5分から20分程度の短編で2時間映画に匹敵、いやそれとは別種の感情を動かす作品を作ることができる。それを堪能できるのがSAMANSA(サマンサ)の魅力だ。同社代表の岩永祐一さんにお話を伺った。

聞き手・まとめ◎編集部 一柳


岩永祐一(いわなが・ゆういち)

曽祖父が映画館・映画配給の事業をやっていた影響で、小さい頃からチャップリンなどのクラシック映画を見て育つ。学生時代はバックパッカーにハマり、40カ国以上を周る。南米の村の軒先で子供達が『アベンジャーズ』を食い入るように夢中で見ているのを目撃。エンターテインメントの大きな影響力を感じる。リクルート、Crevoでの勤務を経て渡米、UCLA EXTENSIONにて映画演出を学ぶ。帰国後フリーの映像ディレクターとして活動した後、SAMANSAを創業。

SAMANSAは世界中の良質で面白いショート映画・ドラマ・ドキュメンタリーを発掘し、クリエイターと直接契約を交わして配信しているプラットフォーム。月額370円でサブスク視聴(7日間の無料トライアル期間あり)が可能で、WEBブラウザもしくはアプリでスマホ、タブレット、PCで観られる。映像制作者なら世界のショートフィルムのレベルをまとめて知るためにもチェックしておきたいVODサービスだ。
https://www.samansa.com/

—SAMANSAのショートフィルムを観ていると、世界の映像制作のレベルの高さ、発想の自由さに驚きます。最初に岩永さんがどういった経緯でSAMANSAというサービスを立ち上げたのか、教えていただけますか?

僕はLAで映画の演出を学んた後、アメリカと日本を行き来しながらフリーランスのディレクターをやっていたのですが、そんな中でコロナになり、日本に完全帰国しました。アメリカにいるときは自分自身もショートフィルムを作っていましたし、また欧米ではこの4、5年くらいでショートフィルムだけの専門のVODサービスがいくつか出てきており、僕自身も利用していました。

一方で、日本にはサービスが存在しない。でも日本は忙しい方が多いし、電車通勤などの隙間時間で気軽に映画を観たいというニーズがあるのではないかと思いました。そこでまずはテスト的にサービスを始めたのがスタートです。

僕がアメリカと日本を行き来して感じたのは、アメリカ、特にハリウッドのフィルムメーカーは結構ポジティブな人が多いんです。「俺たちは映画の都であるハリウッドにいる! なんでもできるぜ!」みたいな感じ。一方で日本の監督と話すと、「日本では予算がとれないから良い映画を作れない」という、ちょっと諦めている雰囲気があって。

そのギャップを感じ、自分が映像を作るだけではなくて、環境や市場を良くすることで日本とかアジアの映像業界を変えられないかと思って始めたというのも理由のひとつです。SAMANSAは2023年12月から海外展開を開始しました。つまり、外貨を稼いで、その資金を日本やアジアでの新たな映画制作に回していくというエコシステムができないだろうかと。そういうところまで見据えて起業しました。

—映画というのは、配給、劇場まで含めてのシステムですから、観てもらうところまでのシステムができていないと、成り立たないですよね。そういう意味でショートフィルムというのはVODが立ち上がることで、世界ではそういう市場ができてきているということですか? 

たしかに世界にはVODサービスがいろいろあるんですが、現状VODだけではショート作品は製作費をリクープできません。その先がどうしても必要になってきます。もっとショートフィルムの価値をあげていかないと、再生産していく循環はできていかないと思ってます。

中国ではショートドラマがすごく流行ってきていますが、それは映画の作り方とは違って、少ない予算でショートドラマを大量に作るということでバランスさせているのではないかと思います。映画というスタイルのもの、たとえばSAMANSAで扱っているものは15分とか20分くらいの映画作品なのですが、ショートで製作費を超える収益を得るというのは、現状、海外のプラットフォームであってもなかなか難しいのですが、観る手段ができて、観る人が増えれば状況も変わっていくと思います。

僕自身も最近は短い作品を好んで観ていますし、もっと若い人たちはTikTokやYouTube ショートを観ている。これからショートフィルムを求める人が増えていく可能性は高いと思っています。

—ショートフィルムを作るときに求められる能力、作り方というのは、単純に映画の短いバージョンという発想じゃないほうがいいということでしょうか。

まったくの別物と考えたほうがいいと思います。ショートも長編と同様に感動できる作品がたくさんありますが、作り手からすると「短いのに感動できる」というのは下手したら長編以上に難しいチャレンジだと思います。もちろん長編製作も難しい部分はたくさんあるのですが、短いから脚本も楽で、製作費も安いから作りやすいということはけっしてないですね。

例えば、長編の場合、それこそハリウッドで確立された脚本術や古来からある三幕構造が基礎にありますよね。ショートの場合はそれが確立していないので、話をまとめて成立させていくのはすごく難しいと感じます。

—これだけの優秀作品を集めて、さらにどんどん新作も加えていくのは大変なことだと思いますが、残念ながら日本人監督の作品は2023年末段階で1本もありません。これはクオリティを優先していくと、自然とこうなってしまったということなんですか?

