ドローンショットを主観映像として 成立させるための演出と撮影術〜テレビドラマ『カラスになったおれは地上の世界を見おろした。』舞台裏インタビュー


文●青山祐介/構成●編集部

通常ドローンショットは状況説明の、いわゆるエスタブリッシュショットとして利用されることが多い。
しかし、この作品ではそれをカラスと体が入れ替わった主人公の主観映像として活用している。
それを違和感なく視聴者に受け入れさせる巧みなストーリーテリングと演出・撮影の裏側についてお話を伺った。

 

 

『カラスになったおれは地上の世界を見おろした。』

【あらすじ】ひょんなことからカラスと体を交換してしまった男(眞島秀和)は、大空を羽ばたき人間の世界を見おろした。だが、そこで目にしたのは自分を裏切る部下(淵上泰史)や妻(野波麻帆)、自分は何も気づいていなかった息子の隠された姿だった。

【データ】(監督)(脚本)戸田幸宏(撮影)三村和弘、田中道人(照明)田部誠(音声)宋晋瑞(編集)後田良樹(VFX)村上優悦(制作)橋立聖史(制作統括)村松 秀、西村 崇(出演)眞島秀和 、淵上泰史 、野波麻帆、江波杏子 、酒井美紀 ほか

●本編はNHKオンデマンドで配信中 http://bit.ly/karasu_nhk

 

監督とカメラマンにインタビュー

右から演出・脚本を手がけたNHKエンタープライズの戸田幸宏さん。空撮を担当した田中道人さん。地上での撮影を担当したLamp.の三村和弘さん。

 

「おれと体を交換しないか?」

泥酔したIT会社社長の主人公は公園のベンチの上で目覚めると、傍のカラスからそう声をかけられた。意識朦朧とする中でカラスと身体を交換し、空から世界をみおろすという新しい視点を手に入れる。

しかし、そこには家族、職場、そして親子と、普段の視点では見えていなかったさまざまな事実を目の当たりにすることになる。そんなカラスの目線をドローンのカメラワークで表現したのが、『カラスになったおれは地上の世界を見おろした。』というドラマだ。

いつも3人のチームでドローンカットを考えた

全編ドローンで撮影したドラマがあってもいいんじゃないかと思い、人間とカラスが入れ替わりカラスの視点でいろいろな場所を見て回るというストーリーを考えました」と話すのは、このドラマの脚本も手掛けた戸田監督。カラスの視点を通じて自分の人生の真実を見せるという物語によって、ドローンという最新技術のカメラワークが、登場人物の感情とうまくシンクロするのではないかと考えたという。

ただ、実はそれまでまったくドローンに対する知識がなかったという戸田監督。ドローンの動きや撮れるアングルから、飛行できない天候や場所などなど、知らないことだらけだったという。そんな戸田監督と、企画段階から撮影現場まで一緒になって撮影を進めていったのが、Lamp.のカメラマンである三村さんと、ドローンカメラマンの田中さんだ。

「戸田監督の脚本には、例えば“ビルに沿って空に向かって上昇していく”といった、カラスの視点が具体的に書かれていました。しかし、今回準備できる機材の中ではそれに対応できませんでした。また、撮影期間中はとても雨が多かったのですが、そもそも雨の中では飛べないといった物理的な制約もありました。ただ、しっかりした脚本があったので、できることできないことをスムーズに見極めることができました」と三村さん。

一方“カラス視点のカメラワーク”という、今までにない依頼を受けたドローンカメラマンの田中さん。以前からプロデューサーが田中さんの作品を見て目を付けていたといい、カラスの視点を表現するための高い技術に応えられるということで白羽の矢が立った。また、こうした撮影ではドローンの操縦とカメラワークを二人で分担する2オペレーター体制とすることが多いが、今回は田中さんのカメラワークを尊重するという意向から操縦とカメラワークの両方を一人でこなす1オペレーターでの撮影となった。

 

主観ドローンショットは3人で作り上げていった

Inspire2にはマイクロフォーサーズのレンズ交換式カメラ・Zenmuse X5Sを装着して撮影。戸田監督の演出のもと、まさにカラスになった気持ちで機体を操作したという田中さん。地上の撮影を手がけた三村さんも加わり、三人でカラスの主観映像を作り上げた。

