東京オリンピック種目となり、注目度が上がっているスケートボード。スケーターと呼ばれる彼らの中で、滑りながらカメラを持ち仲間たちを撮影する「FILMER(フィルマー)」という存在に焦点を当ててみた。iPhoneGoProといったコンパクトで綺麗に撮ることが機材が増える今、彼らは約20年前に発売されたソニー「VX1000」に憧れを持ち、それで撮ることに意味を持つ。それは一体なぜなのか。今回若き女性FILMERと共にプロスケーターであり、日本のFILMERの第一人者である森田貴宏氏を訪ねた。彼の武器こそが「VX1000」。ここにルーツがある。

取材・文◉村井祐里 構成◉岡堀浩太(編集部)

村井祐里
東京都出身。スケーター、フィルマー。北海道から沖縄まで、全国の女性スケーターを映し出す『Joy And Sorrow』を制作。第4作目となる「Re:Start」は来年発売予定。
https://www.instagram.com/yuriyuri_desu/

森田貴宏
昭和50年12月21日生まれ、東京都杉並区出身。プロスケーター、映像作家。ビデオプロダクション・FESN代表。地元・中野で『LIBE BRAND UNIVS.』を運営しながら、スケボー怪人として世界と格闘中。
http://fareastskatenetwork.com/work/

 

センチュリーのレンズがVX1000
スケートのカメラに定着させた

村井 あらためまして自己紹介からお願いします!

森田 昭和50年生まれだから今年で43歳です(笑)。スケートボードは13歳からはじめて、16歳でスポンサーがつきました。19歳まではプロスケーターって呼ばれる部類に入ったんだけど、大きな怪我をしちゃって。怪我で自信喪失してたんだけどやっぱりスケボーが好きで、スケボーと関わる時間が少しでもあればと思って、仲間のビデオを撮り始めた感じです。

村井 最初はどんな機材を使っていたんですか?

森田 俺のファーストカメラは家にあったビクターのVHS-Cっていうデブカセットのカメラ。それが3回くらい使ったらぶっ壊れて。それから友達からHi8のハンディカメラを借りて撮ってました。スケートはできるから、滑りながら撮るのもすぐ出来て「案外俺うまいじゃん」って(笑)。で、本格的にスケボービデオ作ろうと思って買ったのがVX1。でも豚に真珠で。なんでかっていうと、扱い方が分かってないの。初めの映像とか見るとひでーなって感じ。フィルマーとして一番最初に勉強したのはVX1かな。

村井 アングルとかはどうやって勉強したんですか?

森田 そこに関する悩みは一切なかった。絶対ここでしょみたいな変な自信はあったね。美意識というか。それは子供の頃から映画をたくさん観て育ったからかもしれない。シュワルツネッガーの『コマンドー』で武装するシーンがあるんだけど、そのシーンを鏡の前で真似して遊んでたわけ。だからレンズつけて、テープ入れてっていうビデオを武器に見立てた映像っていうのは、映画の刷り込みなんだと思います。

村井 VX1はどんな機材でしたか?

森田 ハンドのズーミングはVX1が最高だった。なんでかっていうとブレがなかった。ポンって戻せばスパンっと合う。俺がよくやった手法で、一番引いた状態から、ここにはいかないだろうっていうところにストンと寄るためにはある程度のズーム力が必要だった。だからVX1は画角においては完璧だと思ってた。VX1000は、初めは全然ダメで、なんだよこれって。サブカメラとして使ってたんだけど、その時期にセンチュリーの0.2っていうすごい画角のフィッシュアイが、アメリカのスケボービデオで使われたんですよ。なんだこのレンズはって話題になって。ケラレがなかった。俺はそんなに興味なかったんですけど、たまたまニューヨークにいて買える状況だったんで買ってみようって。それでVX1000とセンチュリーの組み合わせが生まれたの。このセンチュリーのレンズがVX1000をスケートのカメラに定着させたと思う。

 

◉VX1000で撮られた作品

『FESN /overground broadcasting / FESN Headquarters part(ビリヤードパート)』

森田さんが制作したDVD”overground broadcasting“のラストを飾るビリヤードパート。VXカメラユーザーが憧れて現在もスケーターに受け継がれるアングルや編集。スケーターに影響を与えた代表作。

『2012-2018 joy and sorrow 1.2.3 pick up movie』

2012年から2017年の間2年スパンで第3弾まで発売中。VX2000片手に全国のガールズスケーター約60人を撮影し、スケーターはもちろんスケーター以外の人も楽しめる笑いあり涙ありな内容となっている。

街中で起こった伝説を映し続けた
90年代を代表する名機

村井 今はGoProだったりスマホで綺麗に撮れますが、VXに憧れてる若い子は多いです。

森田 本気で撮るならVXが最高だね! グリップがついてるじゃないですか? スケートをローアングルから撮る上で適してる。ハンディカムだとその分低く屈まなきゃいけないけど、グリップがあることによって屈まなくていい。グリップに関してはVX1の方がバランスがよかった。1000はブレる。俺はずっとプロでやってたけど、プロになるためには練習が必要で、まずスケートボードが好きかどうか。そして日々スキルと磨いていけるかどうか。そういう人種なんで、ビデオカメラに関してもそうだった。指一本で撮るとかね、そういうのを自分に課して磨いきた。そうやってカメラのバランスを体に覚えさせていったの。だからVX1の方がバランスいいなって。で、2000が出てくるんだけど、グリップのバランスは一番好きかな。

