レポート●一柳
このレポートは本来は前号のビデオカメラ特集との連動としたほうがわかりやすかったかもしれない。古くからのテレビ制作関係者はよくご存知のDVCの中溝さんのインタビュー取材。
6月中旬、テレビ業界向けのレンタル会社であるオールミックスさんを取材した後に、同行していただいた中溝さんにもお話を伺った。
中溝さんがこの業界に入ったのは1991年。新卒で北区十条にある「しらくら」に入った。当時のしらくらは、街の電器屋さんから大きく成長して、業務用ビデオ機器を販売するだけでなく、ビデオ制作もしていたという。その制作のスタッフを募集していたので入社したら、会社は制作をやめてしまい、最初から販売に回されたという。
当時は池上のカメラの全盛期。独立開業して婚礼、イベント記録などのビデオの仕事を始めた人も多かった。アマチュアも郊外の地主が税金対策で業務用ビデオ機材一式買ったりと、とにかくお金がある人が、ビデオ撮影と編集のシステム、すべて含めて800万円くらいのものをごそっと買うといった時代だった。アマチュアや地方の記録ビデオであってもフォーマットはベーカム! 当時はPVWシリーズをよく売っていたという。今からすると信じられない時代だ。
独立して赤坂にDVCを設立したのが2004年。そのきっかけは入社したときから、しらくらの荒井社長から30歳くらいで独立しろと言われていたから(実際に独立したのは35歳くらいになっていたが)。会社は秋葉原にしようか赤坂にしようか迷ったそうだ。ただ、当時はほとんど十条にはいなくて、港区内をあちこち移動していた。制作会社との付き合いが多かったからだ。であれば、お客さんの真っ只中に行こうと、TBSの裏に店舗を構えた。それにお客さんもついてきてくれた。これは後からお客さんに聞いたのだが、しらくらの荒井社長が「中溝が独立したのでよろしく頼む」という書状を多くのお客さんに送っていたのだそうだ。お客さんはそれに感動して、DVCと取り引きしてくれるようになった。
2004年から気がつくともう15年が経っている。
この間、業界で変わってきたことはあるのだろうか?
オールミックスさんの記事でも紹介したのだが、売り先が制作会社からレンタル会社に変わってきたという。つまり制作会社は機材を持たずに、必要な機材をレンタル会社に持ってもらうようになったというわけだ。
制作会社は機材は借りるのが当たり前になっている。映像業界は下請け構造が建設業界と似ていると言われ、街の工務店に相当するのは中小の制作会社。必要な期間だけ必要なものを借りる。違うのは工務店は全国にあるが、映像制作会社は東京、しかも港区近辺に集中していること。
制作会社からの依頼はメールではなく、とにかく電話が中心だそうだ。このカメラを何台買うからすぐに見積もりをだしてくれ、というような。
テレビ制作関係のレンタルはソニーが圧倒的に強いのだが、レンタルショップによって性格が違っている。たとえば一眼系に強いところもあるし、パナソニック系が充実しているところもあるという。
とはいえテレビ業界は全体としてはやっぱりソニーが強いようで、最近よく出るカメラはときいたら、NX5Rだというし、では、これまでにもっとも売ったカメラは何ですか?ときいたら、Z5Jだという。特に2008から2009年にかけてZ5Jをそれこそ5台、10台単位で売りまくったそうだ。
ではこれからテレビ制作業界の機材はどうなっていくのか?
DVCと付き合いがあるテレビ制作業界のレンタル会社、制作会社では4Kは皆無だという。お得意さんとしては、むしろ地方でイベントなどを収録しているような業者さんがZ280などを買ってくれる。彼らにとってみると、かつての業務用ビデオの価格からしたらZ280は安いし、記録メディアは巷に溢れているSDカードではないというのも安心感があるらしい。
ではテレビ業界界隈はというと、相変わらずNX5Rがメインで、最近ではRX0IIやOsmoといったさらに単価の安いカメラがどんどん増えてきた。カメラの台数が増えるという傾向はあるようだ。商売としては厳しいが、もともと機械や道具をいじったり、お客さんと機材の話をするのが単純に楽しいから、この仕事を続けている。
最近、ウェブをリニューアルした。https://www.dvcs.jp/
ショッピングサイトではなく、タブレットをもってお客さんのところに実際に行き、DVCで販売しているクレーンの映像などを見せてアピールするためだ。その間口になるサイトにした。まさに個人のルートで訪問販売するというスタイル。
もちろんこれ以外にもHDCAM素材をデータ化したり、中古機材を必要なところに回したりと、まさに赤坂村の便利屋さん(コンビニ)として、今日も中溝さんは赤坂近辺を歩き回っている。