映像+(EIZO PLUS)
新しい映像が生まれてくる現場 vol.13
『ミスミソウ』
全国公開中
©押切蓮介/双葉社 ©2017「ミスミソウ」製作委員会
鬼才、内藤瑛亮の真骨頂ともいえる残酷で切ない10代の群像劇。『先生を流産させる会』『パズル』『ライチ☆光クラブ』に続き、今春公開されるのは”トラウマ漫画”と言われる押切蓮介原作の『ミスミソウ』だ。キービジュアルとなる一面の雪景色にはリアル雪、衣装用の雪、スノーマシン用の雪を使い、XDCAMメモリーカムコーダーFS7 IIで撮影。血しぶきと静謐な雪の対比が凄まじく美しい、静謐な画面を作り出した。
STORY
東京から過疎地の中学校に転校してきた主人公・野咲春花(山田杏奈)は壮絶なイジメを受けていた。唯一の味方は、クラスメイトの相場晄(清水尋也)だったが、イジメグループによる嫌がらせは日に日にエスカレートしていく。そして、ある日、自宅に火がつけられる。両親を焼き殺された春花の心は崩壊し、家族を奪ったイジメっ子達に己の命を賭けた凄惨な復讐を開始する……。厳しい冬を耐え抜いた後に雪を割るようにして咲く花、三角草(ミスミソウ)。春花はミスミソウのように厳しい冬を耐えて、きれいな花を咲かせることができるのか。
INTERVIEW──内藤瑛亮(監督)
Q:一面の雪へのこだわり。
内藤:今回は「静謐な映画」にしたかったので、情報量は限定したほうがいいと考えていました。降り積もっていく雪の中で物語が展開していく。一面の雪が無地のキャンバスのようでもあって、異空間のような印象を与えます。また雪の上で芝居をするので、動きが平地よりもゆっくりになります。それによって彼らが罪に足を奪われているような感覚、簡単には前に進めない感じを表せるし、表情にも反映されていくんじゃないかと思いました。
Q:
雪のコントロールと色の統一について。
内藤:雪の色合いについてはそこまで考えなかったですが、山中での撮影なので天候の移り変わりが激しくて、日の繋がりには苦労しました。実際に雪が降った日もありますが、リアルに降る雪は画面上あまりきれいに見えません。肉眼で見るとちゃんと雪に見えますが、カメラを通して見ると雨が降っているように、少し汚く見えてしまう。だから雪が降っていてもスノーマシンは使って、足りない部分をCGで足しています。逆に枝に積もった雪はリアルに積もった雪のほうがきれいでしたね。
雪の種類としてはリアル雪、衣装用の雪、スノーマシン用の雪を使いましたが、これらは質感が違うので混ぜると危険。メインビジュアルのコートについた雪は、衣装用の雪を使っています。現場では衣装用の雪は途中から使うのをやめて、スノーマシーンの雪を衣装につけました。見た目だけでいうとスノーマシンが一番きれいでしたが、泡だから溶けるのでカットごとに役者がスノーマシンの下で体に浴びてから、「では撮りまーす」と。自分たちの間では「ご利益スノー」と呼ばれていました(笑)。あと、雪の下の地形がわからないので地元の人に、撮影可能な範囲を教えてもらいました。「そこ崖だから気をつけてね」「そこは畑だから大丈夫」みたいな感じで。車のミラーが足元にあるほど積もっていることもあったり。何より大変だったのは、雪の上の血糊です。リテイクする際に、血がついた雪を排除して、きれいな雪を持ってきてようやく撮れるという。すごいハードでしたね。
Q:血の演出について。
内藤:血は今までは赤黒くすることが多くて。黒いほうが映倫の審査も通りやすいという話も聞いていたので『ライチ☆光クラブ』(16)では赤黒くしましたが、今回は白と赤のコントラストでいこうと考えていたので、鮮烈な赤という印象です。もともとダリオ・アルジェント作品など色がどきついホラーが好きだったので。僕も役者さんには自分で血糊をつけたりしました。寺田農さんにつけられたのはいい思い出になりましたね(笑)。サングラスが手放せないぐらいまぶしかったので、雪のレフ効果はすごいあったと思います。彼らの肌の白っぽい感じとか、春花がまるで血が通わないマシンになってしまったような感じ、それと対照的に頬についている血糊の赤さがより際立ったかなと思います。
Q:除雪車のシーンについて。
内藤:まず除雪車がなかなか借りられなくて。「人が巻き込まれて死ぬ場面に使います」というと、「おいおい、とんでもない」と(笑)。交渉の末ようやく見つかって、血糊をいっぱい入れた血袋を置いて除雪車を回しました。一面真っ赤になってしまうので一回しか勝負できない。ぶっつけ本番でやってみたらすごくきれいに赤く染まってスタッフから思わず「おお!」と歓喜の声が出ました(笑)。飛び散る血糊の中には肉片的なもの入れています。
Q:SONYのFS7 II(マークツー)について。
内藤:FS7 IIは現場でカメラ的な待ちがそんなにないし、ハイスピード撮影のチェックもわりとスムーズにできました。特に春花が釘を持って刺すところは、原作でもすごく印象的なカットですが、テイクを重ねたのでチェックに時間がかからなかったからいけたのかなぁと思います。横からブロワーで風を吹かせて、片目が見えつつ釘を刺したいんだけど、手があるので横からいくと風が一部当たらなかったり、逆からいくと照明的にブロワーが入れる場所がなかったりしてすごく大変なシーンだった。真宮・池川戦の前に春花が歩くHSのショットは、一瞬時間が止まったような美しさにしたかったので、後ろから風が吹いて髪が巻い上がっているようにしたいと言って。カメラがトラックしながらスノーマシンで雪を降らせつつ、ブロワーで風を吹かせていて、それぞれがバレない位置にいなければならなかったのでかなり複雑で何回かテイクを重ねましたが、チェックはストレスなくいけましたね。
