瀬戸内7県を拠点するアイドルグループ・STU48。その最新作は全編ドローンによるワンカットで収録された。演出・振り付け・技術スタッフそして演者、それぞれのプロフェッショナルが結集して制作されたミュージックビデオの制作の経緯と撮影方法についてお話を伺った。
文●青山祐介/構成●編集部
STU48『風を待つ』ミュージックビデオ
別テイクが見れる特別サイトも
今回制作されたミュージックビデオの全10テイク中8テイクが見られる特設サイトがオープン。
URL●http://stu.kingrecords.co.jp/single/2nd/kazewomatsu/
ハードルとなった尾道の街並み
STU48にとって2枚目のシングルとなる『風を待つ』は、数々の名作映画の舞台となった尾道の街で撮影された。緻密なパフォーマンスを演じながら、細い階段の路地を駆け上る彼女たちを通じて、「これからアイドルとして磨かれていくSTU48のがんばっている姿を描きたかった」と語るのは監督の三石直和さん。
「一生懸命やった場所がSTU48のファンにとって聖地になる。そんな場所を作ることが大事」とも語る三石監督。そんな記憶に残る作品にするために、この作品はSTU48のメンバーにとってはもちろん、クルーにとっても苛酷な“ミッション”を帯びた撮影となった。
その理由は“階段の路地”にある。パフォーマンスしながら路地を移動する彼女たちにとって階段は、テイクを重ねるごとに彼女たちの体力を消耗させる。さらにこの階段は、カメラの移動を阻む大きな障害となった。
ロケ地となったのは尾道、曲の構成も考えてロケ地を選定
▲撮影プランを記した見取り図。ラストカットは街と海が見渡せる大俯瞰。その画に辿り着くためにルートと曲の構成、演者の動きや振り付け、撮影方法を詰めていった。事前に決めていたことも多いが、現場で変更したことも多いという。
空撮&ハンドキャッチを繰り返して、ワンカットで作り上げた
▲ドローンはDJI Inspire 2、カメラはX7を使用。DLレンズは24mm。6K/24p(CinemaDNG)で収録した。写真は左ページ図の⑤の階段での撮影の模様。ドローンは手持ちだが、地上のカメラマンは撮影中の映像を見られない。そのため、ドローンパイロットの遠藤さんは特製の神輿で運んでもらいながら、カメラを操作。また、至近距離での撮影となるため、岡村さんはカメラの振りとフォーカス操作を担当した。
▲④から⑤への移動。階段を上るメンバーを正面から捉えるために先回り。階段へ続く道はないため、地上でカメラを受け渡して撮影。
▲⑥の踊り場部分での空撮の様子。最後の公園へと続く道の途中には先回りした岡田奈々さんが待機している。
パイロットをお輿で担ぎ上げる
2018年夏から三石監督が入念にロケハンして決めたSTU48メンバーの演技する階段路地のルート。この階段を移動する彼女たちを1台のカメラで様々な角度から撮影するには、「カメラが空中を移動するという選択肢しかなかった」からだという三石監督。
単にドローンが空から撮影するだけでは、STU48のメンバーが小さくしか映らない。アイドルのMVとして彼女たちの表情をしっかり捉えるためには、カメラが彼女たちに接近する必要がある。そこで、ドローンを飛ばして撮影するとともに、地上まで降ろして機体を手で支持して撮影する“キャッチ&リリース”に慣れた、ヘキサメディアの遠藤さんと岡村さんが担当することに。撮影は12月初旬の3日間にわたって行われた。1日目は技術チームのテクニカルリハーサルとSTU48メンバーの振り入れが行われ、2日目と3日目にそれぞれ5テイクずつ、計10テイクを撮影。ドローンによるワンカット撮影は他にも例があるが、本作品ではやはり尾道という街並みが数々のハードルとなった。
「第一に街並みが段々になっていて、操縦者と機体間で電波が届きにくい。そのためには常にドローンの近くで操縦する必要があります。しかし、そこで問題となるのが“階段”でした」と語る遠藤さん。
作品の始まりはメンバーを追う位置で操縦しているが、彼女たちが駆け上がっていくシーン以降は、機体を見通すために、先回りしている必要がある。しかし、その間も常にドローンを操縦しなければならないが、階段を駆け上がりながら操縦することは限りなく難しい。そこで考え出されたのが“お神輿”だ。遠藤さんを乗せた椅子を4人のスタッフが階段で担ぎ上げ、その間にもドローンの操縦をするという奇想天外なアイデアだった。
3回のキャッチ&リリースで撮影
また、今回の撮影では3回、地上のカメラマンが機体を受け取ってメンバーの表情やダンスを撮影する。その間も、カメラオペレーターがカメラを操作するのだが、一度だけオペレーターが階段を駆け上る必要があるため、その間操作ができなくなる。そこで、その間だけはInspire2のカメラ制御を止め、カメラマンがレンズ=機体の方向だけを頼りに撮るというアクロバティックな撮影も行なった。
こうした、“オペレーターが操作できない”時間をカバーするために、その間は手持ちで撮影したり、ホバリングだけのカメラワークで済むようにするなど、パイロット、カメラオペレーター、地上のカメラマンの3人が、バトンリレーのようにカメラワークを受け渡しながら撮影したのが本作品だ。
こうした段取りのほかにも、電線が迫る路地からの上昇や、植栽や演者との間を抜けるといった、ギリギリの撮影が行われた本作品。YouTubeで公開されているMVは、そんなSTU48メンバーの苦闘と、複雑なドローンによるカメラワークを感じられる作品となっている。
▲写真中央は監督の三石直和さん。右はドローン操縦を担当したヘキサメディアの遠藤祐紀さん、左はカメラ操作を担当した同社の岡村弦樹さん。
●ビデオSALON2019年3月号より転載