Vol.13 計測しづらい 広告も必要になる

前号まで、視聴者からの注文や問い合わせ・資料請求など具体的な行動を促すための広告、いわゆるレスポンス広告(ダイレクトレスポンス広告とも呼ばれる)を主眼に置いて広告運用や改善策についてご説明をしてきました。今回は効果計測の難しい広告について解説します。

 

ブランディング広告とは

今月は計測しづらい広告、ブランディング広告の解説です。直接的な行動を促すわけでなはく、企業や商品の印象をアップさせる目的で配信される広告をブランディング広告もしくはイメージ広告と呼びます。即時の行動でなく、視聴者の頭の中にブランドや商品の情報を残し、今後のどこかのタイミングで購入などをしてもらう下準備をしたり、既存顧客に対してもブランドや商品を愛してもらい、長期的かつ好意的な関係を築くことがブランディングの主な役割です。

この連載でも以前紹介した(vol.4)購買ファネル(下図)について、改めて解説します。

購買ファネルは、(将来の)顧客が商品などを認知してから購入するまでの心理・行動の流れを表した図です。マーケティングに携わる人であれば必ず見たことがあると思います。「ファネル」は石油などを容器から容器に移すときに使う、あの「漏斗」のことです。

漏斗を水が流れていくように、ブランドや商品とまったく関わりのなかったユーザーがだんだんと濃い関係になっていく、という流れをモデル化したものです。

このファネルの下方に、つまりユーザーを購入まで導くことをマーケティングでは「ナーチャリング(育成)」と言います(前半を「リードジェネレーション(見こみ客開拓)」・後半を「リードナーチャリング(見こみ客育成)」と分ける場合もあります)。

それこそ、この図が漏斗のように逆三角形になっていることからわかるように、プロセス(ナーチャリング)が進むに従ってその数が少なくなっていきます。

ナーチャリングのすべてを広告が担うわけではないですが、当然のことながら広告が大きな役割を担っています。レスポンス広告が主にこのファネルの下半分を主に目的とするのに対し、ブランディング広告は上部の非認知から認知へ、また認知から興味関心への部分を主な目的とします。

レスポンス広告を打っても反応が思わしくない場合、このファネルの下半分に到達している視聴者が少ない、つまり育成が不充分であることが考えられます。知らないもの、知っていても強い興味のないものをいきなり「買って!」と言っても購入いただけないのは当然ですね。

その場合はブランドを知り、愛してくれる(……とまではいかなくても好意的に見てくれる)見こみ顧客を増やすことができれば、よりレスポンス広告の反応がよくなるでしょう。

ブランディングは短期にはなかなか成し得ません。ものにもよりますが、数ヵ月から数年といった長い期間を使って行うことが多々あります。配信を始めて、目の前の数字に一喜一憂せず、自社のブランドや商品の意義や思いをしっかりと伝えるにはどうしたらよいのか、どっしりと構えて制作・運用していくことが基本です。

ちなみに、マーケティングでの「ファネル」はこの購買ファネル以外にも購入後のユーザの行動を示した「インフルエンスファネル」や購入の前後をカバーした「ダブルファネル」(実際には購買ファネルとインフルエンスファネルをあわせたものです)などがあります。今回は言及しないので、興味ある方はググってみてください。

 

ブランディング広告と動画

以前はブランディング広告は広い範囲にリーチしやすく、接触単価の低いマス広告(テレビ・ラジオ・雑誌・新聞など)を用いるのが通例でした。また、広告媒体となるテレビ局や出版社などの認知度や権威性もブランディング広告にプラスに働くこともその理由です。

それらのマスメディアのメリットは今でもあるものの、WEBやSNSを中心としたデジタル広告のフォーマットや在庫が急激に増えたことにより、デジタル広告でもブランティング広告が多く流されるようになっています。特に情報量が多くリッチな表現力をもった動画はブランディング広告と相性が良いメディアとなります。

