ソニーマーケティングが運営する「CREATORS’ CAMP」が2023年12月15日から17日まで、千葉県いすみ市で開催された。同イベントは2泊3日のなかで、3~4名のチームごとに地域のPR映像を制作する実践型のワークショップ。

今回取材として同行させてもらい、参加者たちの取り組みを間近で見ることができたので、イベントの様子をお届けする。

取材・文●編集部 伊藤

 

目次

CREATORS’ CAMPって?

さまざまなジャンルで活躍する7人の講師陣が集結

1日目 ~開会・チーム決め・企画構想・撮影準備~

2日目 ~撮影・編集~

3日目 ~編集・納品・講評会・結果発表~

参加者のリアルな声をお届け

今後も続く「CREATORS’ CAMP」

 

CREATORS’ CAMPって?

「CREATORS’ CAMP」はソニーマーケティングが運営する実践型のワークショップ。映像制作と本気で向き合いたい人を対象に参加者を募り、2泊3日のなかでゼロから企画・撮影・編集作業を進め、作品を完成させる。参加費は33,000円で、そのほかの交通費や宿泊費は参加者が個人が負担する。

「チームで地域のPR映像を制作すること」が各回の共通テーマで、2回目の開催となる今回は千葉県いすみ市を舞台に3~4人のチームに分かれ、各チームを担当する講師のアドバイスを受けながら映像作品を1本制作した。

北海道や福岡県など全国各地から申し込みがあり、年齢層も10代~60代までと幅広い。申し込みの際、制作してきた映像の分野は問わないため、SNS投稿用の映像や学校行事の記録映像、YouTubeなど、扱ってきた映像のジャンルもさまざま。

また、ビデオグラファースタイルで一通りの作業を経験してきた人もいれば、撮影または編集がメインの人もおり、異なる背景で映像制作と関わってきた参加者たちが、力を合わせてひとつの作品を作り上げるイベント企画だ。

 

さまざまなジャンルで活躍する7人の映像クリエイターが講師を担当

今回の合宿では各チームに講師が1人つき、映像制作のノウハウを直接レクチャーした。福島で開催された第1回の合宿では1人の講師が2つのチームを担当していたが、講師の指導のクオリティを高めるために改善を加えたという。

参加者と一緒に三脚をチェックする映像クリエイターのUssiyさん(写真左)。YouTudeでの活動を中心に、2023年には撮影/編集を担当した映画『DAUGHTER』が公開されるなど活躍の幅を広げている。

 

YouTubeにハイクオリティなショートフィルムを投稿し、国外からも注目を集めている映像クリエイターのDINさん(右)。カラリストとして作品に携わることも。

 

真剣な表情で映像をチェックする映像ディレクターのAKIYAさん(中央)。YouTube上での活動だけにとどまらず、映画・MV・CMの実績も多数。

 

担当するグループに的確なアドバイスをしていた映像ディレクターのRyo Ichikawaさん(中央)。アーティストのミュージックビデオを手がけるほか、CMの監督、コンサートでのVJ、プロジェクションマッピング制作など多角的に活動している。

 

MVをメインとしながら、企業PR、ドキュメンタリーなど様々な映像を手掛けている映像クリエイター/シネマトグラファーのKai Yoshiharaさん(写真中央)。今回は講師を務めながら、担当するチームの作品にキャストとして出演した。

 

シネマティックな映像を得意とする映像クリエイターのY2さん(写真中央)。自らの手も動かしながら編集やカラーグレーディングの指導をする場面も。

 

D.O.P/フォトグラファーとして広告写真やムービー撮影の分野で活動しているRyo Ohkawaraさん(中央)。DaVinci Resolveでのカラーグレーディングのコツを伝授しているところ。

 

1日目 ~開会・チーム決め・企画構想・撮影準備~

初日はオリエンテーションのあと、今回の合宿のテーマが発表された。この日は、ロケ地選定、撮影工程表作成、画コンテ作成など企画構想や撮影準備が作業の中心に。

合宿の拠点となったビーチサイド音楽館

 

いすみ市水産商工観光課からのオファー

依頼概要

  • 依頼者:いすみ市の自治体
  • 依頼内容:PR映像を制作して欲しい
  • 納品物:動画コンテンツ1本
  • 動画尺:2~3分程度
  • 解像度:4K QFHD
  • 納期:2023年12月17日12時30分

