CMからミュージックビデオ、そして映画も手がける撮影監督・上野千蔵さんに、仕事仲間であり「千蔵ファン」でもあるエディターの本田吉孝さんとVFXアーティストの木村 仁さんが千蔵ルックの秘密に迫る。

構成●編集部

 

VIDEOSALON 2021年1月号より転載

 

 


撮影監督 上野千蔵
うえの・せんぞう 2000年より撮影助手として活動開始。その後撮影留学を経て、2011年撮影監督として独立。広告、ミュージックビデオでキャリアをスタートする。2018年、SHISEIDO“The Party Bus”でD&AD 2018 Cinematography 部門 Graphite pencil、SUNTORY“Yamazaki Moments”でNew York Festivals Craft 2018 Cinematography Goldなど、撮影監督として多数受賞。その他撮影作品でCannes Lionsグランプリ、文化庁メディア芸術祭グランプリ、昨年のACCの撮影賞等、国内外の広告賞を多数受賞している。2018年、長編映画『太陽の塔 TOWER OF THE SUN』に撮影監督として参加。2020年12月4日より先行デジタル配信開始された『宇宙でいちばんあかるい屋根』が自身初の劇映画となる。

 

編集の立場で上野さんに疑問をぶつけながらフィルムルックを問う


エディター 本田吉孝
ほんだ・よしたか テレビ番組やMVのオンラインエディターなどを経てフリーランスに。以降、CMやMV、ドラマ、映画など、ジャンルに拘らず、映像のオフライン編集を主な仕事とする。映画『しんぼる』『さや侍』、TV「ウルトラマンメビウス」、CMはTOYOTA/Google/日清食品/NIKEなど。


VFXアーティスト 木村 仁
きむら・ひとし フリーランスのFlameアーティスト。CM、MVなどのレタッチ、カラコレ、コンポジット、VFX、アニメーション等、フィニッシングのジェネラリスト。撮影方法のアドバイスも行う。一番大事にしているのは、制作・演出・撮影など各スタッフとのコミュニケーション。

 

 

本田 「フィルムルック」って何? 「シネマティック」って何? って改めて考えると難しい話ですよね。まず、千蔵の画の「トーン」についての考え方と、どういう風にトーンを作ってるのか、そして最終的にそもそも映画っぽさとはなんぞやを話せればいいかなと思います。千蔵は主にCM、映画業界のカメラマンだけど、自分が他の人とは違うトーンを作っている意識はある?

上野 あえて変えようということはなく、ただただ純粋に、その話に合う一番いいルックに持っていきたいというか、いい世界観を作りたいなという思いでそれぞれ変えているので、作品ごとに結構違うと思う。

木村 それは監督が作りたい世界観に合った雰囲気や色を選ぶってこと?

上野 そうですね、たとえば「リアルにドキュメンタリーっぽく見せたい」となれば、そうするためにはどういうカメラの距離感にしようか、ライティングは自然じゃなきゃダメだよねとか考えます。あるいはコメディなら何やってもOKだし、作り込んだライティングをして、あまり見たことのない世界観にしてあげようとか。シリアスなドラマだったら、もうちょっとシリアスな感じのトーンにしようとか、お話とマッチした画にする。結局お話ありきですよね。

木村 ドキュメンタリーのときはどう変えるの?

上野 僕は撮影するという行為では、なるべく嘘をつきたくないから、設定もできる限りリアルにしたい。嫌いなのが、たとえば家の中にお父さんとお母さんと子どもがいるのを隠しカメラのように長玉で、出演者がカメラの存在に気づいてない体で撮ること。それなら、いわゆるドッキリカメラみたいに、本当に演者に気づかれないシチュエーションを作ってほしい。僕の場合は、ドキュメンタリーなら「こんにちはよろしくお願いします、今日撮らせてもらう上野です」って挨拶するくらい、なるべく近くで撮るほうがしっくりきます。

本田 カメラの存在感が出たほうがリアル?

上野 そうカメラの存在感。ただカメラマンが撮ってんだなとか、ここにカメラがある感じをあえて出す必要はないと思うけど、あえて隠すことはないと思う。昔、コマーシャルでドキュメンタリー風でやりたいということで、そういう気持ちで臨んだのですが、途中から真俯瞰のカットや煽って撮る演出も入ってきて。それをやってしまうともうヤラセだなって思ってしまいます。

 

黒でしめてコントラストをつける

本田 ライトの位置もそうだよね。嘘の場所にライトを立てて当てたり。

上野 そう、まさに。だからその嘘が見えたときに、一気に冷めてしまいます。長玉でこっそりと撮る撮り方をしても、カラコレしてトーンを作ったとしても悪いわけではない。ただ、やってる行為と内容がマッチしないと、良いものにならないと僕は思う。

本田 いろんなカメラマンに話を聞いても、だいたいの人が作品に合わせて最適なものを撮ってるだけだ、広告だからその商品に合わせて撮ってるだけだって言うんだけど、とはいえカメラマンの個性はあって、個性があるから選ばれるはずじゃないですか。自分の個性って何だと思う?