ブランドの理念や世界観といったものはテキストでは、特になじみのない方にはなかなか読んでもらいづらい、そして伝わりづらいものです。イメージ(画像)はそれを補って表現できますが、個々の画像では断片的になりがちです。

動画はユーザーの負担が少なく短い時間で視覚・聴覚に訴えかけます。ビジュアルとナレーション、BGMの相乗効果によってブランドの世界観を視聴者に伝えることができます。

SNSでシェアされる場合も、動画としてまとまった情報がシェアされるので誤解が少なくなります。

テキストや画像はシェアする人に悪意がなくとも、一部分だけ切り出されてタイトルやサムネイルの形で共有されることがあり、魅力が充分に伝わらないどころか、かえってネガティブな印象を与えてしまう場合があります。動画のようにまとまった形であればそのリスクはおさえられます。

ブランディング広告の必要性はわかった、“そうはいっても”という方が多いのではないでしょうか。

訴求が比較的具体的なレスポンス広告にくらべブランティング広告は目的と後述の効果測定もやや曖昧です。そして「うちにはそんなブランディング広告するような内容はないぞ……」と。

ブランディング広告のの目的である「印象をアップ」といっても、いろいろあります。

・多くの人に選ばれている安心感

・安全安心な商品である

・信頼に足る存在である

・社会的に意義のある存在である など。

そのなかでもとりわけ注目されているのが、SDGsへの取り組みです。

SDGsは今更説明の必要もないかもしれませんが、交通広告やWEBサイトでよく見る、17色のリングや正方形のアイコンの、あれ、です。2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記されている指標「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」です。

“2030”とあるとおり、2030年までに達成すべき目標として、169のターゲット(中目標)と、それらを束ねる17のゴール(大目標)があり、地球上の誰ひとりとして取り残さない(leave no one behind)ための取り組みであることが求められています。「正方形のアイコン」はその17のゴールひとつひとつ表しています。


https://sdgs.un.org/goals

昨今「サステナブル」は流行語のようになり、どこでも見かけますね。この言葉は主に環境保護の文脈で用いられていますが、SDGsの見据える「サステナブル」は

・ゴール1:あらゆる場所のあらゆる形態の貧困をなくす
・ゴール5:ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う

等のように環境だけでなく社会・経済的な持続可能性についてもカバーしています。

SDGsは国、自治体、企業、個人などさまざまな単位で、それぞれの規模や能力に見合った取り組みを求めています。取り組む企業は、どのゴール・ターゲットへコミットするのか、またできる限り定量的に測定可能な数値を設定し公開することが望ましいとされています。

SDGsへ取り組みやそれを公表することはブランドイメージやエンゲージメントの向上のために、今非常に効果的(ある程度以上の企業には必須とも言える)です。

各ゴールのアイコンがシンプルかつ鮮やかで動画のなかでもアイキャッチになりやすいこともあり、SDGsへのコミットメントの宣言や活動報告などの動画はブランディング広告にうってつけです。

また、ユニクロは動画のなかでSDGsという言葉を出していませんが、服のリサイクルを通した難民支援活動の動画を短編映画の形で表現しています。2021年2月に『【短編映画】服の旅先—日本発のリサイクル服が、難民の少女へ届くまで。知られざる舞台裏を初公開』をYouTubeで公開しています。

(残念ながら)これらの大企業であっても、これらの動画の再生数は数千〜1万強と多くはないですが、動画単体ではなくWEBやその他のメディアを通して、企業の社会的責任とその取り組みについて印象に残り企業イメージの向上に貢献しています。

 

SDGsをテーマにしたブランディング広告

東京ガスグループ

SDGs達成に向けた東京ガスグループの取り組み。▶事業活動を通じた社会課題の解決に取り組み、SDGs達成に貢献していること、またエネルギーの安定供給やまちづくり、気候変動対策を中心に取り組んでいることを紹介。