内容面での希望

  • 日本各地はもちろん、遠く離れた異国の人にもいすみ市の魅力を知ってもらいたい。
  • いすみ市の空気感や雰囲気を動画を通して伝え、観光地としての魅力を訴求し、いすみ市に旅行に行きたい!、と思ってもらいたい。

 

今回用意された機材

クライアントワークを想定した合宿のため、カメラはFX30を使用。レンズは各チーム2本使用することができ、チームごとに想定した構成をもとに選択した。ジンバルや三脚などは他社にも協力を要請し、参加者はそれらを自由に使うことができる。

機材一覧

  • カメラ:FX30
  • レンズ:FE 70-200mm F2.8 GM OSS、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、FE 90mm F2.8 Macro G OSS、FE PZ 16-35mm F4 G、FE 24-70mm F2.8 GM II、FE 50mm F1.4 GM
  • NDフィルター: Tilta Mirage Matte Box
  • マイク:ECM-VG1、ECM-B1M
  • ジンバル:MOZA AirCross 3、MOZA AirCross S(ケンコー・トキナー)
  • 三脚:リーベック NX-100MC(平和精機工業)
  • その他アクセサリー:MRW-G2、CEA-G160T
想定した構成をもとにチームごとにレンズを2本選択。

 

チーム内で作業状況を共有しやすいようにモニターは各チームに1台手配された。

 

三脚はリーベックのNX-100MC。平和精機工業から提供を受けたそうだ。

 

互いに交流を深める懇親会も実施

機材説明が終わると夕食も兼ねた懇親会がスタート。なかには今回の講師の作品に影響を受けて映像制作を始めたという参加者もおり、憧れのクリエイターと間近で話せる貴重な機会に。参加者、講師、スタッフらがなごやかな雰囲気のなかで交流を深めた。

 

2日目 ~撮影・編集~

2日目は前日に決めた予定にそってチームごとに撮影を実施。ロケ地間の移動はチームごとにタクシーやマイクロバスなどの車両が用意されている。18:30までに拠点のビーチサイド音楽館に戻ってくるというルールのため、所定の時刻を過ぎてしまった場合はペナルティとして評価の際に減点されてしまう。

出発前に機材を最終チェックする。

 

いすみ市内の名所を中心に各地を巡るロケ撮影

今回、チームGの撮影に同行させてもらったのでロケの様子をお届けする。チームGは計6カ所のロケ地を予定し、参加チームのなかで最多。タイトなスケジュールになることが予想されるが、はたして予定通りに撮影を進め、素材を撮りきることはできるのだろうか。

最初のロケ地は太東海水浴場。穏やかな波と長く美しい砂浜が特徴で、サーフィンを楽しむ人や犬の散歩をする住民がいた。

事前に準備した画コンテに近い画を撮れる場所を探すチームGのメンバー。

 

Ryo Ohkawaraさんに設定のアドバイスをもらいながらカメラ位置や画角を調整する。

 

波に乗るサーファーを狙ってカメラを構える。しかし波がなかなか来ず、出発時間が来てしまったため次のロケ地に向かうことに。

2カ所目は鉄・非鉄金属のリサイクル業務及び産業廃棄物処理業務を行なっているミヤケエコプランニング。

重機を使ったスクラップ作業の様子。

 

施設で働く三宅さんへのインタビュー撮影のために事前にヒアリングをし、質問内容や構成を練る。

 

同時に他のメンバーはインタビューのためのセッティングを進めていく。

 

準備が整いインタビュースタート。各メンバーがインタビュアー、メインカメラの音声のチェック、サブカメラ(+音声)、サポートを担当。

インタビューに協力してくれた三宅さんは普段こういったインタビューを受ける機会がほとんどないそうで、カメラに囲まれてかなり緊張している様子。それに気づいたメンバーが撮影の合間に何気ない話題を振りながら場の空気をほぐす。だんだんとチームとしてのまとまりが見えてきた。

 

車での移動中、市内を流れる夷隅川にかかる江東橋付近で停車し、川べり水辺の鳥の撮影を試みることに。

到着時は水辺に鳥がたくさんとまっていたが、人が近づいたことで飛んで行ってしまった。

 

鳥をうまく撮るのはなかなか難しかったようで、代わりに川の水面を収める。

 

午前中の撮影はここまで。移動する車の中で昼食をとりながら、撮影の折り返しとなる3カ所目のロケ地である高秀牧場に向かう。

高秀牧場では乳牛を育てている。

 