上野 基本的には自然な光を意識します。光を操作しないっていうことではなく、スタジオ撮影だとしても、ここに窓があるなら、こちらからこういう感じの光が差し込んでたら綺麗だろうなとか、ここには緑色の蛍光灯があるだろうなとか、まず考えます。ファンタジーっぽくやるにせよ、ナチュラルなドキュメンタリーでいくにせよ、照明は自然に存在してるものの中の延長でしかやらないと思いますね。ファッション撮影用の照明などもあって、それはそれで楽しいけれどライティング遊びっていう感じがしてしまいます。

木村 ノーライトのときはどうするの? レフを入れるとか?

上野 白ではほとんどおさえなくて、黒でしめることはします。一般に白で影をおさえて明るくすることが多いと思いますが、自然じゃないと思うんです。たまたま白いテーブルがあったりするときもあるから、何をもって自然かっていうのは難しい思いますが、どちらかといえば黒でしめてあげて、少しでもコントラストをつけるほうが好きですね。

本田 それこそシネマティックな…という感じを受ける。暗部は暗部としてちゃんと見せてあげるというか。具体的にはどんな風にしているの?

上野 仮に曇りの日にカメラの前に役者が立っている場合、フラットな光になって立体感があまりない状況になると思います。そこに人物の片側、下手でも上手でも好きなほうでいいんですが、被写体の上に黒い布を被せたり、黒カポックを立てかけてもいいのですが、そうすることで影を作ったり、光の方向性を作ってあげられるので、立体感が出る。

人間って、たぶん、コントラストのあるものが結構好きなんじゃないかと思っています。認識がしやすいのかな。霧の中みたいに完全にフラットなものって、それはそれで美しさもあると思うんですけど、生理的にどっちが好きかっていったらきっと「曇りよりも晴れが好き」になると思う。

それともうひとつ。色のコントラストっていうのもあって、白ではおさえないけど青い布を使ったりします。たとえば晴れた日に、人物の影側に青をさせば反対側の太陽の暖色と差がつきます。これが色のコントラストだと思うんです。夜であれば、白熱灯と蛍光灯の暖色とグリーンとか。森の中なら緑だったり。晴れた日の場合は青が自然かと思います。青空の日の影はめちゃくちゃ青い。この話をすると、「えっ、そんなことない、影は黒かグレーだよ」っていう人が多いけど、実際は青くて。これは本当の話。だから影側を青くしてあげるのって、地球上では、結構自然なんだと思う。

木村 黒でしめる人はいるけど、青でおさえる人はいないってこと? それって千ちゃんのマル秘テクニックじゃない?

上野 マル秘テクニックかわからないですが、僕も影をもう少し持ち上げたいな、さすがにコントラストきついなと思うときはあります。じゃあ白のカポックでおさえるかっていうと、それだと太陽の光を受けて、太陽と同じ色でおさえることになるから自然じゃない。だから、カポックに映ってる太陽光を反対側でカットしたりしてましたが、結構面倒くさい。だから青い布を使って、見えない空間に青空を作ってあげるっていうか、「ここに黒い建物があるけど、建物さえなければ青空があるはずだ」っていうような考え方でやってます。

木村 そこまではなかなか、後からグレーディングでできることではないものね。

 

カーテンの色までこだわる理由と被写界深度

本田 日本映画だと引きで撮って、次に寄りで撮って、切り返しを撮って、みたいなのを1カメで順番に撮っていくっていう基本があって、それぞれでベストな照明を作り直していく。それに対してハリウッド大作では最初に全体の照明を作ってから、複数のカメラを同時に回して撮るという方法もある。一発で作って撮るほうが、より自然なのかな? 日本映画みたいに引きと寄りの照明をちょっとずつ変えるっていうのは美学としてはアリかもしれないけど、実はそれこそが邦画っぽいトーンなのかなっていう風に思うことがある。仮説としてね。

上野 僕は空間を作る照明がすごく好きで、なるべくプラクティカルライト(注:光源が映像の中に視覚的に現れている状態)を活かして撮る。美術部と相談して、この辺に間接照明を置いてほしいとか、この上のライトはこういう光質のものにしてとか。とても大事なキーライトになりますから。カーテンの色はこのシチュエーションの時はピンク色とか水色にしてほしいということまで、光にまつわることは考えてお願いします。そのほかの細かいことはお任せしますけど。

本田 カーテンの前で人物が芝居をすると照り返しで顔に当たるから?

