『空色SODA – 紺碧にふれる MusicVideo』を作った板谷勇飛さんインタビュー


ビデオサロンの投稿ページ「Views」の2018年11月号投稿作品『空色SODA – 紺碧にふれる MusicVideo』を応募してきてくれた板谷勇飛さんは、岡山県在住の高校生としてすでに映像クリエイターとして活動を始めていた。本格的に映像制作を目指すきっかけは高校1年のときに学校でプロジェクションマッピングを実現したことだったという。それをさらに大規模にしたくて、高校2年のときに、テレビ番組の「夢の実現をサポートします」的な企画に応募。その企画が通って、多くのプロジェクションマッピングを手がける制作会社であるネイキッドに5ヶ月間お世話になり、マッピングの制作について学んだ。最終的に学校でプロジェクションマッピングを公開するまでの過程はテレビ番組にもなり、それをきっかけにプロの現場のやり方も学べたし、番組がきっかけでTwitter経由で人脈が広がっていったそうだ。そして映像で生きていきたいという思いが固まったという。そしてこの春、岡山の高校を卒業。慶応SFCに入学した。上京した板谷勇飛さんにお会いした。(一柳)

ーーすでに高校生で地方CMを制作されているわけですが、一体どんな子供だったんですか?

 子供の頃から映像というわけではなく、もともとギークのほうから入っていまして。幼稚園のときは車マニアだったんですよ。特に車のインテリアが好きで、それから家電に興味が移って、祖母の使っているワープロを使い始めまして。小学校の低学年でパソコンにのめりこんで、ウィンドウズのOSを触り始めて、サーバー管理系の勉強をしたりとか。

 中学に入ってから、授業でプレゼンをすることが多くなり、パワーポイントを使いますよね。僕は自己紹介でもパソコンできるやつ風のキャラで通っていたんですけど、みんなパワポはふつうに使えるんです。僕のアイデンティティはどこにあるんだろうと焦りを感じまして。

ーー中学1年でパソコンに詳しくて、パワーポイント器用に使えれば凄いと思いますが、周りも結構レベルが高いんですね。

 パワーポイントのアニメーション機能とかが好きだったんで、パワポにのめりこんで、そこでデザインを勉強しようと。ネットの情報をたよりに、パワポのスライドデザインをやりはじめて、そこからグラフィックデザインへの興味に繋がっていきました。

ーーそういう興味の展開のルートがあるとは想像もしませんでした。

 すべてがパワポ始まりで、パワポのデザイン、アニメーション機能、あのアニメーションウィンドウの自動再生で動画風の物を作って。そこからこういうことしたいなら、動画編集すればいいじゃんということになって。でも、アフターエフェクツとプレミアの違いもわからない。ネットの知恵袋で質問しても、よくわからない(笑)。

 で、とりあえず編集ソフトを買おうと、家電屋さんにいって、サイバーリンクのパワーディレクターを買ってきました。そこで触り倒していたんだけど、下に敷く動画がないとダメじゃんということになって、それで写真素材をスライドショーにして、担任の先生に向けたありがとう動画をパワーディレクターで作りました。そこでNLEがどういうものかはわかってきて、プレミアとアフターエフェクツの違いがわかり始めたんです。じゃあ、これはアフターエフェクツをやるしかないじゃないかということになりました。でもパソコンがあまりに非力だったんで、親に頼み込んで10万円出してもらって、仲のいい友達に自作パソコンマニアがいるんですけど、彼に手伝ってもらってデスクトップPCを作りました。

 で、小遣いの半分はCreaive Cloudに払って、アフターエフェクツを始めたんです。

ーーご両親はカメラとかパソコンの趣味はなかったんですね。

 そうなんです。カメラは小学校5年のときに、コンデジを買ってもらって。ただそれも家電好きの延長なんですけど。自分では気がついてなかったんですけど2泊3日の旅行で1000枚以上、撮影していまして。デザインとギークの趣味が映像制作で合わさったような感じですね。

