この連載では、映像を撮るためのドローンをCinematic Droneと呼び、注目の空撮映像やそれに関連する技術、気になる製品などを紹介していきます。“誰でも飛ばせるFPVドローン”として話題の「DJI FPV」を、監修の田川さんの視点でフライトしてもらいました。
構成・文●青山祐介
●DJI DJI FPVコンボ 154,000円~
その名の通りDJI初となるFPVフライト向けドローン。機体と専用ゴーグル、コントローラーセットとなっており、別売のモーションコントローラー(写真右手前)による操作もできる。フリースタイルドローンのような飛行も可能な一方で、GPSや障害物センサーによる安全機能も備えており、FPVフライトのハードルを下げたエポックなドローンだ。
[SPECIFICATIONS]
対角寸法:245mm/離陸重量:約795g / 最大飛行時間:20分(無風で40km/h飛行時)/最大伝送距離:6km/バッテリー:6S2000mAh(44.4Wh)/カメラ:f=14.66mm(FOV150°)F2.8/センサー:1/2.3インチ1200万画素CMOSセンサー/動画解像度:4K50/60p、FHD50/60/100/120p/最大ビットレート:120Mbps
DJI FPVは、これまでFPVドローンを飛ばしてきたユーザーが抱えてきた、ふたつの課題を解消してくれた画期的なドローンです。ひとつは、DJI DIGITAL FPVシステムによって、非常に遅延がなくクリアなFPV映像がゴーグルで見られるということ。そして、一般的な国産プロポ(送信機)に比べて、遠くまで安定して飛ばせる通信システムを備えていることです。
さらに言えば、ほかのDJIのドローンと同じように、GPSとビジョンポジショニングシステムによって簡単にホバリングができます。そのうえ、機体と送信機間の通信が途絶したり、バッテリーがなくなりそうになったら、自動的に離陸地点に帰還してくれる点も頼もしい限りです。そのため、FPVドローンに取り組むハードルを下げ、より多くの人がFPVドローンを楽しめるようになったということではないでしょうか。
こうしたメリットに加えて私がDJI FPVコンボに期待したのは、バッテリーがパワーの出せる6S(セル)で、フリースタイルもこなすクイックな動きができること、EIS(電子式ブレ補正)や電子式傾き補正によって滑らかな映像が撮れるということです。
EISはOSMO Pocketに採用されている機能ですが、DJIのドローンに搭載されたのは初めてではないでしょうか。また、電子式傾き補正はGoPro MAXやHERO9にもありますが、これらGoProと同じレベルの機能に期待が持てます。
▲DJI FPVはローター対角245mmのクワッドコプターで、前傾角が付いたレーシーなデザインが特徴だ。一軸ジンバルで支持されるカメラはFPVと撮影で共用。GPSとビジョンセンサーによりホバリングも容易にできる。
省エネなキャラクターを 理解して飛ばしたい
Mモードを中心にDJI FPVを飛ばして感じたことは、5インチクラスのフリースタイル機に比べてやや“モッサリ”しているという印象です。DJI FPVは6S 2000mAhというスペックのバッテリーで最大20分飛行できますが、一般的な5インチ機だと、同じサイズのバッテリーで飛行時間は長くても8分程度です。
つまりDJI FPVはパワーやレスポンスより、省エネルギーに振ったFPVドローンだと言えます。そのため、例えば滝つぼにフリーフォールして水面ギリギリで機首を引き上げて水平飛行に移るといった場合、一般的な5インチ機の感覚で操縦すると、引き上げが間に合わないということになるかもしれません。
一方、とても関心のあったEIS(電子式ブレ補正)は、OSMO ActionやGoProのような不自然さがなく、機械式ジンバルの補助的な役割で好感が持てます。また、FPVドローンを初めて体験する人は酔いやすいといいますが、「フォーカスモード」を設定して画面中央だけはっきり見えるようにしたり、「ズームイン/アウト」でゴーグル内の映像サイズを調整することで防ぐことができます。
モーションコントローラーの 飛びこそがDJI FPVの真骨頂
DJI FPVのキャラクターを象徴しているのが、オプションのモーションコントローラーを使ったフライトです。一般的な2スティックのプロポとはまったく違う操作方法に最初は戸惑いましたが、実際に飛ばしてみるととても直感的でスムーズな飛行ができます。
そんなフライトから見える景色は、一言でいえば海岸線の崖すれすれをゆったりと飛ぶ、鳥の視点や、固定翼の飛行機のパイロットの気分です。5インチのフリースタイルドローンに慣れているとやや違和感のあるフライトも、DJI FPVが目指したものがこれだと考えると納得ができます。
FPVの映像を楽しむためのドローン