上野 それもそうだし、あと完全遮光のカーテンにしなければ、それがこってりとしたフィルターになるんです。カーテンがピンクだと、めっちゃピンクの部屋になるので面白いじゃないですか。実際本当にそうなってるし。

僕はなるべく全体を作るけど、カットごとに調節もするので、1カメのほうが全然好きです。引き画は作ったけど、寄りだとライトの影が硬いなって思ったときには1枚だけライトにフィルター入れてあげるとか。逆に後ろから光が来ているけど目立たないときは、小さいライトを足してあげれば光源から自然に来ているように感じられるとか。

本田 一眼レフ動画、特にEOSムービー(EOS 5D Mark II)が出てきたときに、被写界深度の浅い画がブームになりましたよね。今はそこまででもないけど、フルサイズのカメラを使いたがるということは、深度の浅い画がリッチな画とされているんだと思うけど、千蔵の嗜好は違うよね。

上野 全然違います。もちろん深度が浅い画を要望されれば撮りますが、何かもったいないなと思います。背景とかせっかく美しいのに、それが美術だろうが自然だろうが、ラチチュードも含めてなるべく美しいものをいっぱい写してあげたいなっていう気持ちがある。

木村 ポートレートとかで人物撮る時とかはどう?

上野 深度が浅いほうが人にフォーカスしやすいし、お話って人にフォーカスしてることが多いから、そのほうがよく見えがちだし、背景のことまで考えなくていいから簡単なんですよ。整理しやすいし、すごく簡単にプロっぽく撮れる。だけど僕は一周まわって、逆に深度が浅いほうが素人っぽいなって思う。なんか安易にただただぼかせばいいって感じがするからかな。だから結構パンフォーカス好きなんですよ。バキバキにした上で、しっかりいい画を撮るところがリッチかなとも思う。周りの空気感とかも写してあげられるなら、できるだけ写してあげたい。

本田 フレアを入れる流行りもあるじゃないですか。アナモフィックレンズとか使って。アナモを使うのはみんなあのフレアが好きだからかな?

上野 これもシネマティックとは何かにつながるかもしれないけど、結局「既視感」みたいなものにつながるのかなと思っています。別にアナモの画が綺麗なものとは思ってないし、むしろ劣化してるものだと思う。周辺がグニャって曲がるのは嫌いだし、たまに変なひげみたいなハレーションが出たりとか汚いなと僕は思っちゃうんですよ。自然じゃないし。

それなのにアナモが求められるのは、ハリウッド映画とかで見慣れまくっていて、それに映画っぽさっていうものを感じるからじゃないですかね? シネスコの画角もあいまって。同じようにフィルムライクを目指してたのも、今までずっとフィルムだったものをポンとデジタルに変わったところで、「いやいや、やっぱりフィルムっぽさ求めたいよね」という思いがあるとか?

ポラロイド写真も、なんかいいじゃないですか。あれって明らかに劣化してるものなんだけど、そこに感じるノスタルジーとか記憶みたいなものに、人が反応するところがあるんじゃないかな。アナモっていうのは映画の長い歴史の中で大量に見てきて、ハレーションも含めて映画っぽいって感じているのかもしれない。

本田 撮影時に作る質感だけじゃなく、後処理時に作る質感作りにも触れとこうかな。グレーディング以外で、フレアを足したりとか、ちょっとぼかしたりとか、グレインノイズを足したりっていうことはあんまりしない?

上野 ディレクターで粒子を入れたがる人は多いですが、僕はあまり好きではないですね。どこかにアンチテーゼがあるのかもしれないですが、「もうフィルムじゃないんだからさ」っていう気持ちと、ニュールックを求めたいっていう気持ちがある。フィルムグレインを足すのって、さっきも言ったけど、ノスタルジーであったり既視感とか、そこに安心感を求めていると思うんですけど、僕は新しいルックを目指したい。

 

デジタルならではの新しいルックの模索

本田 海外でもデジタルカメラで新しいトーンを作ろうっていう動きになってきている気がするんだよね。

上野 フィルムが向いているとなったらフィルムでやりたいし、もちろん現実的にできないときもあるから、そういうときは仕方ないですけど。

木村 デジタルで撮っているのに、フィルムっぽく見せるのはちょっとナンセンスかな。

上野 そう、本当そうなんすよ。

本田 ここで、ちょっと面白い実験をしたので結果をみてほしいけど、まさにビデオっぽい、光がまわった某有名テレビドラマのシーンに「FilmConvert」エフェクトをかけたら、果たしてフィルムルックになるのか? っていう検証です。結論からいうと、全然なってない。ということは、シネマティックって、結局はライティングによるところが大きいんじゃないかな。

上野 このシーンは「照明用のライトで撮ってます」って感じがして、僕には生理的に変な感じがします。一般の人でも、その違和感は感じるんじゃないかと。

木村 これを照明をたかないで撮ったらよくなるのかな?