 高校に入って写真部に入ろうと思って、祖父に一眼を買ってもらったんですが、それがニコンのD5300で、そこから一眼動画に入っていくことになりました。

 プレミアの編集は、瀬戸弘司さんの編集方法とテキストスタイルをひたすら研究して真似しまして。デザインが好きなんで、ひらすらテレビのバラエティのテロップをスマホで撮って、プレミアで再現するということをやっていました。いまもそのレガシータイトルはいただいているお仕事でも使っています。

ーーうーん、そんな研究をしていて、学校の勉強をする時間はあったんですか?

 まったく勉強してないです(笑)。映像ばっかりやっていて。好きなことが見つかってしまったんで。映像は好きで、人と話して企画運営することも好きなんで、そういう団体を作ったりしているうちに、仲良くなった先生が慶応のSFCというところがあると教えてくれて、君はここだろうと。たしかに調べたら、入試は英語と小論文だけで、入ってからも必修課目はほとんどない。この間履修届を出しましたが、ソフトウェアのアーキテクチャー、デザイン、組織のコミュニケーションとか、好きな授業しかないんです。ほんとに、SFC自体がWi-Fiはキャンパスのどこでもマックスの強度でつながるし、3Dプリンターも使いたい放題、ふつうにドローンが飛んでるし、授業中もTwitterでハッシュタグで投稿して、教授とコミュニケーションとれるし。ちなみに大学の図書館には、ビデオSALONのバックナンバーは全部ありますし、自分にとっては最高の環境です。

ーーおー、素晴らしい大学ですね。大学に入って、カメラはどうされますか?

 ポケシネ4Kを12月に予約したけどまだ届かないんです。仕事では制作会社が所有しているポケシネ4Kを使ったんですが、個人のものがなかなか手に入らないんですね。

 映像を作っているうちに自分が好きな系統の画がわかってきて。ダイナミックレンジが広く、被写界深度が浅くて、フレアがきれいに入ってくる映像、ARRIツァイスのマスターアナモフィックの映像がすごく好きなんですけど、到底、簡単に手が届くものではありませんが。

ーーそのうちマスターアナモフィックをレンタルできるような仕事ができるようになるといいですね。

 アナモフィックは海外のネットの情報も参考にしながら、中古のプロジェクター用のアナモフィックレンズで再現しようとしてるんですけど。

ーー今のCMをみてもアナモフィックは本当に多いし、フレア表現も定番になっていますね。

 フレア表現の魅力に気がついたのは、新宮良平さんの映像です。新宮さんは欅坂46のミュージックビデオを作っている方で、SFCの先輩でもあるので、Twitterで連絡したら、今度お会いできることになったんですけ、その方のフレアの表現がホントに好きで。新宮さんはディレクターですけど、カメラも回せて、3D CGも使えるというマルチな人です。

ーー板谷さんは、まずは新宮さんを目指す感じですか。

 そうですね。この人は追いかけていきたいです。欅坂46の「二人セゾン」を初めてみたとき、2017年9月だったんですけど、手が震えるくらい感動して。それまでアイドルにはまったく興味がなかったんですけど、偏見がなくなって。これを見たことで実写への意欲が湧いてきたんです。

この方の映像は、フレアだけの画が結構な尺で入っていて、それこそアイドルの顔がフレアで隠れるくらいのカットもあるし。それでも受けいれられるんだなという驚きもありました。

 レンズへの興味もきっかけがあって、高一のときに妹のマラソンを撮りにいったら、でかい望遠レンズをもったおじさんがいて、その人と話しをしていたら、オールドレンズが大量にあるから君にあげようと、防湿庫ごと20本ほどいただいたんです。

ーー気前がいい人がいるもんですね。

 その中にニコンの戦後すぐくらいの古いオールドニッコールがあって、開放F2のレンズだったんですけど、そこで初めて被写界深度の浅い画の意味を知りました。それまでF1.8のレンズは欲しいと思っていたけど、単なる「筒」に2万円出すというのがなかなかきつくて。

ーー筒(笑)?

