Text◉一柳

9月7日から池袋のシネマ・ロサで上映される「かぞくあわせ」は3監督によるオムニバス映画。この映画製作において課せられた条件とは、主演がしゅはまはるみと藤田健彦の二人であること、ロケーション場所は結婚式場を使うこと、撮影期間は1本1日、3日間で撮る(72時間)というものだったそうだ。

監督を務めた長谷川朋史さん、大橋隆行さん、田口敬太さんの3監督は、結婚式場のリビエラ(池袋や逗子マリーナ)でフリーランスのカメラマンとして出会ったという。公開を控えた8月下旬、3監督にお話を伺った。

▲左から大橋隆行さん、長谷川朋史さん、田口敬太さん。

 

3監督の出会い

結婚式場のリビエラ東京は基本的に社員スタッフで映像制作を行なっているが、フリーのカメラマンも参加している。リビエラの映像制作部門は10年ほど前にリビエラの奥村朋功プロデューサーが中心となり、まず長谷川朋史さんが加わり、現在の映像部門が立ち上がったそうだ。従来の記録ビデオだけではなく、「エンドロール」(当日の式や披露宴の映像を最後に上映するスタイル、いわゆる「撮って出し」)や「エッセンシャル」(式の裏側などをドキュメンタリー短編映画風に撮影して15分から20分くらいにまとめる)といったサービスを用意している。特に「エッセンシャル」はカメラマンの制作の自由度も高く、クリエイティブを生かせる部分がある。

田口敬太さんは、自主映画制作を続けながら、映画の演出部、制作部、メイキングディレクターをしていたが、2017年に自分で脚本を書いて監督した「ナグラチームが解散する日」を劇場公開することになった。その公開にあたって収入をどうしようかと思い、ネットでアルバイト先を探していて見つけたのがリビエラのブライダルカメラマン募集。バイトのつもりで気軽に応募したところ、前述の奥村さんと長谷川さんが待ちかまえていて、いきなり映像を見せられたのだという。その映像が「エッセンシャル」で、従来のような記録映像ではなく、セミドキュメンタリー的なものだったので、作り手として興味を覚えた。なによりも二人の熱量がすごかったのにも圧倒された。すぐに田口さんも加わり、フリーランスのカメラマンとして「エッセンシャル」を中心に仕事をしていくことになる。

大橋隆行さんも映画のメイキングディレクターを務めながら自主映画を制作している監督で、2014年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編部門で「押し入れ女の幸福」でグランプリを受賞。2018年長編映画「さくらになる」に全力投入したこともあって劇場公開した後は、もぬけの殻状態になっていたそうだ。ブライダルの仕事は大学を出てから10年以上やってきていて、それももうやめようかなと思っていたときに、リビエラの奥村さん、長谷川さんと出会った。田口さんとまったく同様、映像を見せられて口説かれた。それが昨年の秋のことだ。

二人の監督を引き入れた長谷川さんは、ブライダル映像は20代の頃からやり続けているベテラン。演劇もやっていて、しゅはまはるみと藤田健彦は演劇の古くからの友達で、その二人の役者が主導で自分たちが出る映画を作りたいというのが、今回の映画のきっかけだったそうだ。

最初は長谷川さんがもっていた舞台用の台本を原案に映画化するということを考えていたが、なかなか企画が進まず、1年が経ってしまう。

そのうち大橋さんが加わり、リビエラのプロデューサーである奥村さんにも協力してもらえることになり、3人の監督がそれぞれ脚本を書き、予算はそれぞれ10万円、1日ずつロケをやり、衣装やロケーションはリビエラにお願いするという条件で話が進み始めた。

3本の作品について

撮影は昨年12月中旬の連続3日間、場所はリビエラ逗子マリーナとその周辺で行われた。

第1話の「左腕サイケデリック」は脚本・監督が長谷川さん。

左腕がもし銃だったら指輪交換ができなくて大変だよね、という居酒屋での与太話がきっかけで、得意な合成も生かして、途中からUFOが出てきたり、江ノ島が爆発したりというSFのような展開。

