2023年3月に新潟で開催される「第1回 新潟国際アニメーション映画祭」。同映画祭がスタートしたきっかけや目的について、国内外のアニメーションに精通するジャーナリストであり、映画祭のプログラミング・ディレクターを務める数土直志さんに話を聞きました。

取材・文●高柳 圭

 

—-新潟国際アニメーション映画祭が立ち上がったきっかけと、数土さんがプログラミング・ディレクターに就任した経緯について教えてください。

配給会社のユーロスペース代表であり、この映画祭実行委員会代表の堀越謙三さんたちを中心に、長編商業アニメーションにスポットを当てた映画祭の開催を模索する動きがあるなかで、私が国内外のアニメーション作品やその制作現場を見てきた背景から、声をかけていただき参画しました。

本映画祭が目指すものとして、「優れた長編作品の発信」「地域との結びつき」「リアルな映画体験」が軸にあります。今、世界的に有名な映画祭でも長編作品が注目されていますが、アカデミー賞で長編アニメーション部門ができたのは2001年と最近の話です。一般的な映画祭において、アニメーションは短編で、ストーリーよりも芸術性の強いものが取り上げられてきました。それは、短編作品の方が小規模のチームで作れるため、制作者のオリジナリティーを発揮しやすいという側面があったと思います。しかし、近年、デジタル技術が進展し、インディーズで長編作品を作るチームが生まれたり、欧米の巨匠たちがアニメーション制作に携わっていたり、ハリウッドでは多くの予算を投じて様々な作品が作られている他、世界中でそれぞれの地域の文化や歴史を反映した作品が生まれてきていると感じます。アニメーションが大きな過渡期にある今、長編作品にスポットを当てることで、現在のアニメーション業界とその価値を改めて発信していきたいという思いがあります。

 

—-新潟という土地を開催地にしたのはどのような理由があるのでしょうか。

それが先述した「地域との結びつき」や「リアルな映画体験」につながる要素です。新潟はアニメーションや映像制作に関連する学校が多く、さまざまなアニメや漫画業界の人材を輩出している土地です。また、行政がポップカルチャーを育む環境づくりに力を入れており、地域そのものに新しいアニメーション映画祭が生まれる土壌があったと言えます。加えて、他の映画祭がそうであるように、日帰りで行ける大都市の近郊でなく、宿泊して見に行くような場所で開催すれば、その土地を知って楽しめるきっかけになるのではないかと思います。現在、アニメーションは、日本や欧米以外にもアジアやアフリカ、中東、オセアニアまで、かつてない勢いでたくさんの作品が生まれていて、そこでは地域性を始めとする多角的な視点が生かされています。新潟という土地から、日本のアニメの価値の再発見、そして世界へと繋がっていく映画祭になればという思いを持っています。

本映画祭では、4つの上映会場が設けられる予定です。それぞれの会場を巡りながら、新潟の街を楽しんでもらえたらという思いと共に、制作する人々にとってリアルなスクリーンで上映される喜びを味わってほしいと感じています。映像作品のデジタル配信が普及し、制作している段階で、どこで観られる作品なのか知らないまま携わっているアニメーターもいて、一方で、自分の作品が映画館のスクリーンで上映される機会は貴重です。自分が携わった作品が、大きなスクリーンで上映されることで、次へと進んでいくモチベーションになってほしいです。また、映画を観る楽しさのひとつに、映画館の空気やそこで同じ作品を観る人の熱気を感じることもあると思います。観る人も一緒になって盛り上がれるような映画祭にしていきたいです。

 

—-上映作品は招待作品の他に、一般公募も行われています。どのような作品が集まってきているでしょうか。

招待作品は、できるだけさまざまな地域、さまざまなジャンルの作品を上映したいと思っています。現状では、国内と海外でそれぞれ10作品ほどを取り上げる他、色々な特集も予定しています。繰り返しになりますが、多くの地域で作品づくりが盛んになっているため、まだまだ知られていない世界の素晴らしい作品に、出会っていただきたいです。

また、個人やインディーズのチームの作品も広く募集しています。アニメーション制作の業界、現場の今を捉えながら、世界に発信していくことは、この映画祭の目的の一つでもあり、才能とエネルギーのあるクリエイターたちが、ここをきっかけとして世界に繋がっていってほしいです。

まずは「新潟国際アニメーション映画祭」が、地域やアニメ制作に携わる人々に親しまれ、コンペティション部門を持つアジア最大の祭典として広がっていき、新潟から世界にアニメーション文化を発信する場が育まれていく未来に期待しています。

 

●新潟アニメーション国際映画祭募集詳細はこちら

応募の締切は2022年12月23日(金)23時。応募条件は下記のとおり。

1.40分以上(エンドクレジットを含むトータル時間数)のアニメーション作品であること(手法は問わない)。

2.2020年以降に完成した作品であること。

3.日本語・英語以外を用いる作品は、応募時に英語字幕が付いていること。

4.監督またはプロデューサー、応募者が上映に際する権利を有し、本映画祭での上映にあたり支障が起こらないこと。

5.作品に使用されている音楽の使用権、既存キャラクター及びその他のあらゆる権利関係について、応募者が必ず著作者の許諾を得た上で応募すること。

 

【プロフィール】

数土直志(すど ただし)Tadashi Sudo

ジャーナリスト/日本経済大学大学院エンターテインメントビジネス研究所特任教授。メキシコで生まれ、横浜で育つ。アニメーションを中心に国内外のエンターテインメント産業に関する取材・報道・執筆を行う。大学卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)を経て、2003年から2005年まで日本大学大学院グローバルビジネス研究科でエンタテイメント業界を中心にベンチャービジネスを学ぶ。修士論文「米国市場における日本製アニメーションの競争優位性に関する研究」。

大学院在籍中、2004 年にアニメーションの最新情報やレビュー、スタッフインタビュー、レポートなどを総合的に扱う国内で最も初期のアニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。国内有数のアクセス数を獲得するエンタテインメントサイトに育てた。2009年にはアニメーションのビジネス情報に特化する「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げる。2012年、両運営サイトをメディア運営・IT関連の株式会社イードに譲渡。2016年7月まで引き続き編集長を務める。

2016年7月に「アニメ! アニメ!」を離れ、独立のジャーナリストとして活動開始。アニメハック「月刊アニメビジネス」(エイガ・ドット・コム)、現代ビジネス/講談社、デイリー新潮、ITメディアなどで執筆。個人でエンタテイメントのビジネス情報を発信するサイト「アニメーションビジネス・ジャーナル(http://animationbusiness.info/)」も運営する。

主な関心領域は、アニメーション・マンガ・映画などのエンタテイメントビジネス、日本のポップカルチャーの海外における波及。代表的な仕事に「デジタルコンテンツ白書」(監修:経済産業省 商務情報政策局/編集・発行:一般財団法人デジタルコンテンツ協会)アニメーションパート、「アニメ産業レポート」(一般社団法人日本動画協会)など。主著に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。

講演やセミナー、イベントトークなどにも積極的で、日経セミナー「COMEMO x アニメビジネス NIGHT OUT」(日本経済新聞社)では10回以上にわたるトークシリーズを企画、登壇。マンガとアニメーションのコンファレンスイベント「IMART」では実行委員会委員としてプログラムの企画・運営に携わる。