 バイトもしちゃダメな中高生にとって2万円って大きなお金だし。オールドレンズがF2でそういう描画になるということを知ったことで、筒に2万円払う勇気が生まれまして。ニコンの50mm F1.8を買ったんです。ポイントがついて2万円ちょっとくらいで。

ーーたしかにキットレンズはF3.5くらいからですもんね。しかもAPS-Cだし、ボケないですね。メーカーが2万円くらいで買えるレンズを出している意味がよくわかります。これはニコンの人も喜ぶ話でしょう。

 そこではじめてシャッタースピードとか、NDフィルターが必要だとかを知っていくことになって、そこから実写が好きになってきたんです。ただ写真は趣味で撮りにいっていたんですが、動画では、ニコンD5300はファインダー使えないし、フォーカスピーキングができないんですよ。ちょっと厳しいなということになって、『空色SODA – 紺碧にふれる』では、外付けのモニターをつけて、フォーカスピーキングでピントを確認しながら撮りました。レンズは50mm1本です。

ーーえ、1本だけですか? そういう目でもう1回見てみますね。

 広い画はだいぶ離れて撮っています。ジンバルもそのときは使ってなくて、カメラにもレンズにも手ブレ補正がついてないんで、重めの三脚をぶら下げるようにして、パン棒伸ばして肩に乗せて、手持ちでもなんとか安定するようにして撮りました。

ーーTwitterでは8bitでもなんとかグレーディングできるとつぶやいていましたね。

 本当はRAWやLogで撮りたいのですが、D5300はニコンが「フラット」を入れる前のものなので、最初は「ニュートラル」で撮ってグレーディングしていましたが、海外のサイトで、ニコン用のピクチャープロファイルがあったので、それを入れて、プレミアのLumetriで補正をかけています。ただ、そのピクチャープロファイルが案外使いやすくて。慣れているからというのもあるんですけど、プレミアのLumetriで補正したら結構いい色が出てくれます。こういう色に近づけたいというのは難しいんですけど、なんとなくこんな感じにしたいという程度ならわりといい色に仕上げてくれます。

ーーまだ大学に入ったばかりですが、今後はどうしていきたいという将来イメージはありますか?

 このまま美しい映像、クライアントから求められる映像を作り続けて、そのなかに自分の主張も盛り込んでいけるような映像クリエイターになりたいですね。

 それだけじゃなくて、映像というジャンルは最新技術がいろいろ出てきて柔軟なジャンルだと思うんです。コンピューターで映像を作るようになってからまだそんなに時間がたっていない。これからも新しいスタイルが生まれていくと思います。そういう時代に、ああ、あの人が映像をこういうかたちにもっていったんだという、そのなかの人に入っていたいなと思っています。

 プロジェクションマッピングにしても、AR、VRにしても、モニターやスクリーン内ではなくて、現実世界にはみ出している表現です。これは技術が可能にした映像表現です。そのうち脳で映像が生成できるようになると、映像を作るというという工程がいらなくなる。従来どおり映像を構えて作るという方向もありますが、映像自体が無意識のうちに手足のように操作できる時代がくるんじゃないか、と薄々思っていまして、そういうところの研究を大学でやっていきながら、映像クリエイターとしての視点を研究にも活用して、ちょっと変わったクリエイターになれればいいなと思っています。

ーー今の段階で想像できないくらいの新しい映像表現スタイルが生まれると面白いですね。

 そうなんです。映像はいろんな技術や分野と一緒になれるという特性があるので、今ジャンルを決めつけるんじゃなくて、映像クリエイターとして軸はもちながら、大学の環境も活かしながら活動していきたいです。

ーーありがとうございました。これは定番の締めの言葉じゃなく本当にこれからのご活躍を期待していますね。