを証明しているのです。

 

この動画で注目の操縦技術

動画の3:00地点にはGoProの映像、プロポ映像、FPV映像が同時に映っています。最初の30秒は飛行機に近づいていき、間合い等を確認しているシーン。そのため、プロポのスティック操作も大まかでウォームアップといったところでしょうか?

3:30〜4:20まで「ハリヤー」と呼ばれる約45度の角度で上を向きながら水平移動する技のシーン。さらにそこから、4:50までホバリング状態でプロペラの反トルクにより機体を回転させる「トルクロール」という技の撮影があります。その後、飛行機は軽く流して飛行しているような映像です。

私がすごいと思うのは、4:07〜約10秒間続く、ハリヤーを正面から撮っている映像。これは撮影するドローンがバックしているのですが、FPVでバックしながら撮影するのは機体を目視できないので、とても不安になります。

もうひとつは4:18〜のトルクロールの撮影映像。トルクロールはノーズ・イン・サークルで撮影されていますが、前半は飛行機の回転とは逆方向で撮影され、途中から回転を反転させて順方向で撮影しています。静止物を撮る場合のノーズ・イン・サークルとは異なり、被写体が動いている状態でのノーズ・イン・サークルはとても難しく高い操縦技術が必要になります。

動いている飛行機をフレーム内に納めて撮影するのは大変難しいのですが、さらに映像酔いが起こらないようにスティックワークにも気遣いしながらフライトしていることに脱帽です。

きっとSteeleさんとColtonさんがどんな技を繰り出すか? などしっかりと打ち合わせして撮影されたことが想像できます。

動画にはプロポのスティックワークも合わせて映っていますが、ダイナミックな映像のわりにスティックワークがとてもコンパクトです(プロポ操作はMODE2)。最小限のスティック操作で無駄な舵を打たない。Steeleさんのプロポスティックは繊細な操作がやりやすいピンチ派です。

 

撮影に使用された機体

▲撮影に使われた機体「APEX MR STEELE 6S – BNF」。KISSのフライトコントローラー、ESCをメインパーツとして組まれた機体。詳しいパーツ構成はMr Steeleの会社・Ethixで確認できる。

https://ethixltd.com/portfolio/mr-steele-apex-kit-bnf-6s/

 

田川さんが注目した撮影シーン

動画の4:07から10秒ほどの部分。「ハリヤー」と言われる技を正面からバックしながら撮影。

 

4:18〜「トルクロール」という技のシーン。動く被写体をノーズ・イン・サークルで捉える。

 

 

プロポのスティックの握り方

スティックを親指で押さえるスタイルと人差し指と親指でつまむスタイル(ピンチ)。レースやフリースタイルでは親指で操作する人が多く、空撮ではピンチで操作する人が多い。どちらがいいとは一概に言えないので、基本的にはユーザーの好みとなるが、ピンチの場合は肩から下げるためのストラップを用意したほうが操作しやすい。


ドローンの動きと舵の名称・プロポの操作モード

プロポの操縦モードはユーザーの好みで選べる。モード1は日本のラジコンや産業用ドローンで主に使われている操縦モード。モード2は欧米をはじめ世界で広く使われている。モード3はモード2の左右を、モード4はモード1の左右を入れ替えたものだが、あまり使われることは少ない。

 

 

VIDEOSALON 2021年2月号より転載