●構成、取材、文:大楠翔一(OOX WORKS)
https://peraichi.com/landing_pages/view/ooxworks

 

現地に行かずに撮影現場のロケハンができる。
不動産物件の内覧がスマホでできる。
イベントで使う施設の下見がパソコンでできる。

などなど……

現在、さまざまな用途で活用されている「3Dバーチャルツアー」というキーワードをご存知だろうか?

この「3Dバーチャルツアー」は、実際にその場に行かなくとも、インターネットにつながる環境下であれば、スマートフォンやパソコンの画面を通して、リアルかつ立体的な映像を参照でき、まるで実際にその場所を歩いて見学しているかのような体験を提供できるというものである。

 

Matterport(マーターポート)を使った3Dバーチャルツアー

3Dバーチャルツアーをつくるサービスは世の中に多くあるが、今回はそのなかでも急成長しているMatterport(マーターポート)について取り上げた記事である。前回本誌に掲載されたMatterport(マーターポート)の3Dモデリングの記事は読んでいただいただろうか。

現地に行かずにロケハンもできる! MatterportでVR撮影&3Dモデリング制作の現場に潜入
前記事にもある通りこれまで、matterportでの3Dバーチャルツアーを作成するためには、
撮影するにあたり、「Matterport PRO2」というカメラが必要だった。

しかし、2019年1月31日(木)、Matterport社の360度カメラのShenzhen Arashi VisionのInsta360 ONE X / RICOHのTHETAシリーズがカメラシステムと提携して、よりPRO2が不要で手軽に3Dバーチャルツアー制作ができるようになることが米ニューヨークで発表され、開発者/提携業者限定でβ版としてこの発表をきっかけに、3Dバーチャルツアー制作の裾野が一気に広がることが考えられる。

そこでこの記事では、実際に早速、「Matterport PRO2」で撮影した画像で3Dバーチャルツアーを作成したものと「Insta360 ONE X」で撮影した画像で3Dバーチャルツアーを作成したものとを比較検証するとともに、それぞれの拡張性や可能性を探ってみた。

また上記を検証するにあたり、それぞれの専門家に協力を要請したので、まずはその方々をご紹介しよう。

▲写真向かって左側が丸屋さん。右側奥が柴山さん。(3D+ONE)

3D+ONE
空間の3DVR制作/活用のプロチーム「3D+ONE」。matterportの撮影代行パートナーかつ、3撮影素材を使いシステム開発からマーケティング支援までおこなう。サービス提供の実績として住宅、店舗、ホテル、洞窟、飲食店、イベント会場まで多岐にわたる。

 

▲近藤さん(株式会社 ミライヒCTO)

株式会社 ミライヒ
独自のユーモアと確固たる技術で、誰も体験したことのない未来を映し出し、心踊る「今」を”一生モノの価値”に変える。音楽ライブやイベント等のVR映像の制作を行う。今回はさまざまな分野で積極的に活用しているカメラ「Insta360 ONE X」について解説と撮影のアドバイスをしてもらう。

 

「Matterport PRO2」と「Insta360 ONE X」それぞれのカメラの特徴を解説

Matterport PRO2の特徴

▲4Kカメラと赤外線を使い、実際の距離感を図りつつ高画質を保ち、臨場感を再現する静止画専用のカメラ。三脚に固定した状態で6回に分けて60度ずつ回転することで、360度の画像を撮影する。

 

Insta360 ONE Xの特徴

▲360度アクションカメラ。静止画は1800万画素で360度撮影であらゆる方向を綺麗に記録する。

 

両者の特徴を踏まえ、実際に3Dバーチャルツアーの撮影をし比較検証してみた。まずは、本記事でも多々連呼している撮影の「手軽さ」について。

 

両者のサイズ感を比較

以下の写真を見ると一目瞭然であるが、Insta360 ONE Xが圧倒的に小さい。サイズ的にはいわゆる「手のひらサイズ」と言える。一方Matterport PRO2は、一般的なノートパソコンよりも大きく、重量もある。持ち運びをするには衝撃に強い専用のキャリーケースなどが必要になる。

▲あまりのサイズの違いに驚く3名。

これだけサイズが違うと撮影後の画像にも違いが出るのでは?これだけサイズが違うと撮影後の画像にも違いがが出るのでは? とも思うが、どうだろうか。

 

両者の撮影時間の比較

3Dバーチャルツアーは、1つの建物をいくつかのポイントに分けて撮影していく。そのポイントの数は、建物の広さや構造によってさまざまであるが、1ポイントを撮影する時間が短ければ短いほど全体の撮影時間は短くなる。

今回の検証は13ポイントで行った。Matterport PRO2 の総撮影時間は13分50秒(830秒)かかった。1箇所あたりの時間はカメラの移動を含めると「63秒」となる1ポイントの撮影開始から撮影したデータiPadに反映される時間は「37秒」かかる。今回は13箇所を撮影したので、データの生成時間は「37秒×13箇所=480秒」カメラの移動等の時間が350秒かかった事がわかる。

▲Mattarport PRO2で撮影した際の、撮影開始から撮影終了までの時間測定。

▲ポイント撮影開始から撮影者の手元にあるipadに撮影データが反映されるまでの時間を実測

 