そうですね。クオリティを優先したということと、声をかけて返信してくれたり、賛同してくれるクリエイターがほとんど欧米の方だったということで、欧米のクリエイターの作品が増えているという状況です。そしてその輪が広がっていったという感じですね。ただ、今は日本の作品も力を入れて探していまして、これから半年とか一年くらいは日本の作品も入れていこうと思っているところです。

—岩永さんは海外と日本のクリエイターの両方に繋がりがあると思うのですが、製作費や体制の違いは?

たしかに製作費の違いはあります。欧米の作品だとショートでも製作費が何千万円かあるようなものを作る土壌があります。教育や学生の違いも大きいと思います。アメリカだと卒業制作で短編を作るんです。日本の場合は短編を作るよりも、やるんであれば劇場でかけてもらえる可能性がある長編を目指すことが多いと思います。短編はあくまでも練習という位置付け。

また、特にアメリカの学校は世界から映画に情熱を持った若者が多く集まってきているので学生の質が高い。あと、冗談のような話ですけど、ある中国の学生が卒業制作に1億円かけて作るみたいなところがあって。中国にいる金持ちの父親が1億円を出しちゃうんです。というようにグローバルになるとスケール感が全然違ってきます。映画の都ということで才能もお金も集まってくる環境が向こうにあるということですね。

たとえばプロダクション制作で作る短編にしても、将来の長編化とか映画祭で受賞するということを目的にして1,000万ぐらい出して自社で製作費を負担して作るということもあります。そしてそれを支援するプロダクションというのもあります。日本ではこういった動きが少ないんじゃないでしょうか。

また、メジャー作品で言うとこれまで市場が国内に閉じていたことも大きいと思います。作られる映画が日本人向けになっていて、基本的に日本国内の映画館で上映することを想定しているので、予算もその規模に収まってしまう。

—それがたとえばSAMANSAが海外展開をしていって、日本のクリエイターがそこに作品を載せて、海外でどんどん見られるようになれば、お金の回り方が違ってくるだろうっていうことですね。

そうですね。あとはSAMANSAオリジナルとして、自社で映画を作ってるんですけども、今年からは国内のクリエイターとも制作をしていく予定です。海外の映画祭もそうですし、SAMANSAでも配信していくことで、日本のクリエイターの高い質の作品をどんどん作っていって、海外の人に見られるような環境を作っていくことを考えています。国内オリジナルとして20代、30代のクリエイターとコミュニケーションを取ってるんですけど、いいものを作る技術とか才能に溢れた方々が多いと感じています。

あとはいかにお金を集めてきて企画を実現していくかというプロデュース能力が必要になっていると思います。そちらに力を入れていきたい。昨年はSAMANSAとして4本制作しましたが、全部アメリカで作っており、今度はそれを日本の監督とやっていきます。

—日本と海外作品を比べて、機材とかお金のかけ方以前に、岩永さんが違いを感じる部分というのはありますか。

欧米の場合は映画を作るシステムがしっかり存在していると思います。プリプロからポスプロまでが仕事として確立しています。日本の映画の制作現場に行った時に驚いたのが、ギャラを知らずに働いている人がいたことですね。「ギャラいくらもらってるんですか」って聞いたら、いや知らない、大体わかっているから聞かないというような曖昧な感じなんですよね。アメリカであれば、たとえインディーズだとしても最初に契約で決めます。

短編となると、日本の場合は、自分でお金を出したり、友達や家族から借りるという発想が多いと思うのですが、欧米の場合は、ベンチャー起業がお金を集めるようなかたちで、資金を集めているんですよね。そういう段階から差が出てしまうのではないかなと思います。

また、アメリカでは日々多くの作品が作られていて、その総数が多いということがあると思います。クリエイターそのものの数が多い。ロサンゼルスのカフェなどに行くと、となりで脚本の話をしている状況によく遭遇します。ビジネスとしての規模やチャンスが多いことの表れだと思います。