長谷川さんがメインの撮影で、サブは奥村さん。田口さんは役者として参加し、大橋さんは撮影助手とメイキング。

カメラは長谷川さんが普段の仕事でも使っているニコンのZ 6とニコンのAi  Nikkor 50mmという古いレンズ。このレンズが好きでソニーのαではマウント変換して使っていたが、4K時にはクロップされるので、Z 6が出た時にすぐに導入した。このときはソニーαにはズームレンズをつけ、2カメで撮影した。長谷川さんには「映画」の現場の経験はないが、ブライダルの経験は長く、しかも「エッセンシャル」では何本も作っているで、その延長線上でできたという。尺も「エッセンシャル」は15分から20分ということが多いが、まさにその間の17分に収まった。

第2話の「最高のパートナー」は、主演のしゅはまと藤田が、飲み会で出会った男女のパートナーコンピューター(スマホ?)という不思議な設定の物語。脚本・監督は大橋さん。映像はモノクロスタンダードで、昔の日本映画を思わせるようなタッチが独特。当初の脚本は長谷川さんのものとかぶる部分があったので、絶対にかぶらないような独特な役柄、キャラクターを考えたそうだ。短編なので話の展開上無理が生じるが、それも昔の映画のタッチであれば、可愛らしく感じるというところを狙った。

カメラはロケがEOS C100 Mark IIで、チャペル内がα7III。機動性の面でC100を導入し、チャペルシーンは全編スローのためハイスピード撮影が可能なαという使い分けをした。撮影は小海祈さんがモノクロの雰囲気に合う画を撮ってくれた。田口さんは役者やスタッフを都内から逗子まで連れてくる車両担当(ドライバー)として、長谷川さんはメイキングを担当。

 

第3話の「はなればなれになる前に」は3本のうちでも最も長く52分。結婚式場といえば、結婚、家族が集まる場所だが、田口さんは離婚する夫婦とその子供たちの話にして、そこからタイトルを思いついてプロットを書いた。当初はそのプロットが膨らんで数日間の話になるような脚本になったが、最終的には1日の出来事に集約した。

撮影は長谷川さん。田口さんの映画の特徴としてセリフを近いマイクで録る独特な音場感があるが、あえてそれとのギャップを生むためにカメラはできるだけ引いて、人物に寄っていかないフィックス、長回しという撮り方に徹した。声は基本的にピンマイクだが、波のシーンなど現場音が使えないところはアフレコしたそうだ。カメラはRED SCARLET。大橋さんがメイキングを担当。

 

ウェディング映像に携わっている人に見てほしい

長谷川さんは、映像業界の中でウェディング映像というと、業界のヒエラルキーの中で不当に下に見られると言う。かつては映像そのものに興味がなくお金目当てでやっていた人も多い業界だったが、現在はそれほど割りのいいジャンルではなくなったことで、逆に本当に映像が好きな人、将来は映像業界を目指そうという学生や若い人たちが残り、手がけるようになってきている。「エンドロール」やショートムービースタイルなどは撮影と編集の技術が必要であり、お客さんの目も肥え、映画作品的なものを求めている人は多い。ただ、映画的な作品を作っていると言うと、じゃあ映画館でやればいいでしょ、と言われ、それが悔しくて、それなら映画館でかけられるものを作ろうと思ったのだそうだ。

だから、ぜひウェディング映像に携わっている人たちに見てほしいという。

映画ファンも「カメラを止めるな!」の大ヒット以降、自主映画に注目し、劇場に足を運んでくれる人が増えた。この映画が、仕事としてウェディング映像を作りながら、映画は自主制作で作り続けるという循環のきっかけになるといいと思う。

「かぞくあわせ」公式ホームページ http://kazokuawase.com/