 

パナソニック

より良いくらし、よりよい社会をいつまでも。〜Panasonicの社会課題解決への取り組みとSDGsへの貢献〜 社会の課題を解決するための事業活動、技術開発、社会貢献活動を通しSDGsの目標に達成に貢献できるという考えを公開。

 

 

社会貢献活動のPRビデオ

ユニクロ

服の旅先—日本発のリサイクル服が、難民の少女へ届くまで。知られざる舞台裏を初公開  購入者が不要になったユニクロ商品を店頭で回収し、UNHCRを通じ世界の難民キャンプを中心に寄贈する難民支援の取り組みを短編映画で公開。

 

 

ブランディング広告の効果

レスポンス広告は広告からの導線のユーザのECサイトでの購入や資料請求といったコンバージョン数/率を計測して最適化していくことが基本になります。

一方でブランディング広告はそのような詳細の効果測定が行いづらいため、最適化のペースが緩やかになり、よりヒューリスティックな運用になります。

デジタル広告の基本となる視聴数や視聴時間などの数値とともに、ブランディングの観点で重要な指標として「ブランドリフト」と「サーチリフト」があります。

ブランドリフト
広告を通してブランドの認知や広告想起(事後的に広告を思い出してもらえる人の割合)、購入意欲といった態度変容をいいます。ブランドリフトの効果測定は視聴者へのアンケートによって行います。多くの場合はオンラインアンケートで、広告に接触した人(実験群)と接触していない人(対照群)のなかからランダムにアンケートを行います。実際の広告視聴者にアンケートを行うことでパネル調査に比べ、よりスピーディーでリアルなフィードバックが得られます。

YouTubeは一定以上の広告出稿をしている広告主に対して無料でブランドリフト調査を提供しています。ブランドリフト調査を行いたい場合はYouTubeもしくは広告代理店に相談してみてください。

▲YouTubeアンケートはこのように表示される

 

サーチリフト
広告によって、対象となるキーワードの検索エンジン上での自然検索数がどのように増えたかを計測します。つまりユーザーの認知や興味関心の程度を検索数によって計測する、という理屈です。

Googleトレンドなどを用いて計測することで地域別や年齢別など属性別に追うこともできます。

▲Google トレンドの画面

 

 

音声のブランディング広告

WEB広告では少ないですが、音声でのブランディング広告も効果的です。たとえば音楽のストリーミングサービスのSpotifyは曲と曲の間に音声広告が流れる無料プランを用意しています。

広告は強制視聴なので無料でSpotifyを利用しているリスナーにほぼ確実に届くメディアです。動画の場合は音声を消して視聴しているユーザーが多く、特に広告再生中は視線も画面から離れていることも多々あります。

しかしSpotifyユーザーは音楽を聴くことを目的としているためミュートにしていることは考えづらく、確実にユーザーの耳に届く広告媒体として注目されています。

一方多くのユーザーが歩きながらとか運転や他の作業をしながら聞いていて予告なく広告が流れる(もちろん、曲と曲の間での配信となりますが)のでレスポンス広告よりはブランディング広告の方が効果的です。

Spotifyの広告は最大30秒です。Spotifyなどの音声広告の面白いところは画面を持っていないヘッドレスデバイス、たとえばスマートスピーカーなどへも広告を配信することにもあります。

21年はネット上での音声メディアが盛り上がりを見せており、多くはまだマネタイズが未熟ですが今後広告市場としても拡大されることが見込まれています。

 

 

今回のまとめ!

ダイレクトレスポンス広告とブランディング広告を使い分けましょう。

視聴者に具体的な行動を促す(ダイレクト)レスポンス広告とブランドや企業のイメージを定着させるブランディング広告。ブランディング広告は比較的効果計測が難しいですが、しっかりと想いを伝えましょう。

 

 

VIDEO SALON2021年10月号より転載