 

不安定なカメラワークでカラスの眼を演じる

カメラワークでカラスを演じるともいえるこのミッション。田中さんがまず気を付けたのは“ホバリングをしない”ことと“後ろに下がらない”ということから。さらに、「川べりでカラスが乗り移った主人公を旋回しながら見おろすシーンがあるのですが、これをノーズ・イン・サークル(被写体を捉えながら周囲を周回するカメラワーク)で撮るのは決して難しくありません。ただ、戸田監督からは“人間がカラスになった時にどういう飛び方をしてみたいか、ということを想像して飛んでください”と言われてとても悩みました」と田中さん。

三村さんは「三人で“フレームアウトしたほうがむしろ鳥っぽいね”という話もしましたが、一方で“お芝居の大事な瞬間はいいところで捉えられないといけない”という、田中さんには難しいお願いをしていました」と、今回のドローンによるカメラワークの難しさを語る。

さらに三村さんは、「最初に川べりで主人公と入れ替わった時の撮影をできたのはよかった」と振り返る。「カラスと主人公が入れ替わってすぐは、主人公もカラスの飛び方に慣れていない。だから、主人公の周りを旋回するときも、もし本当のカラスだったらドローンでもビシッと人をセンターに置いて飛びまわれるのかもしれません。でも人間が乗り移ったばかりのカラスなので、むしろ飛ぶのは下手でいいと思っていました」

実は、この“入れ替わったばかりのカラスの不安定なカメラワーク”というのが、ドラマ全編を通じて視聴者に“ドローンからのカットはカメラの視点”であることを刷り込ませることとなる。その結果、「物語後半ではたとえカラスの動きから外れたカメラワークだったとしても、ドローンで撮影しているというノイズが入らずに、カラスになった主人公の視点だということが伝わりやすくなった」と三村さんは語る。

 

 

飛ぶカラスの姿なしにカラスの存在感を伝える

物語の後半には高層ビルのオフィスやマンションの上層階で、窓越しに建物内で進む芝居を撮るというカットがある。

「ビルの敷地は狭く、そこに至る過程でストロークが取れず、ビルに沿ってアプローチするしかない。それに目標の窓がどれなのかがパッとわからないのに苦戦した」という田中さん。しかし戸田監督は「旋回しながら目標の窓にたどり着くほうがストロークも稼げるし、画が目まぐるしく変わり、カラスっぽかった」と語る。

物語を通じて“カラスになったおれ”という主人公を演じたドローンによるカット。「ドローンの撮影カットというと“こんなドローンの画を見たことないだろ”ってことになりがちです。でも、今回はドローンの画が主観ということで、そういった印象をいかに抜いていくかが成功のカギだった」という三村さん。

戸田監督も「田中さんはカメラマンというよりも、カラスになった主人公という人格をドローンのカメラワークで演じてもらうことになりました。それはとても難しいことだったと思います」と振り返る。

実はこの作品、物語上で上空を飛んでいるカラスを撮ったシーンはない。この作品を見ている人が、カラスが飛ぶ姿を見ることなくドローンのカットをカラスの視点だと没入できたことこそが、作り手の狙いが大成功だったと言える作品の証ではないだろうか。

 

ビルの窓越しのシーンでは映り込みに苦労した

ビルの撮影では映り込みに苦労した。ドローンは外から操縦するため、ビルの中にいる役者の芝居の音声はモニタリングできず、入念にリハーサルを行い、それを元に本番の撮影に挑んだという。

©NHK

 

地上ではVARICAMをメインに使用

地上のメインカメラはパナソニックのハイエンドシネマカメラ・VARICAMを使用。

 

地上での主観映像はOsmo Proを使用

地上に降り立ったカラスの主観映像のショットではドローンの映像と画をあわせるため、X5Sと同じくマイクロフォーサーズレンズを使えるDJI Osmo Proを採用した。

©NHK

 

ビデオSALON2019年2月号より転載