久松慎一+ 株式会社援軍

 

Vol.17 動画SNSの 最新トレンド短尺動画にYouTubeが参加

TikTokやInstagram Reelを中心に人気を集める短尺動画。音楽と映像効果が強力に結びつき、中毒性が高く、見ているとあっという間に時間が経ちます。#BookTokの是非が議論されるなどカルチャーとして定着してきたと感じるなかで今年ついにYouTubeもプロダクトを発表しました。

 

人気の短尺動画

電車などの短時間の移動やお昼休み、寝る前のちょっとした時間などで、ちょっと楽しい気持ちになりたいときに開くアプリとしてゲームと並び、TikTokなどの短尺動画が人気です。

数分から数十分がメインとなるYouTubeの動画を見るほどは頭を使いたくなく、おかしなダンス動画を見たりちょっとしたネタでクスッと笑ったりという形でのコンテンツ消費が日本でも2021年に大きく拡がりました。

本連載の過去の記事でTikTokについて取り上げておりますが、今年、YouTubeもプロダクトを公開しました。

その名もYouTube Shorts。

これで、短尺動画市場はTokTok,Instagram Reel, YouTube Shortsと三つ巴のメインプレイヤーが揃ったことになります。

短尺動画サービスはYouTubeに代表されるそれまでの動画サービスと比べて、以下の特徴があります。

・よりスマートフォンアプリでの視聴が前提となっている
・UI要素が極力まで省かれ、スマホの縦置き全画面に動画を表示することを想定している
・動画はループ再生。スワイプなどの操作によって、次の動画の再生が始まる
・paidの広告コンテンツはほかの動画に差し込まれる(インストリームやバンパー)形ではなく、独立したコンテンツとして再生される

発信側としても短尺動画は“一発ネタ”で制作しやすく、スマホでの撮影がメインになるので制作コストも低く抑えられます(新しいメディアはだいたいそういう触れ込みで、そのうち代理店が入ってきてそこでの戦いになり、結局制作コストも高騰するのが常ですが)。

短尺でも興味をひく動画を作れる、また飽きずに見続けられるようになったのは変則速度撮影やフィルタ機能、スタンプ等の映像技術がスマホ内で簡単に使えるようになったということや、下記に記すフォロー関係外のコンテンツのリコメンドの精度向上という面があります。

また、SNS的として見ると、基本的にフォローしているアカウントのコンテンツ+リコメンドのコンテンツが流れるのが一般的ですが、短尺動画のコンテンツはフォロー外のコンテンツが流れてくる割合が多く、コンテンツとの偶然の出会いの可能性が高くなります。

SNSでの情報発信を始める際にフォロワー獲得が最大のハードルです。フォロワーがいないから発信が広まらない、発信が広まらないからフォロワーが増えない……という悪循環で、“コールドスタート問題”などと呼ばれます。

短尺動画サービスの場合はフォロー外からの動画が再生されるので、フォロワーが少なくても一定数のユーザーに見てもらうことができます。このときに興味をひくことができればフォロワーの獲得もできますし、エンゲージメント(いいねが押されたか、最後まで再生されたかなど)が獲得できればさらに多くのフォロー関係外のユーザに視聴してもらうことができます。

 

撮影・編集などスマホひとつで完結

YouTube Shortsは最大60秒までの動画に特化した、YouTubeの短尺動画専用サービスです。Instagramリール・TikTokも同様ですが、閲覧方法はとてもシンプル。基本はスマホ画面をスワイプするだけで動画を視聴することができます。

撮影などの経験が少ない方でも簡単に動画撮影ができるようにするため、撮影から投稿まですべてスマホひとつで作ることができるようになっています。編集方法も完結でわかりやすい内容となっているため、簡単に動画を作ることができます。ただし、現時点ではYouTube Shortsはβ版なので、作業は一部PCから行う場合があります。

▲スマホですべての編集作業を完結できるようにするため、直観的に操作できる構成になっている

 

他の動画や短尺動画から音声や曲を追加することができる

動画作成ツールを使用すると、公式ミュージックビデオの音楽、YouTube動画に含まれているオリジナル音声等をサンプリングして短尺動画を作成することが可能です。使用できるのは、YouTube音楽ライブラリの曲、他のYouTube Shortsや通常の YouTube動画に含まれているオリジナル音声等です。なお、サンプリングで使用した動画は、元のクリエイターに帰属します。誰かの動画から音声を利用する場合の注意点は、所有者が元のコンテンツを削除された場合、自分の短尺動画はミュートされ限定公開となります。その後30日後に削除されますのでご注意ください。短尺動画削除される前にメールでお知らせが届くようです。


▲YouTube Shortsの画面の様子。YouTubeアプリを開き、メニュー下部の左から2番目にある「Shorts」ボタンを押すと展開される。右のアイコンはYouTubeShortsの画面で確認ができるアイコンで、このアイコンがある動画はサウンドを利用して動画を作成することができる

 

過去の視聴履歴を基に表示される動画が選ばれる

流れてくる動画は過去の視聴履歴をもとに選ばれて表示されます。動画を見ていくことで好みの動画へとカスタマイズされていきます。また短尺動画を良く閲覧する方には短尺動画の通知が送られてきます。

▲現在は適切なユーザーに動画を届けるため日々テストを行っている。少しでも多くの人に見てもらう確率を上げるために動画タイトル・説明には「#Shorts」 を含めるようにすると良い

