テスター●斎賀和彦

 

診断のポイント

●手ブレ補正性能
●コンピュテーショナル フォトグラフィー
●顔検出AF/被写体認識
●フルHD240p

▲基本操作系は踏襲しつつもシャッターボタン外周のダイヤルは別に独立し、親指AFボタンも搭載、ハイエンド機のスタンダードな操作スタイルと親和性が増し、併用しても迷うことが少なくなった。以前からボタンカスタマイズが豊富だったがOM-1も同等以上の設定が可能で自分だけのOM-1カスタムを作ることができる。EVFも解像度を大幅にアップするとともにOLED化。高品質な表示は撮る気持ちも上がる。

 

 

 カメラ市場がじわじわと(あるいは急速に)縮小する近年、話題になるカメラはフルサイズばかり、売上ランキング上位も同様で、マイクロフォーサーズは厳しいかも…とオリンパスOM-D E-M1 Mark IIIユーザーのわたしでさえ思ったのも正直なトコロ。そんな状況下、オリンパスから分社化したOMデジタルソリューションズから登場した新しいミラーレス一眼 OM-1。期待半分、不安半分で手にしたそれは、フルサイズ機とは違うマイクロフォーサーズ機の特性を十全に活かして作られた動画・静止画のバランスの良い高機動型カメラに仕上がっていました。

ビデオサロンなので、OM-1についても動画性能の話がメインになるのは当然ですが、一部のユーザーを除いては写真も動画も大事なはず(わたしもそうです)。まずは写真機としてのOM-1の印象からはじめましょう。そうすると動画機としてのOM-1が見えてきます。

オリンパスの時代からOM-Dの手ブレ補正能力には定評がありました。その能力を継承、発展させたOM-1の手ブレ補正は圧倒的です。手ブレ補正機能は最新カメラの重要なポイントのひとつで各社とも数字上は似た補正能力を謳いますが、OM-1のそれは格別。手持ちには個人差がありますが、わたしの経験上では広角で6〜8秒、望遠150mm(フルサイズ換算300mm)で4〜5秒の静止画撮影が実用レベルです(それを超えると失敗カットの方が増えるイメージ)。ここぞと言うときの三脚の重要性は変わりませんが、日常のスナップ用途においてほぼ三脚を持ち歩かなくていいのは大きなメリットです。OM-DやOM-1の機動性の話をすると小型コンパクトなボディ…という話になりがちですが、強力な手ブレ補正機能も機動性を支える大きな要素です。

そして、この手ブレ補正能力は動画撮影時にもかなり有効で、広角域ならかなり任せられるレベル。望遠域でも歩かない「その場手持ち」なら充分に実用レベルと感じました。もちろん、一瞬を切り取るスチルと異なり時間軸で表現する動画は微妙な揺れもNGな場合がありますが、三脚のセットアップの時間を考えると撮れるカット数は数倍になります。このスピード感が必要な場面は少なくないと思います。

この機動力がOM-1の大きなアドバンテージです。他社のフルサイズでも小型軽量化は進み、わたしの使うフルサイズミラーレスは738g(バッテリー込み)OM-1は590g(同)と150g以下の差しかありません。

しかし光学機器であるレンズは小型化に限界があり、広角ズームに望遠ズーム、明るい単焦点を加えるとあっという間に重量は倍以上の差がつきます。仕事で他にスタッフがいる場合はいいのですが、自分の趣味や作品撮り、あるいはローバジェットのワンマンオペレーションの時、この差は無視できないファクターになり得ます。

またカメラマンが別にいてディレクターに専念できるときも、OM-Dにズームを1本付けて肩から提げておくことを以前からやっていました。ふと思いついたエキストラカットやインサートカット用の画を待ち時間などに撮っておくと編集の幅が拡がります。これがOM-1になると(後述するように)動画の画質と実用性が大きく向上しているので、より積極的なディレクターズカメラとしての役割も果たせると感じました。

 

コンピュテーショナル フォトグラフィー

カメラメーカーも以前からカメラボディの画像処理エンジンを使って歪曲収差補正を行うといったカタチで「光学」以外の方法による補正を行っていましたが、光学性能ではカメラメーカーに遠く及ばないiPhoneやAndroidといったスマートフォンは、さらに積極的な演算処理を用いてディテールを強調したりノイズを抑制したり「映え」を演出したりするようになりました。これらをコンピュテーショナルフォトグラフィと総称します。OM-Dシリーズは以前から複数枚の写真を連写・合成することで解像度を向上させるハイレゾショット、ピントの合う範囲(被写界深度)を拡大する深度合成撮影を実用化していましたが、OM-1ではそれらを更に強化、積極的に取り入れるようにしたようです。

その象徴がメニューに新設されたコンピュテーショナル撮影のタブ。例えばハイレゾショット。OM-1の解像度は約2040万画素、通常使用では充分な解像度ですが、他社の上位機が4000万画素台になってきている昨今、ネイチャー撮影や商品撮影で同等の解像度が欲しい場合もあります。そんな時、手持ちで5000万画素、三脚使用なら8000万画素の静止画を得られるのがハイレゾショットです。手持ち5000万画素ハイレゾは卓越した手ブレ補正能力ゆえの機能ですが、撮影時に待ち時間が長いのがウイークポイントでした。OM-1では演算時間が5秒程度に短縮されたため、格段に使いやすくなりました。

 

