REPORT◎一柳

テレビ番組制作の現場といえば過酷な長時間労働というイメージ。バラエティも報道もドラマもとにかく時間との勝負で、特にディレクターは最終段階ともなると自宅に帰る時間はなく、ポスプロで何時間も詰めるということになる。映像制作業界では「働き方改革」も叫ばれているが、締切がある仕事ではなかなかそれも守られないだろう。撮影機材のほうはかつてのショルダーカメラではなく、ハンドヘルド、ハンディカム、GoPro、一眼も使われるようになり、現場の機材は様変わりしたし、ディレクターが自分のノートPCで編集できるようになったが、テロップを入れたり、ナレーションを入れたりというポスプロでの作業はどうしても必要だ。

テレビ番組制作をはじめ、ネット配信番組、各種イベント演出まで幅広く手掛ける制作会社、IVS41は編集ワークフローを改善するために、自分たちで編集事業、つまりポスプロを持とうという検討が数年前から始めたという。そのIVS41が運営するTOWER LAB.は2020年10月にスタート。お邪魔してみると、ここは旧来のポスプロのイメージとはかなり違っている。最大のポイントは、v-laboという自社で開発したリモート編集システムを導入していること。

そのサービスの内容を中心に、TOWER LAB.のコンセプトをマネージャーの澤井慎幸さん、ビジュアルディレクターの谷内遼次さんにお訊きした。

TOWER LAB.マネージャーの澤井慎幸さん(写真右)、ビジュアルディレクターの谷内遼次さん

 TOWER LAB.に来てみて驚くのが従来のポスプロのイメージとはまったく異なるカジュアルな雰囲気だ。機材をオペレートするスタジオという感じではなく、映像を見ながらミーティングする空間というイメージ。

スタジオメインの編集室は間を仕切ることもできるが、特番などは2箇所で並行して進行できるようになっている。

こちらはMAルーム。奥にナレーションブースがある。

「すごくお金がかかっているように見えるかもしれませんが、ほぼAmazonとイケアでできています(笑)」と澤井さんは言う。

「私自身もともと番組の制作をしていたので、ポスプロの機材やシステムに詳しいわけではないんです。とにかくスタッフが働きやすい環境を作るということを優先しています」

突き当りにあるロッカーはデータが入ったHDDをやりとりするという役割もある。編集ルームはガラス張りになっているが、外から映像を見られないようにロールカーテンを降ろすこともできる。

リモート編集システムのv-labo

働きやすい環境という発想の延長線上にあるのがリモート編集システムのv-laboだ。

2〜3年前のInterBEEでさくらインターネットの低遅延で映像を送れる技術を見て、こういう技術があれば、リモートで編集についてやりとりできるシステムができるのではないかと思い、開発会社を紹介してもらい、自社用のリモート編集システムを作り上げた。

コロナ禍の現在、ZoomやTeamsを利用してビデオ会議システムは当たり前のように使われるようになったし、ポスプロでのリモートサービスも各社から提案されているが、実はTOWER LAB.のv-laboというのは、コロナよりも前に発想されていたということになる。

PCベースで、画面を共有して、リモートで映像と音声で繋がって指示を出すということでは、ZoomやTeamのようなサービスと似ているのだが、圧倒的に違うのが画質とレスポンスだ。解像度自体は720pだというが、実際に見た映像はテレビ番組のクオリティに近いもので、何よりもコマ落ちがないというのがストレスがない。

使い方のイメージとしてはこんな感じ。

エディターが編集した映像を見せている。このシステムに入っているのは、エディター、アシスタントエディターが編集室(つまりTOWER LAB.)、制作プロデューサー、制作ディレクターなどは自宅やオフィスにいて、映像を見ながらやりとりをする。

ディレクターがテロップの「東京タワー」のところの文字色を赤にして、とリクエストすると、アシスタントエディターがフォトショップを開いて、赤に変更。

直しを反映したものを再生して確認するという流れ。制作スタッフは映像音声を再生しながら会話が可能なので、あたかも編集室にいるかのように編集作業を進めることができる。

ZoomやTeamsに似たインターフェイスだが、オリジナルで開発したもの。アプリではなくブラウザで動く。機能は必要最低限にしぼり、パソコンが苦手な人でも戸惑わない簡単操作。

視聴デバイスとしては、PC、スマホ、タブレット。最大6名で会話しながら動画共有できる。回線速度の推奨は40Mbps以上。

配信側と視聴側のタイムラグは0.5秒以内を実現。映像を見ながらの会話でもストレスがない。セキュリティーが気になるところだが、堅牢なファイアウォールを採用したさくらインターネットのサーバー使用。配信ごとにワンタイムパスワードを発行することでセキュリティを強化している。

今回、コロナ禍ということもあり、IVS41で担当しているレギュラーの4番組ではこのシステムを使って編集しているとのこと。ディレクターはこれまでだったら家に帰れなかったのが、終われば家族と夕食をとることもできるので、一度使うと元には戻れないという声が多いそうだ。

このv-laboの使用シーンとしては、上記の例だけではない。編集アシスタントの作業をリモートにすることで、編集室の密を避けることもできるし、フリーエディターがクライアントを自宅に招くことができなかったり、地方で編集する場合であっても、このシステムでクライアントのチェックを受けることができる。データのアップロード、ダウンロード、チェックのフィードバックといった作業を大幅に減らすことも可能になる。クライアントスペースやモニター、スピーカーなどを用意しなくても良いということになれば、低予算で編集室を作ることができる。クライアントが来ないとなれば、今後、郊外や地方に編集室を作ることもあり得るということになる。

リモート編集がストレスなくできるようになれば、映像業界、特にポスプロでの働き方は大きく変わることになる。

TOWER LAB.ではこのv-laboを自社内で使うだけでなく、他のポスプロでもぜひ活用してほしいと思っていて、このサービスの使用ライセンス販売なども行っている。編集室に合わせたデモもおこなっているので興味がある方は気軽に問い合わせて欲しいとのこと。

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