▲FPVゴーグルに映る飛行中の映像(自動帰還中)。画面下に飛行モードやホームポイントからの位置、速度、機体のバッテリー残量、通信状況などの情報を表示。一般的なFPVドローンが使うアナログ伝送に比べて、デジタルならではの高画質な映像で飛行が楽しめる。
▲DJI FPVは原則として付属のFPV Goggles V2を着けて飛ばす。バッテリーは別体式のため約420gと軽く、大きさの割に違和感はない。
▲FPV Goggles V2を買い足してオーディエンスモードを設定し、チャンネルに合わせるともうひとりがゴーグルで映像を楽しめる。
飛行だけでなく各種設定もすべてFPV Goggles V2で
DJI FPVは機体やカメラなどの各種設定も、すべてFPV Goggles V2を覗きながら行うことになる。USBで接続するスマホのDJI Flyアプリからは操作ができない。
▲ゴーグル右側にある「5Dボタン」(ジョイスティック)と「戻る」ボタンで、メニュー画面上のカーソルを動かして選択、決定などの操作を行う。
▲「メニューバー」と呼ばれる設定画面。左列に上から「ステータス」(機体の状態)、「アルバム」(記録映像一覧)、「伝送」(無線関係の設定)、「設定」(機体の各種設定)の項目があり、各項目を選択するたびに右側にメニューが現れる。写真はフェールセーフの選択状態。
EIS(電子ブレ補正)とロール補正を設定する
▲撮影映像をスムーズにする設定が「カメラ詳細設定」にある赤で囲んだ3つ。EISは機体の細かな動きの影響を排除する。「画像傾き補正」は機体の左右方向の傾きに関係なく、空撮用ドローンのような水平な映像を撮影できる。ただし10度以上の機体の傾きには対応しない(このふたつの機能の効果は動画参照)。「歪み補正」は超広角レンズの歪みの補正を機体の収録映像とゴーグルのライブビューそれぞれで設定できる。FPVドローンを飛ばす人は歪みがあっても広角を好むことが多い。
ゴーグルの画面サイズを設定する
▲ゴーグル内の視野(FOV)、つまり感覚上の画面の大きさは人によって好みの分かれるところ。FOVの大小は映画館のスクリーンの目の前と後ろの席で見る違いに似ている。一般的なFPVゴーグルは視野が調節できないが、FPV Goggle V2は視野を30〜54度の範囲で、「ズームイン/アウト」項目でイメージサイズ50〜100%として調整できる。
操縦感覚やレート、エクスポネンシャルの設定
▲スティックの入力に対する感度や応答範囲(最大レート)、応答カーブ(Exp)の設定は「制御」「送信機」の「操作感度」メニューで。
ビデオ画質やフォーマットの設定
▲機体側の収録映像の設定は「設定」「カメラ」の「ビデオ画質」で行う。最大4K/60fps、FHDなら120fpsでの撮影ができる。
撮影した映像のプレビューもゴーグルで
▲撮影映像をプレビューするのもFPV Goggles V2で。ゴーグル側にも収録できるため、機体との接続が切れていてもプレビュー可能。
マニュアルモードへの切り替えは準備が必要
FPVドローンの醍醐味といえば、機体姿勢の自動制御が入らないアクロモードでのフライトだ。DJI FPVもマニュアル(M)モードとして飛行させることができるが、あらかじめハードの変更とモードの設定が必要だ。また、アーム(モーター始動)の方法が一般的なDJI機と異なり、送信機の開始/停止ボタンの2回押しになるほか、N、Sモード飛行中にMモードに切り替える場合は、右画面のような操作が必要となる。
▲飛行中にMモードに切り替える場合は、フライトモードスイッチをM(マニュアル)に切り替えると画面下にカーソルが現れるので、このカーソル位置になるまでスティックを操作する。主にスロットルスティックを、ホバリングする位置に補正することが目的だ。
▲フライト前にスロットル側スティックのネジを調整して、センターニュートラルを解除する。その上で「制御」「送信機」メニューの「ボタンのカスタマイズ」にある「カスタムモード」を「マニュアルモード」に変更しておく。
製品のポイント
DJI FPVは別売のモーションコントローラーでも操作できる。スティックの前後左右の傾きで、機体の上下左右を操作するという固定翼機の操縦桿に似た斬新なスタイル。トリガーは加減速を制御するだけで機体はバックしないという、固定翼機や鳥のようで、従来までの空撮機とはまた違う飛行感覚が新鮮だ。
▲航空機の操縦桿をほうふつとさせるモーションコントローラー。トリガー(引き金)で機体の加減速を調整する。
▲左側面にはカメラのチルトを調整するスライドスイッチ、その下に録画ボタンがある。
▲主に離着陸(左上)、飛行モード切替(左下)、主にブレーキ(右)機能の各ボタンが並ぶ。
▲白い丸印が機体の行く方向を示している。これを画面の真ん中に保つようにすると直進する。
監修・レビュー 田川哲也
ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。現在 DMM RAIDEN RACING チーム エンジニア。
●VIDEO SALON2021年6月号より転載