上野 照明をたかなかったら、たかなかったなりの良さがあったかもしれないけど、そうではなくて、太陽の光としてきちんとライティングすればいいだけっていうか。

本田 日本のドラマって役者の顔を暗くしたくないという不文律があるから、光源がないほうからも光を当ててしまって不自然なライティングになってるのかな?

上野 そうかも。結果的に立体感がなくなる。

木村 FilmConvertはグレインとコントラストと色味を変えるんです。これである程度フィルムっぽくはなるかもしれないですけど、後処理では限界があるんですよね。

本田 ただのエフェクトになりますね。やはりシネマティックを目指すとしても現場のセッティングが大事ということだよね。

上野 撮りがうまくいっていなかったら絶対無理。それはどんなカラリストでも無理だと思います。

木村 僕のポジションは映像制作の最後のプロセスなんですが、「なんとかなるでしょ」って言われても、「いや、なんないでんすよ」というのが本音です。

本田 映像の柔らかさみたいな言い方もするけど、4K、8Kになっていった時に、やっぱりバキバキの硬い画になってしまうのか? それとも解像度の問題じゃないのかな?

上野 僕はたぶん解像度の問題じゃないと思います。最初の頃は見慣れてないから「HDのほうが好きだな」って言うかもしれない。でも解像度が上がると、バキッてなるというより、現実に近づいてくるっていうことだと思います。

関連していうと、シネマティックって何かって言ったら、少しだけ非現実の世界に連れていってあげることだと思うんですよ。少しだけファンタジーというか。その世界づくりが映像監督とか映像に携わる人の仕事だと思う。たとえば世界遺産のドキュメンタリーとかテレビの旅行番組とかは、いわゆる生々しい現実でいいと思うんです。

でも僕らは、少し外国に連れていってあげるとか、違うワールドに連れていってあげるのが仕事だと思うんです。それがシネマティックってことかなと思っていて。現実の超リアルさや生っぽさから、何かしらリアルな部分を排除してあげることなのかもしれませんし、ある意味、アップグレードしてあげるというか。24pもそうじゃないですか。実際は30pのほうが見た目に近いけど、24pだと少しパラパラする分、現実的じゃないと思うし。トーンについても、見た目のままだと生っぽいので少し崩してあげましょうと。

ただライティングについてはリアルじゃないものは好きじゃなくて。かといって、全部自然光で撮ると言ってるわけではなく、嘘っぽくはしないけどコントラストはつけてあげたい。そのままだったら、そのままになっちゃうので。

木村 潰れちゃうからライトで補ってあげるとか?

上野 最近のカメラでいうと、目に見えるものが写らないということはないと思っていて、写すために明るくするというより、暗くするほうが多いかな。

木村 むしろ引き算して別の世界に連れていくみたいな。

上野 そうかもしれない。もちろん足すこともあります。

本田 高画素化して、8Kとか12Kになったら、よりリアルに、より見える方向になるじゃない? そのとき、シネマティックにするとしたらどういうところに注意していく?

上野 僕はそこに挑戦したいと思っています。シネマティックなドラマや劇映画だとしても、フィルターを入れてぼかすのが安易で簡単だと思います。一方で、ロジャー・ディーキンス(*イギリスの撮影監督)は、たぶん、現存してる中で最もシャープなレンズ「マスタープライム」を使いながら、ぼかすっていう意味でのフィルターは一切入れない。なぜかというと、「私の目にはそっちのほうが自然に見えている」からだそうです。僕もそれには同意できて、ポラロイドで撮った風にしたりとか、アナモフィックレンズで撮ったりとかすると簡単にファンタジーなんですよ、その時点で。だけど、高解像度で見せているのにちゃんとファンタジーに連れていってあげるっていうのが目指すところです。

本田 ディーキンスの画からはまさにそれを感じるよね。

上野 難しいけど高度な分、やり甲斐があると思っています。もしそれが実現したときは、そのほうがリッチかな。ラチチュードもなるべく広く見せたほうがやっぱリッチだし、それをコントロールしなければならないので、多分難易度はより高いと思いますよ。