レンズも同じで、フィッシュアイって同じ幅動かすにしても一番ものが動く距離があるんですよ。そういうレンズの特性を知らなきゃいけないんです。だからスタジオ入って、人立たせて、モニター見ながらこの距離で動かしたらこういう絵になるんだっていうのをで全部チェックするんです。あのレンズはスピード感を殺しちゃうレンズでもあるんでそういうところが深いよね。

あとはこれは精神論なんだけど、ソニーは日本のメーカーじゃないですか? だから俺たちの武器なんですよ。日本刀みたいなもん。俺は海外で撮ることも多かったから、ソニーのカメラを持ってる時は日本刀を持ってるっていう気持ちだった。絶対負けねーって。俺の場合は勝負っていうのは大きくて。スケボーするたびに自分との勝負だし、ビデオ撮ってる時も俺は絶対スケーボービデオで天下取るって信じてやってた。

ただ、機材に関して言えばVXに限らないでいいと思う。たまたまVXが俺らの時代のメインカメラだったから、いまだに大切に使ってるだけ。169より43のほうが近くに寄れて迫力あるけど、それも俺らの時代の感覚なんだと思うんですよ。

村井 その時代への憧れみたいなものはあるのかもしれませんね。

森田 スケートビデオに関して言えば、90年代が最高期で、その時代にいろんな伝説が生まれたのは確か。そう思ってる奴が多い証拠なんじゃないかな。確かに強烈な時代だったもん。もちろん今のほうが技はすごくなってるし、機材も全然すごいんだけど、価値基準がそこで出来上がっちゃったところがある。憧れてもらうのは普通に嬉しいけどね。かっこいいと言われてることは、俺たちがやってたことは間違いじゃなかったなって思えるからさ。

スケボーの価値観を
作るフィルマーという存在

村井 スケーターにとってフィルマーってどういう存在だと思いますか?

森田 そもそもスケボーという文化を広めたのがビデオなんですよ。ネットがない時代は雑誌が一番の情報源だったんだけど、写真だけじゃスケボーの動きが分からからビデオを作ったの。そういうのはブランドが作るからめちゃくちゃかっこいいんですよ。プロスケーターの滑りに、最先端のパンクとかハードコアの音楽が乗って、編集も斬新。そういうビデオを見て育ったから、スケボー=かっこいいって思ってた。

だから、フィルマーって重要なポジションだと思う。今も昔もフィルマーの作った作品が世の中にスケボーを伝えるわけだから。スケボーのイメージはフィルマーのセンスにかかってくるわけだから、自分たちの美意識を見せるチャンスだと思うよね。

村井 フィルマーは地元に根付いた活動をしてる人が多いですよね?

森田 俺は地元の中野のビデオばっか作ってるけど、それ自体が中野の歴史でもあるんですよ。俺はアメリカやヨーロッパに行った時に地元のローカルビデオ見せてもらうんだけど、昔から世界各地のローカルにすごく興味を持ってるの。

当時からかなりスケボーにのめり込んでたから、滑りからくる訛りみたいなものを感じてて。それ実際に海外に行かないと撮れないわけなんですよ。だから毎年三ヶ月とか海外行ってたんだよね。で、日本帰ってくるとどうしても比較しちゃうんですよ。でもそれが、「ウチの地元をかっこよくしてやる」っていうパワーに繋がってた。中野はフジヤエービックもあるし、俺にとってビデオの聖地。そこでスケボーのビデオを撮り続けることに意味があると思ってる。フィルマーはそういう熱い気持ちを持ってるやつがなるんだよ。スケボー愛がなくちゃ絶対できないしね。

村井 最後にスケボーがオリンピック競技に選ばれたことについてなんですが……。

森田 それめっちゃいい質問! 2020年の東京オリンピックで初めてスケートボートが競技種目に選ばれて注目度が上がってるわけ。日本のスケーターが一番かっこいい、一番すげー、一番面白いって世界中の人に示すチャンスなんだよ。それは応援する側だって同じだと思うんだよね。熱い思いが全世界に発信されるわけだからさ。だから熱狂的なファンを作っていかなきゃいけない。

スケーターってお祭り騒ぎが大好きで、世界の奴らと物怖じしないで対等に遊びたいと思ってるから、日本のスケーター底力を見せるのは選手も俺たち観客も一緒だよ。スケートボードは進化の過程にあって、俺たちが今作ってるものだと思ってる。クリエイトする力が強ければそこが最先端になるから、オリンピックはそのチャンスだと思ってる。スケーターは遊びのプロだからさ。みんなが楽しむために何かしたいよね!

▲ 日々スケーターたちを撮り続けるフィルマーという存在。彼らは記録するだけじゃなく、発表しカルチャーを伝える大切な役割を果たしている。(写真提供◉石井大輔、スケーター◉藤澤虹々可)