牧場で働く馬上さんが牛と触れ合っているシーンを撮影。牛たちが乳牛としてなるべく長く生きていけるように配慮して環境を整えているという。

 

高秀牧場では牛乳やジェラートなどの販売もしており、インサート用にそれらの物撮りにもチャレンジ。太陽光が当たる位置に被写体を置いて撮影する。

 

次の撮影対象は土手沿いを走るいすみ鉄道の列車。次に電車が来るまで1時間以上空いてしまうので失敗はできない。

列車が通過する20分ほど前に現場に到着し、入念にベストアングルを探る。

 

木々の間を走り抜けるシーンを狙って踏切近くにカメラを1台設置することに。

 

通過の瞬間。それぞれの撮影地点からうまく撮れているのか。

 

その場で撮れ高をチェック。満足いく映像が撮れていたようで一安心。

 

続いて向かったのは戦国時代に活躍した山城の跡地として残る万木城跡公園。いすみ市内が見渡せるスポットだ。

朝は少し曇り気味だったが天気が回復し、日差しがまぶしい。

展望台からの眺めは圧巻。いすみ市内をぐるりと見渡すことができる。

 

夕方になりだんだんと日が落ちていくなか、大丸木工所へと向かう。残る撮影地はあと2カ所。

大丸木工所は一枚一枚丁寧にセレクトした木材を使用した一枚板テーブルのほか、上質な家具を製造・販売している老舗家具店。

 

木工所の作業場で大谷さんにインタビューを実施する。100年以上の歴史を持つ大丸木工所は代ごとに顧客や時代のニーズに応えながら事業を展開してきたそうだ。

 

インタビューの後、作業風景も撮影する。Ryo Ohkawaraさんのアドバイスで、寄りだけでなく引きの画も撮影する。

 

最後の撮影場所は太東崎灯台。この時点で17時を回っており、あたりはほとんど暗い。

どんどん暗くなっていく街の様子をカメラに収める。

最後に撮影したのは夜空のタイムラプス。この日はふたご座流星群が観測できるタイミングで、うまくいけば流れ星を撮影できるチャンスだ。

最後は全員で方角や設定をチェック。

30分ほど待機して、カメラを回収したところでチームGの全6カ所の撮影が終了。

聞くとメンバーのひとりが1日目の解散後の時間を使って、エクセルで香盤表のような資料を作成し、撮りたい素材のイメージとタイムスケジュールをチーム内で事前共有していたそう。当日の動きはもちろんだが、スムーズな撮影のための事前準備の重要性を再認識した。

 

この日、同行していて感じたのは時間を経るごとに強まっていたチームとしての結束力。短い時間の中でコミュニケーションを取りあい、チームメイトの特性を考慮しながら自分のポジションを確立し、ひとつのチームとしてまとまっていく様子が非常に興味深かった。

 

チームごとに異なるワークフローで進める編集作業

撮影から戻り、素材の整理や編集作業に取り組む参加者たち。全体をパートごとに分け翌日に一本化するチームもあれば、素材整理と編集、カラーグレーディングなど工程ごとに分担するチームもあり、メンバーが使用してきた編集ソフトや得意分野によって、それぞれが異なるワークフローを組んで作業を進めていた。

22時までは拠点となるビーチサイド音楽館のスペースを使うことができたが、以降も時間が必要なチームはそれぞれの宿泊先で作業を進めることに。

 

3日目 ~編集・納品・講評会・結果発表~

刻一刻と納品時間が迫るなかでの仕上げ作業

最終日となる3日目、まずは納品のタイムリミットとなる12時30分まで編集作業を進める。ここまでくるとあとはもう時間との勝負だ。

講師陣に各チームの様子を聞いてみると、共通して話題にあがるのは「撮影段階で構成が見えていることの重要性」。現場で想定外のことが起きるのは多々あることだが、それでも完成像のイメージを頭の中に持って撮影に臨んでいるかどうかで編集作業のスピードや仕上がりに大きな差が生まれるそうだ。

 

シーンごとに色味を調整して全体のトーンをそろえている。

 

限られた時間の中で作業に漏れがないように、やるべきことを書き出してひとつずつつぶしていくチームも。

 

使用するフォントを吟味中。

 

納品が完了し、満面の笑みを浮かべるチームEのみなさんと講師のKai Yoshiharaさん。

 

