●今井友樹(ドキュメンタリー映画監督)

 

 

地域の生活文化を映像で記録する

近所のお祭りを映像で残したい。
竹細工職人のおじさんの手わざをちゃんと記録しておきたい。
田舎のおばあちゃんの暮らし、後世に伝えたい。

「生活文化の映像記録をしたいけど、どうすればいい?」
そんな問い合わせをよくいただきます。

————思いはある。でも、どこから手をつけていいのかわからない・・・。はたして自分にできるものだろうか?

————結論から言えば、「誰でもできますよ」と僕は言うようにしています。

僕は、20年ほど前から日本各地の農山漁村の生活文化を映像で記録する仕事に従事しています。僕はこの仕事が大好きです。自称ですが、天職だとさえ思っています。

 

生活文化の映像記録と民族文化映像研究所

僕が20年近くお世話になっている民族文化映像研究所(以下略称:民映研)は1976年に設立されました。自然に依拠した人間の精神文化(基層文化)を映像で記録することを目的に、これまでにフィルム作品119本、ビデオ作品150本以上を制作してきました。

アイヌ民族のクマ送りの儀礼、ダムに沈む新潟県の山村集落の暮らし、白川郷の合掌づくり民家の屋根葺き、鹿児島県甑島で大晦日の日にやってくる祝福の神様トシドン、等々・・・。民映研の映像作品は、いまも全国各地で上映されています。最近では若い人が主催する小さな上映会が増えています。

 

 

生活文化の映像記録、その魅力とは?

例えば、上映会場はとある山村の古民家の居間。再生可能エネルギーや食生活、暮らし方に関心がある、山村に移住したい(した)など理由も様々な若者たちが、関心を持って上映会に集まってきます。赤ちゃんを連れたお母さん、ワイワイはしゃぐ子供たちも参加してくれています。そこにおじいさんおばあさんといった地元の年配者が参加することも。彼らは昔の暮らしが懐かしいと思って、上映会に足を運んだのかもしれません。老若男女が一緒になって、民映研の映画を観るという共通体験がうまれています。

上映後は、皆で映画をつまみにおしゃべりが始まります。おじいさんおばあさんは、昔の生活体験を話しだします。若者たちが耳を傾けると、おじいさんたちはどんどん得意げに話し出します。(実は、若者たちはこれを待っていたのです。)「もう何十年もやってないけど、じゃあ今度やってみようか」と盛り上がり、次に展開していくこともあります。若者たちにとっては、おじいさんの体験談は知らない世界。当然ノスタルジーでもない。むしろ自然の恩恵も畏れもよくわかっている彼らに憧れを抱き、自然の中で生きる術を学ぼうとしているのです。

こういう上映会に自分自身も立ち会うことがあります。そんな時、映像作品を作ってよかったと思います。映像作品の可能性を感じます。

 

体験の積み重ねから見えてくるもの

生活文化を記録した映像作品には何が映っているのか。
ドキュメンタリー映画は、おもに人を描きます。そこに物語があります。それ自体は民俗の映像記録の姿勢も変わりません。ただ人を描く際に、個人の内面を描くのか。あるいは、世代を越えて受け継がれてきた営みの行為や内面世界を描くのかで違いがあるように思います。民俗の映像記録は、後者により重点が置かれているといえます。

実際に、現地に赴き取材していると、はじめての体験で、知らないことばかりです。その都度、学んでいくことがとても多いです。映像記録の体験を積み重ねていけばいくほど、自然と関わり合いながら生きている人びとのたくましさを感じます。都会生活が長くなってしまった自分の希薄さを感じることもあります。“人間って何だろう”と思わずにはいられません。これは地域の生活文化を映像で記録することの醍醐味です。

 

誰でもできる

「“生活文化”の映像記録は、誰でもできる」

これは僕の師匠である民映研の所長・姫田忠義(1928-2013)の口癖でした。僕はこの言葉に励まされ(騙され?)、ここまでやってきました。事実、20年前の僕は、民俗学や人類学など大学で勉強してきたわけでもない素人でしたから。そして、いま改めて考えても“誰でもできる”は、その通りだと思っています。

もちろん責任も苦労もあります(しかも、儲かる仕事では全くない・・・)。でも、それ以上に楽しい。いろんな人に出会えるし、日々学ぶこともたくさんあります。やりがいがあります。

そんな思いを伝えたい。生活文化の映像記録のノウハウをなんとかわかりやすく伝えることはできないものか。ここ数年、そんなことを考えてきました。

 

ある危機感

一方で、危機感も抱いていました。民映研などのように、いわゆる民俗を映像で記録する専門の映像制作会社は、都内に数社あります。いまでも活躍している会社もあります。おそらくですが、そこには蓄積されたノウハウをもつディレクターなりカメラマンがいて、作品のクオリティを下支えしているのだと思います。「誰でもできる」と言っておきながら矛盾する言い方ですが、作品のクオリティは、やはり経験者の蓄積によって左右されるのは事実です。いきなり現地に行き、カメラを据えてスイッチを押すだけでは、何をどう撮ってよいのか迷ってしまうことでしょう。事前の取材やリサーチは必須ですし、撮影もそこで何が展開するのか予想できる勘も必要です。

いま百戦錬磨の先輩たちが、年配になり、引退される方も大勢います。正直、若手がそれを率先して引き継ぐような、状況は見受けられません。それは民俗の映像記録の仕事自体が減っているのもひとつの要因だと思います。それだけでご飯を食べていくのは至難の技です。僕はいま身を持って痛感しているところです。

 

新連載はじまります

問題は、民俗の映像記録の仕事がなくなっていることではありません。クオリティには専門性や経験値が絡むということです。

しかし現在はカメラも編集技術も格段に進歩しました。これまでの専門性を取っ払って、記録に残したいと思う人が、誰でもできるように敷居を低くしたい。なんとか一般化できるような方法はないものか。そして何よりその道を志す仲間を増やしたい!そんな思いを実現すべく、連載をスタートするに至りました。

内容は、大きく4つの章立てで進めていく予定です。1章は「入門編」、2章は「実践編」、3章は、「作品をテキストに自身の実体験や失敗談も交えたノウハウ」、4章は、「民俗映像の可能性と課題」。

僕自身、民俗映像の方法論を確立して制作しているわけではありません。クリエイティブなものをスタッフと一緒に毎回探求しています。いま私のノウハウは、これまでの諸先輩が積み上げてきた功績によるものも大きいです。それを踏まえて、どういう記録のあり方があるのか模索していきます。失敗から学んだことも含めて紹介していければと思います。民俗の映像記録に対する関心が増え、むしろ議論や批判が生まれることを望んでいます。

作り手だけでなく、民俗文化は残したいけど、ビデオは初心者でまったくわからないという方に読んでもらいたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

今井友樹監督プロフィール

1979年岐阜県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒。2004年に民族文化映像研究所に入所し、所長・姫田忠義に師事。2010年に同研究所を退社。2014年に劇場公開初作品・長編記録映画『鳥の道を越えて』を発表。2015年に株式会社「工房ギャレット」を設立。https://studio-garret.com/