 

広告枠は存在せず、チャンネル登録数の増やしたいクリエイターに向く

動画開始時など広告が流れることはありません。動画を次々と見ることが可能です。広告を見ることがないので、集中して動画を見ることが可能です。

通常のYouTube動画の露出は、チャンネル登録者数・動画再生数等に大きく依存していますが、YouTube Shortsの場合は、チャンネル登録者数が少なくても内容がユーザーとマッチしていると判断されれば表示されます。また近しいサービスにYouTubeストーリーがありますが、こちらは登録者が1000人以上でなければ利用することができません。しかしYouTubeショートは登録者数0人でも利用することが可能。これからチャンネルを伸ばしたい方にとって始めやすいサービスです。

 

他の短尺動画サービスとの比較

 

今のところ収益化はされない

これはクリエイター視点となりますが広告枠が存在しないため、動画視聴によって収益化されることはありません。収益化されない代わりにYouTubeショート ファンドという基金を導入しており、発展に寄与したクリエイターに分配される仕組みとなっています。ただ現在はβ版ということもあり日々テスト中のようなので、今後は変更される可能性はあります。

ちなみに先に開始しているInstagramリールでは、すでに収益化は始まっています。またTikTokは、日本では2021年より開始されたライブ配信に対しては投げ銭という形で収益化されています。ほかの媒体の動きを見る限りは、どこかのタイミングで収益化されると考えております。

 

再生時間はカウントに含まれない

これもクリエイター寄りの情報ですが、YouTube Shortsで再生されたとしても、収益化のするために必要な条件である4000時間のカウントには含まれません。こちらも上記同様に今後変わる可能性もあります。

 

YouTube Shortsの撮影方法

YouTube Shortsは後発ということもあってか、秒数や撮影機能など基本的な箇所は他サービスを踏襲している部分も多い印象です。繰り返しになりますが現在はβ版ということもあり、手探りな状況かと思います。本格稼働した際には新たな機能などが生まれてくるかもしれません。

現状の機能的では、例えば製作過程で、「元に戻す」を押すと録画した動画を削除でき、「速度」で録画速度を変更が可能。「タイマー」で録画開始までのカウントダウンの長さと録画の終了タイミングを選べます。動画に「フィルタ」も追加可能です。

①YouTube TOP画面の作成から「短尺動画を作成」をタップ

②「音楽を追加」を押すと無料で使用できる楽曲が表示される

③録画は撮影ボタンを長押しでスタート

④撮影完了したら「次へ」でプレビューが表示

⑤完成した短尺動画に、タイムラインを使ってテキストを追加。さらに曲を追加したい場合はタイムラインを選んでから追加

⑥完成したらタイトルや公開設定を決める。なお、タイトルに「#Shorts」を入れると表示されやすくなる

 

 

今回のTIPS

企業・YouTuberが配信しているYouTube Shorts動画

企業が直接動画を出すケース以外では、業務に関連するYouTuberが動画を出しているケースもあります。

shorts動画をアップロードする際に#shortsタグをつけることを推奨されているため、WEBブラウザからどのようなshorts動画があるのかを探す場合はYouTubeのTOP画面で「#shorts」を検索すれば確認することができます。

 

市場調査のワンポイントアドバイス #shortsタグで動画を調査する

短い尺の中でどのように構成しているのか確認してみましょう。

まだ数は既存の動画と比べてそこまで数は多くはないようですが、実際にYouTube Shortsを使用した例を紹介します。

 

DELISH KITCHEN

『【炊飯器レシピ】豚バラネギ塩炊き込みご飯!【ガッツリ飯で大満足♪】』

DELISH KITCHENは、アプリやウェブ、SNSで時短・簡単に作れるレシピを動画で紹介しているサービスです。YouTube Shortsでは1分以下の尺のレシピを配信しており、通勤時間や少しの空き時間にみて、今日の献立を考えられるように仕上げられています。

 

TechAcademy – テックアカデミー/ セイト先生のWeb・IT塾

『レベル別エンジニアあるある』

プログラミングに興味がある方に向けた動画。業務自体は過酷なものであったりするのですが、面白おかしく表現しています。

 

1分内見不動産

『【高級物件】眺望最高!プライベートテラス付きタワマン』

「おうちでさくっと内見」をコンセプトにした内見専用の動画。部屋の構成や雰囲気などを動画でわかりやすく説明。動画自体は1分間以内でコンパクトにまとめられており、部屋探しを検討している方であればストレスなく見ることができる構成になっています。

 

簡単に作れるレシピ動画や簡単に見ることができる内見動画などは、元々は通常の長さでも閲覧できる動画を短くコンパクトにまとめたものです。短くすることで同じ時間のなかで多くの情報を届けることができ、使い方次第で大きな価値を生み出すことができそうです。YouTube Shortsの特徴を用いてPRを行う企業が少しずつ増えてきています。

企業にとってどのようなクリエイティブが適しているのかはこれから検証されていくかと思います。TikTokやInstagramリールなど先行しているプロダクトはあるものの、今はまだライバルも少なく売上を上げる大きなチャンス。まず何ができるのかを知るためにもアプリをダウンロードしてみましょう。

https://apps.apple.com/jp/app/youtube/id544007664

 

VIDEO SALON2022年2月号より転載