第40回 キヤノン超小型PTZカメラ 「PowerShot PICK」に感じる 新たな可能性!
写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)
キヤノン PowerShot PICK 45,980円
クラウドファンディングのMakuakeで目標金額を大きく上回る1億6千万円を達成し、2021年11月より一般発売された小型のPTZカメラ。キヤノンの映像処理技術によって自動で人の顔を見つけ、レンズに映る映像の変化を探知することで自動で撮影してくれる。4000×3000ピクセルの写真のほか、フルHDの動画撮影にも対応。
SPECIFICATIONS
●外形寸法:約Φ 56.4 mm × 81.9 mm/●重さ:約170g /●動画形式:MP4(H.264)/●1回の動画撮影時間:最大29分59秒
PTZ=パン・チルト・ズームを 遠隔制御できるカメラ
PTZカメラといえば結構大きなサイズで三脚につけると測量機器ようにも見えます。マルチカメラ収録&配信の現場でも音楽フェスなどではステージ上にPTZのカメラを設置している現場がよくあります。今回テストしたPowerShot PICKはHDMI出力は搭載されていないので、マルチカメラとしては使うことはできないのですが、「超小型で自動撮影」というユニークな機能が興味深いのでレポートしてみたいと思います。
小さくてクリクリ動く PTZカメラがかわいい!
PowerShot PICKはAIによる自動撮影を売りにしたカメラでクラウドファンディングで発売後に一般に向けても発売開始されました。主に子育て中のユーザーに向けた製品なのですが、開けてみると本体の小ささにびっくりします。電源を入れるとカメラ部がクリクリと動くのですが「ロボットみたいでかわいい!」というのが第一印象です。AIを使って自動撮影したり、音声コマンドで撮影したりするカメラなので、本体には電源ボタンとBluetoothペアリングボタンとMicroSDスロットがあるだけ。底面には三脚穴もあります。設定はすべてスマホの専用アプリで行います。最初にアプリをダウンロードすると、カメラとペアリングが行われWi-Fiの設定ができるようになります。AIによる自動撮影が売りですが、手動によるPTZのコントロールと撮影も可能です。
▲専用アプリ「Connect app for Mini PTZ Cam」。カメラの電源を入れてBluetoothでペアリングすればすぐに使える。ガイダンスを見ながら設定していく。
AIによる自動撮影の 設定はシンプル!
カメラの基本性能は約1170万画素の1 / 2.3型 CMOSセンサーでセンサーアスペクト比は4:3とコンパクトデジカメクラス。ズーム倍率は光学3倍デジタル4倍と控えめ。アプリの撮影設定画面は、とてもシンプルです。「エコ」「ライト」「アクティブ」「カスタム」の4種類があり、「カスタム」を選ぶと詳細設定画面に入れます。
このカメラはUSB-Cケーブルで内蔵リチウムイオン電池を充電して使います。撮影/スタンバイ時は給電も可能になっていて、屋外で運用する場合はモバイルバッテリーと組み合わせて使うこともできます。
「カスタム」で設定できるのは「静止画撮影」に加えて「ビデオ撮影」をするかしないか、自動撮影の頻度、探索範囲(P軸)、ズーム範囲が設定できます。試しにカウンターに置いてみてまわりを歩き回ってみるとカメラが旋回して人物を探します。
シャッター音はONにもOFFにもできます。いつシャッターを切っているかは短時間使っただけではわかりにくいのですが、「アクティブ」にすると、数分に1回は撮っているようです。撮影された画像はスマホのアプリで自動的に転送されているのでSNSなどにすぐ投稿できます。
▲アプリの撮影設定画面。カメラに写った人を12人まで自動登録。★マークをタッチするとその人を優先して追従する。
このカメラでもっとも大切なことは設置する高さ!
使ってみると、この手のカメラは設置する場所の高さがもっとも重要なことがわかります。Zoomなどでノートパソコンに備え付けられたWEBカメラのように下から煽ってしまうと、上から目線になってしまうのに似ています。
PTZだから上下のチルトもできるわけですが、最初に設置した位置から人物がどう見えるかは変えられないので、テーブルなどに直接置いてしまうと、大人の場合は、大抵の人物が下からのあおりになってしまいます。そこはメーカーも考えていて、オプションで44cmも高さを稼げるミニ三脚ベルボン マルチトライポッドが用意されています。
カラーバリエーションはブラックの他、ホワイトも用意されていて存在感も薄めることができるのもいいところ。
通常のカメラでセルフィースティック型のミニ三脚を使うと、画角を調整しにくい場合がありますが、PTZカメラなら垂直な棒の上に設置してあってもカメラヘッドが自由に動くので、いろいろなアングルで撮影できます。撮影する人物の顔と同じ高さに設置することが何より重要です。
▲テーブルなどにそのまま置いて大人を撮ると煽りの画角になる。
▲手元にあった自撮り棒とミニ三脚をくみあわせてみた。
このサイズなら4台でも ウエストポーチに入る!
PTZカメラであるにも関わらず、このサイズに収まっているのは外部出力などを割愛したからというのもありますが、ここまでコンパクトならばどこに置いてもカメラの存在が気にならず、つまり自然な表情が撮れて面白いと思いました。
カメラマンが操作するカメラは人間工学的にしっかりとした操作性が備わっている必要がありますが、AI制御やリモートコントロールするPTZカメラは存在感がなければないほど設置の自由度が上がります。
今後、PowerShot PICKくらいの大きさのマルチカメラに使えるPTZカメラが出てくれば、ウエストポーチに4カメを入れてサッと会場に設置なんてこともできそうです。
本体のサイズは、センサーやレンズ性能とトレードオフですが、スマホのレンズやセンサーがこれだけ高性能になっているならば、近い将来どこに置いても目立たないけれどシネマルックな映像が撮れる超小型PTZカメラが出てくるとうれしいなと夢が膨らむカメラでした。
●VIDEO SALON2022年1月号より転載