コンピュテーショナル フォトグラフィー:ハイレゾショット

▲高性能な画像処理エンジンのおかげで手持ちハイレゾショットの待ち時間は5秒に短縮されている。

▲写真左:通常撮影(約2040万画素)、写真右:ハイレゾショット(約5000万画素)

 

コンピュテーショナル フォトグラフィのトレンドはAIになっていますが、OM-1でも被写体認識をディープラーニング技術活用によるAI被写体認識AFと謳っています。被写体認識自体は各社が競争のように搭載していますが、OM-1は今回やっと犬・猫に対応。E-M1X(2019年発売)で先行実装しているのがフォーミュラーカー・バイク、飛行機・ヘリコプター、鉄道、鳥 、というのがユニーク。望遠で飛行機を追っても、ちゃんとコクピット優先で認識し、AF/AE追従 50コマ/秒という連写性能と合わせて、自分の腕が上がったように錯覚する快適な撮影を得られます。動画撮影時も(C-AF+TR選択時のみという)制限があるものの被写体検出が効くのは嬉しいところ。

▲顔検出AFも精度、レスポンスが向上。動画撮影時にも対応する。この写真3点は4K動画ファイルからの切り出し。(バレリーナ:塩見苺菜)

 

被写体認識(飛行機)


▲E-M1Xから搭載された被写体認識はディープラーニングを活用し認識率も向上したという。戦闘機のコクピットにピントを合わせ続け、機体の移動に伴って手前を別の物体が横切ってもフォーカスが引きずられることはなかった(この作例はE-M1Xで撮影したものです)。

 

AI利用はカメラ機能だけに留まりません。新しくなったOMシステム専用の画像編集ソフトウエアであるOM WorkspaceもAI活用に舵を切りました。それがAIノイズリダクションです。

 写真はISO感度が上がるにつれノイズが増え画質が低下します。センサーサイズが小さいマイクロフォーサーズはどうしても高感度が不利になります。OM-Dは低感度(結果的にスローシャッター)でもブレない手ブレ補正機能の発達によってノイズへの対応をしてきましたが、被写体が動く場合など、高ISOを設定せざる得ない時もあります。OM Workspaceに新しく搭載されたAIノイズリダクションはOM-1(と一部のOM-D)の高感度撮影されたRAWファイルにディープラーニングを用いて最適なノイズリダクションを行う機能です。専用アプリでしか使えない、やや面倒な機能ですがOMシステムが全方位から画質や機能性を向上するためにコンピュテーショナル フォトグラフィに注力しているのが良く分かる例だと思います。

 

AIノイズリダクションの効果

▲撮影時のみならず現像時にもディープラーニングを活用。暗いときの高感度撮影で生じるノイズを大幅に抑制する。左:通常現像、右:AIノイズリダクションを適用して現像。

 

 

他社のフラッグシップに比肩する動画機能

OM-D時代も手軽で使いやすい動画機として愛用していましたが、4Kで30p、C4K(DCI4K)で24pと他社のフラッグシップ機に較べると見劣りがしたのも確か。「サブとしては」使いやすいというエクスキューズとセットで使っていたように思います。

しかしOM-1は4K、C4Kともに60pのフレームレート、さらにH.264に加えH.265(HEVC)コーデックに対応、用途によって使い分けが可能になりました。これはセンサーからの読み出しが速い裏面照射型に変わったメリットのひとつでしょうか。

スペック的には他社フラッグシップに追いついた、というところですが、同等スペックならマイクロフォーサーズ機のシステムとしての小型軽量が優位になります。ジンバルやドローンを使う場合もボディとレンズの総重量が軽いことによる運用性の向上が期待できるでしょう。またさり気なく30分縛りがなくなってイベントやインタビュー等で安心して長時間収録が可能なのもポイントです。

追いついただけではありません。部分的には他社フラッグシップ機を凌駕している動画機能があります。それがフルHD240pです。美しいスローモーション映像を得られるハイスピード撮影は普段使いはしないものの、ここぞの時に大きな武器になる機能です。OM-1は4Kで120pが撮れない(60pまで)のでちょっとがっかりしたのですが、逆にFHD240pを実現しています。センサー面積の小さいマイクロフォーサーズを逆手に活かしたスペックと思いますが、他社フラッグシップ機でもFHD240pのハイスピード撮影ができる機種はわずかであることを考えると、これは積極的に使わないともったいないアドバンテージです。

このようにOM-1は現在のハイエンド機に要求される機能、性能をほぼすべて内包し、そのうえでフルサイズ、マイクロフォーサーズハイエンド機のなかでもっとも小型軽量のシステムに凝縮したカメラです。そういえばOM-1とは50年前にオリンパスから登場した世界最小、最軽量の一眼レフの型番です。OMデジタルソリューションズは新会社のファーストプロダクツに同じ名前を冠し、OMシステムの志を再宣言したのだと思います。

鞄ひとつに収まる高性能機。それはフルサイズ無用という意味ではなく、フルサイズ機の苦手な部分を補い、センサーの小ささをマイナスではなく活かすポイントとして捉えた独自の立ち位置です。フルサイズ機とどっちを選ぶ、ではなく、フルサイズ機と組み合わせることでOM-1の機動性、高機能がより際立ちます。プロの用途であれ、ハイアマチュアの用途であれ、OM-1があることで拡がる映像世界は確実にあると思います。

関連動画

◉4K動画 感度別

◉OM-1 FHD240p

◉OM-1 顔認識

◉手持ち夜桜

VIDEO SALON 2022年6月号より転載