本田 照明だけでなく美術やら、なんならメイクや役者の芝居の繊細さも合わせて全部コントロールしないと、高解像度のファンタジーは作れないかもしれない。トーンでいうと、デジタルカメラを使ってフィルムルックっていうか、フィルムに近づけようっていう流れは減っていくと思う。

上野 素直に、自分が綺麗と思うものを目指すっていうことでいいと思う。何かに寄せないといけないわけじゃないし。

木村 とはいえ、いわゆるフィルムルックといわれるものは残ると思うんですよね。オールドレンズとか、フィルムっぽく見せたいとか…。

上野 僕もなんだかんだ言ってアナモフィックは好きだし、何かふわーっとしたのももちろん好きです。けれど、そればかりに頼りたくない。シネスコもそうです。あんな長さで切り取ったらそれだけでグラフィカルだと思うんですよね。結構簡単だし、安心感もあるけど、たぶん写真を撮るとき僕の中ではシネスコとかあり得ないんすよ。16:9でも「うわ超長い」みたいな。16:9で撮ってる時点で何か人為的に感じちゃうんです。

でもそうじゃないところで、絶対に綺麗なんだと思えるところがあるはずなんです。

本田 僕の中でのシネマティックっていうのは何だろうって考えて、「映画館で見るもの」という気がしています。元々大画面で見るのに対応するために、解像度の高いレンズがあって、発光体じゃないスクリーンに映して見るから、ダイナミックレンジの広いローコントラストな画であって。引き画の人物がちっちゃかったりとか、特機を使ったスムーズなカメラワークがあるとか、それがシネマティックなんだろうなと僕は思ってるんだけど、テレビで見る、iPadで見ると変わってきて、ドラマと映画の差がどんどんなくなっている中で、でもシネマティックって言いたいから、定義がわからなくなってきた気がする。

上野 良くなる分には両者の差はなくなっていいのかなと思う。シネマティックっていう言葉は残っていくかもしれないけど、それが昔ながらのフィルムルックとは違うものでもよくて、ファンタジーというか、現実世界より美しい世界に少しでも連れて行ってあげられればそれでいいと思っています。

 

『太陽の塔 TOWER OF THE SUN』長編ドキュメンタリー映画

◎監督:関根光才 ◎撮影:上野千蔵 ◎照明:西田まさちお ◎編集:本田吉孝 ◎本編集:木村 仁 ◎カラリスト:Toshiki Kamei ◎配給:パルコ c2018 映画『太陽の塔』制作委員会 2018年/日本/112分

太陽が真上にある昼間は避け、ほとんど撮らないという。その時間帯のほうが綺麗な画になるそうだ。その理由を上野さんなりに分析すると「夕方や朝の太陽が低いときの光は全人類共通で美しいと感じると思う。Aカメが撮ろうがBカメだろうが、85mmだろうが25mmだろうが、その映像を見ると、みんな共通でこれはいい画だなとか、いい世界観だなと思う。光が切り替わるとき、夕方ならエモーショナルな気持ちになり、朝なら一晩乗り越えて朝陽が昇ってきてよかったと思うからか?」

 

The fin. 『Night Time』ミュージックビデオ

◎監督:関根光才 ◎撮影監督:上野千蔵

2014年の作品。フレアを入れたりと、後処理の要素も多く感じられるが、背後にクルマのヘッドライトを入れたり、道路脇の街灯の明かりが窓から車内に入る様子に嘘はなく、夜のコントラスト感が気持ちいい。

 

amazarashi 『未来になれなかったあの夜に』ミュージックビデオ

◎監督:藤井道人 ◎出演:横浜流星 杉野遥亮 泉澤祐希 柄本時生 ◎プロデューサー:佐野 大(SPOON) ◎撮影:上野千蔵 ◎照明:高橋朋裕 ◎美術:野田花子 ◎カラリスト:Ben Conkey

プラクティカルライトで撮られたことがよくわかる作品。それでも、電気スタンドや室内の照明器具の位置を計算したり、雨を降らせて道に反射を作ったり、道路の電灯の明るさが弱すぎるのを、照明でさりげなく補ったりと、不自然にならない程度に手が加えられている。

 

Young Juvenile Youth 『Her』 ミュージックビデオ

◎監督/撮影監督:上野千蔵 ◎VFX:木村 仁

上野さんの作品にはパンフォーカスの魅力的な引き画が多用される。画面の隅々まで美しく、このような映像には4Kや8Kという解像度が求められるかもしれない。背景がゆっくりと微妙に動くモーフィング効果は木村さんの手によるもの。

 

 

VIDEOSALON 2021年1月号より転載