機材でいうと、もちろん機材レンタルもあるのですが、ロサンゼルスでは個人で持っているカメラや照明機材、レールなどの特機などを個人同士で貸し借りするサービスがあるんです。機材においてもクリエイターエコノミーが成立している。SAMANSAの前には日本でそのようなサービスをやろうかと思ったのですが、ちょっと難しそうだなと思ってストップしました。クリエイターの数という部分もそうですし、そもそも日本の方は精密機器を他人に貸したくないという人が多いことがわかってきたからです。

日本の市場は映画に関わらず確実にシュリンクしていっているので、海外に目を向けることが絶対に必要だと僕は思っています。これまでは良くも悪くも日本の国内の市場で成り立ってきたので、海外に目を向ける必要性がなかったのですが、いよいよ海外市場に目を向けて、それこそ韓国のようにそっちに振り切っていかないとヤバくなってきいているというのは感じています。

—視聴者に対してのアピール、制作者に対するアプローチというのはどうなっていきますか?

スタートからこれまではいかに視聴者を増やすかというところに力を注いできました。広告を打っているわけではなく、今はSNSがリーチする方法としては一番使い勝手でもいいので、YouTubeやInstagamに予告編を流して再生してもらってそこから流入してくるという流れですね。それで視聴者数がずっと伸び続けています。

クリエイターの方も若い世代の方は、10代、20代の監督とか俳優さんの間では、お会いしてみるとSAMANSAを知っている方が増えてきました。今後は日本のクリエイターにもアプローチしていきたいと思っています。(*)

*日本のクリエイターの作品として『ヒコットランドマーチ』(監督・脚本:chavo)、『家族めし』(企画・脚本・監督:山口晃三朗)の2本がラインナップに加わった。

—楽しみです。ショートフィルムの市場ができて、ここから有名になっていく日本の監督や俳優がどんどん出てくるといいですね。SAMANSAに注目していきます。

作品によっては韓国語、インドネシア語、タイ語にも対応

SAMANSAのWEBブラウザでのプレーヤー。もちろん全画面表示可能。再生スピード調整が細かくできるようになっている。

▲基本的に日本語か英語の字幕を表示できるが、作品によっては、インドネシア語、韓国語、タイ語を選択できるようになった。

▲視聴レビューを参照できる。短編の場合、あえてすべてを説明しないようなタイプの作品もあるが、ここで視聴者の意見を覗いてみると発見があることも。また受け取り方は人それぞれということも知れる。

▲その作品の背景についての解説がある作品も。アメリカだと銃乱射事件など社会問題を背景したものも多く、解説があると理解の助けになる。

岩永さんがぜひ観てほしいとセレクトした8本

『ザ・カメラマン』

『エレクトリック・インディゴ』

『ザ・カメラマン』と『エレクトリック・インディゴ』は20分前後の作品にもかかわらず、まるで1本の映画を見終わった後のような充足感と感動がある。このような作品を成立させる作り手の才能と技術に感服せざるを得ない。

『ノクターン・イン・ブラック』

『ノクターン・イン・ブラック』も実際の人物にインスパイアされた作品であり、音楽を禁止されている中東の人の抵抗を描いている。

『野獣』

『野獣』は誰でも子供時代に経験したことがあるような状況を題材にした作品であるが、主演のふたりの才能と演技に魅了され彼らの演技に最後まで目が離せない。

『ニュー・パートナー』

『ニュー・パートナー』はコメディ。優秀だけれども必ず相棒が死んでしまう、という運命を持つ男のドタバタ劇。次々と相棒が死んでしまうはずなのになぜか笑えてしまう。

『あなたへのメッセージ アウシュビッツ生存者の奇跡の物語』

『あなたへのメッセージ アウシュビッツ生存者の奇跡の物語』はドキュメンタリー作品。タイトルの通り、こんな奇跡が起こり得るのか、と思うような実際の出来事を当事者にインタビューしながら追体験していく。

『プロシージャー 〜謎の実験室〜』

『プロシージャー 〜謎の実験室〜』はもはや映画なのか、ジャンルも何なのかわからない、ショートならではの鬼作。SAMANSAで扱いたいとクリエイターに申し出た際、逆に「そのサービスは大丈なのか? クレイジーすぎる」と心配された。

『フリー・フォール』

『フリー・フォール』は9.11をテーマにしたあるトレーダーの実話に基づく作品。短く、またロケーションも限定的だが、まるであの日を追体験するような感覚に陥る。フリー・フォールというタイトルも作品に大きく関わっており、ぜひそれを体験していただきたい。

VIDEO SALON 2024年3月号より転載