今回は暴力描写も単に激しいだけではつまらないので、いろいろ面白い見せ方でいこうと僕の私物のFDR-X3000/X3000Rも使っているんです。ボウガンに取り付けたり、橘の目を突き刺すところでも使っていたりします。春花の最後の一撃に登場するアクションカム・ショットは、ジャウマ・コレット=セラ監督『ラン・オールナイト』のオマージュです。
Q:ドローン撮影について。
内藤:ドローンは初めてでしたが、雪国の全景を撮りたかったのでプロデューサーがMavic Proを用意してくれました。全景シーンは降雪時に飛ばしたので、雪がカメラに飛んでくる感じを撮れて。家がぽつんぽつんとミニチュアみたいに見えるとか、周りを山に囲まれている感じが春花がいじめられる窪みとちょっと似ているなとか、使いながら発見でした。ドローンはラインプロデューサーの森満(康巳)さんが飛ばしているんですよ。この映画のためにスノーマシンとドローン操作をマスターしてくれて(笑)。Mavic Proはおもちゃみたいな感覚で、簡単な動きだけだったらある程度練習すればできるって言ってました。色温度などの設定は撮影部が操作して、ドローン自体の操作はラインプロデューサーがやっています。
Q:作品について。
内藤:本作の時代設定は99年くらいです。田舎に住んでいてスマホもなかった時代って、外と繋がるということが一切なかった。田舎の閉ざされた社会で「絶対に出られないんだ」という絶望感が前提にあります。僕は学生時代、いじられる側の立ち位置だったので、直接自分が共感できるのはいじめられる側だったりしますが、ものづくりを始めてからは加害者側の意識がすごく気になって、毎回そういう視点になります。登場人物はそれぞれ突き抜けたような残虐な行為はするけど、彼らの背景にはそれぞれ葛藤がある。いじめグループの子たちもひどい家庭環境にあって、自分たちが加害者というよりは被害者くらいの意識でいると思うんです。ただ、妙子だけが唯一、自分の加害者性に気づく……だからこそ彼女に与えられる結末が決定的に違うのかなとは思っています。
内藤瑛亮(ないとう・えいすけ)
1982年12月27日生まれ、愛知県出身。映画美学校第11期フィクション・コース高等科修了。2008年、初等科の卒業制作で短編『牛乳王子』を制作。学生残酷映画祭2009でグランプリを受賞するほか、フランクフルト・ニッポンコネクション、スラムダンス映画祭で上映されるなど国内外の映画祭に招待される。卒業後は特別支援学校(旧養護学校)に教員として勤務をしながら自主映画を制作し、2012年に愛知県の中学校で実際に起きた事件を元にした初の長編作品『先生を流産させる会』を発表。全国劇場公開され、インターネットを中心に数々の論争を巻き起こした。2014年には仙台短編映画祭にて、仙台短編映画祭制作プロジェクト「311 明日」に参加し、『廃棄少女』を制作。その後、短篇作品『お兄ちゃんに近づくな、ブスども!』(12)、『救済』(13)や長篇作品『パズル』(14)を手掛ける。2015年には古屋兎丸の人気漫画を原作とした『ライチ☆光クラブ』の監督を務め、映画監督としてさらに注目を集める。TBS『怪談新耳袋 百物語』(10)、TBS『悪霊病棟』(13)、『リアル鬼ごっこ ライジング/佐藤さんの逃走!』(15)、dTV『不能犯』(17)などドラマの監督や、うみのての『WORDS KILL PEOPLE(COTODAMA THE KILLER)』(13)、リーガルリリーの『ぶらんこ(Lycanthrope)』(18)等ミュージック・ビデオの監督も手掛ける。現在、長編自主映画『許された子どもたち』を製作中。
《使用機材》
カメラ機材:XDCAMメモリーカムコーダー「FS7 II」
(XDCA-FS7を装着し、XQDカードにProRes 422 HQで収録。ハイスピード撮影時にはProResからXAVCに切り替えて撮影。暴力シーンには監督私物のFDR-X3000/X3000Rも使用)
ドローン:dji Mavic Pro
《STAFF》
監督:内藤瑛亮
原作:押切蓮介
脚本:唯野未歩子
主題歌:タテタカコ
製作:安井邦好 、新井重人、岡本東郎、鈴木仁行
プロデューサー:田坂公章、原田耕治
ラインプロデューサー:森満康巳
キャスティングプロデューサー:増田悟司
音楽:有田尚史
撮影:四宮秀俊
照明:秋山恵二郎
美術:山岸 護
録音:根本飛鳥
特殊メイク・造型:百武 朋
アクションコーディネート:富田 稔
衣裳:青木 茂
ヘアメイク:望月志穂美、遠山直美
編集:大永昌弘
サウンドデザイン:浜田洋輔
VFXディレクター:呉 岳
キャスティング:大口星子
助監督:桑原周平
制作担当:山本敏司
《CAST》
山田杏奈 清水尋也
大谷凜香/大塚れな 中田青渚 紺野彩夏 櫻愛里紗 遠藤健慎 大友一生 遠藤真人
森田亜紀/戸田昌宏 片岡礼子/寺田農