上映タイムと講評会

無事に全チームの納品が完了し、昼休憩をはさんで作品の上映タイムへ。

チームごとにこだわりや見どころを発表していく。

全チームの上映が完了したあとは、作品の講評会を実施。まずは各講師が自分が担当したチームの作品への講評を発表したのち、他の講師からも作品への批評をしてもらった。

講師陣の的確なコメントが光る。

 

作品の審査基準

作品の審査基準は下記の4つ。講師7人といすみ市の担当者が自分の担当以外のチームに対し、項目ごとに点数をつけていく。一人あたりの持ち点は100点で、審査員全員の合計点を集計し、上位3チームを決定するという流れだ。

  • 映像美(25点)
  • 企画構成(25点)
  • 自治体PR動画としての質の高さ(25点)
  • いすみ市の魅力の発信力(25点)
ひとつひとつの作品を真剣にチェックする講師陣。

 

待ちに待った結果発表

全審査員の点数の集計が完了し、いよいよ審査結果の発表の時間に。

 

期待と緊張の表情で結果を待つ参加者たち。

 

3位に選ばれたのはチームD。「いすみうめぇ。」のキャッチコピーを中心に構成を組み立て、いすみ市のおいしい食べ物が次々と登場する作品を制作した。振り切った演出により見た人にインパクトを残す仕上がりに。

チームDの作品

コミカルな演出も多く、会場には笑いが起きる場面も。

 

2位に選ばれたのはチームG。いすみ市が大切にしている循環型社会や生物多様性といったSDGs関連の事業に取り組む事業者へのインタビューを中心に作品を見せた。土手沿いを走るいすみ鉄道の列車や星空のタイムラプスなど、ロケ地の多さを活かしたインサート映像もあいまって「映像美」や「観光PR映像としての質の高さ」が評価された。

チームGの作品

チームGのみなさん。2日目の撮影に同行させてもらった。

 

そして栄えある1位に輝いたのは、移住希望者目線でいすみ市のよいところを紹介し、チェックポイント形式でまとめたことでいすみ市からのオーダーを形にしたチームC。「観光PR映像としての質の高さ」「いすみ市の魅力の発信力」の2項目で7チーム中最高得点を獲得し、見事1位に。

チームCの作品

今回、優勝に輝いたチームCのメンバー。

 

 

いすみ市副市長の上島浩一さんは、3位のチームDの作品が印象に残った様子。「行政としては市のよいところをたくさん詰め込みたくなるところだが、作品を視聴してPR動画で重要なのはテーマ性であることを感じた」と伝えつつ、参加者たちの奮闘をねぎらった。

いすみ市副市長の上島浩一さん

 

参加者のリアルな声をお届け

せっかくなので参加者にも今回のイベントに参加した感想を聞いてみた。

「人を動かす力のある画をどう切り抜くか、見せ方を考えた上でイチから作ることにチャレンジできてよかった」

「自分たちでは気づけないことを客観的に見て指摘してもらえる機会が普段なかなかないので、ありがたかった」

「困ったときに講師の方からこういう映像を参考にするといいよと的確なアドバイスをもらえて参考になった」

「気になっていたレンズを実際に使うことができてよかった」

など、それぞれ得るものが多かった様子。閉会後の自由時間にはチームメイトや講師陣、スタッフらと記念撮影をしたり、SNSアカウントをフォローしあったりするなど、名残惜しそうに最後の交流を楽しんでいた。

解散前の交流タイムの様子。

 

今後も続く「CREATORS’ CAMP」

ソニーマーケティングの堀 晃洋さん。

イベントを運営しているソニーマーケティングの堀 晃洋さんに、お話をうかがったところ、今回のイベントはプログラムの中でチームでのオペレーションや撮影の技術・知識、編集のスキルを身につけてもらい、映像制作を通じて新しい仲間や相談ができる相手との出会いを提供することや、自己の成長を実現してもらうとことを目的としているそう。

「参加者が主体となってプログラムを進めていくので、ソニーユーザーであるかどうかは関係なく、映像制作をするなかでステップアップしたいと思ってる人、チームでのオペレーションを学びたいと思っている人などにぜひ参加していただきたい。CREATORS’ CAMPをきっかけに、参加者の成長を支えていきたい」と語った。

ソニーは今後も、場所やテーマを変えながら同様のワークショップを実施予定だという。

全体の集合写真。

 

◉CREATORS’ CAMP特設ページ
https://www.sony.jp/ichigan/a-universe/creatorscamp/

ソニー株式会社
https://www.sony.jp/