一方で、Insta360 ONE Xの撮影時間は4分22秒(262秒)。1箇所あたりの撮影時間は移動も含めて「20秒」同じく撮影開始から撮影したデータがipadに反映されるまでの時間は「10秒」。PRO2同様13箇所を撮影したので、データの生成時間は「10秒×13箇所=130秒」カメラの移動等の時間が132秒かかった事がわかる。PRO2よりもカメラが軽い為、移動の実感も短縮出来る事がわかった。

▲insta360 ONE Xで撮影した際の、撮影開始から撮影終了までの時間測定。

▲イント撮影開始から撮影者の手元にあるiPadに撮影データが反映されるまでの時間を実測

 

これはMatterport PRO2と比べると「約1/3」に短縮される計算となる。これに加えて、実際の撮影にはカメラのセッティングや移動が伴うため、上記以上の時間を要することとなり、insta360は軽量で小さいことから、カメラの移動にも時間がかからないため、圧倒的にinsta360の方が撮影に要する時間は短い。このデータは実際に取材で計測した実測値であり、体感時間に対する感想を交えても、まさに「insta360は、あっと言う間に撮影が終了した。」と言う感覚であった。

 

実際の撮影画像を比較

では両機で実際に撮影し、生成した3Dバーチャルツアーの画像を比較してみよう。

今回の比較条件としては以下の通り

室内撮影での比較
・同ポイントにて撮影
・同目線(同じ高さ)で撮影
・同ポイント数を撮影

顕著にわかる違いとしては、Matterport PRO2で撮影したものは、Insta360 ONE Xで撮影したものと比べると、壁や床の質感や明暗のコントラストがハッキリとしている。加えて、完成後のデータにおいては、Matterportの特徴とも言える「ドールハウス(俯瞰図)」や「バードビュー(フロアマップ)」の各モードにおいて、顕著な違いが現れていた。

▲Matterport PRO2で撮影した場合の「フロアマップ」

▲Insta360 ONE Xで撮影した場合の「フロアマップ」

▲Insta360 ONE Xで撮影した場合の「フロアマップ」

▲Matterport PRO2で撮影した場合の「フロアマップ」

 

Insta360 ONE Xの今後の可能性について

最後にInsta360で3Dバーチャルツアーが撮影できるようになったことで広がる可能性について、今回サポートいただいた3名に聞いてみた。

▲当日の取材の様子

 

近藤さん
今回初めてMatterportの撮影に立ち会いましたが、まずはカメラの大きさと重さに驚きました。と、同時に完成した画質の鮮明さも素晴らしいと思いました。Matterport PRO2で撮影した3Dバーチャルツアーは、結婚式場やパーティー会場など、家具や内装の質感や場の臨場感を重視する、いわゆる高級な場所の紹介に向いていると言えるでしょう。なので、この3Dバーチャルツアーがクライアント向けの資料として重要な役割を担う場合はMatterport PRO2での撮影がおすすめだと思います。ただ、撮影スピードと撮影にかかる時間は圧倒的にInsta360 ONE Xが早いので、時間とコスト減を勘案するとInsta360 ONE Xがおそらく向いています。すでに、RICHO THETAやInsta360 ONE Xを保有している既存ユーザーが、カメラの新しい活用法の選択肢として3Dバーチャルツアーを検討できるようになるのは、大きいと思いました。Matterportの技術によって、周辺機器などを購入せずに、活用の幅が広がるのは既存ユーザーにとって朗報ですね。

 

丸屋さん

撮影を依頼する側のお客様の選択肢が増えたことは喜ばしいことです。これまでコストの部分で導入を迷っていた方でも、Insta360 ONE Xで撮影することがコスト減につながれば、3Dバーチャルツアー自体の導入も増えてくるでしょう。3Dバーチャルツアーは、技術としては素晴らしいものなので、その体験がより身近なものになればいいと思っています。例えば不動産業界では、現在リフォームやリノベーションと言った、古いものを新しくする流れが活発になっています。古い建物があったのと同じ場所に、新しい建物を建築するためには、当たり前ですが古い建物を取り壊さなければなりません。でも古いものは古いもので、そこで長い時間を過ごした人にとっては、さまざまな思い出や想いが詰まっています。だからこそ、あえてその画像を3Dバーチャルツアーで手軽に、そしてよりリアルに残してあげることができたら、喜んでくれる人も増えると思いますし、そこに需要は確実にあると思います。

 

柴山さん
我々は今後も自分たちが保有している情報と技術を駆使して、より多くの人に3Dバーチャルツアーの素晴らしさと、未来への可能性を伝えていきたいと思います。またその技術に触れてみたいと思った方や、活用してみたいと思ってくださった企業様を全力でサポートをしていきたいと考えています。

 

 

まとめ

国内外を問わず、世界遺産などを含めたほぼ全ての建物の内装を、インターネット上の3Dバーチャルツアーで内覧できる未来はすぐそこまで来ている。まずは、そのワクワクするような将来性を身近な建物の撮影を通して、実際に体験してみて欲しい。きっとMatterportに魅了されることは間違いないだろう。

 

 

●Matterportのサービスについて
3D+ONE
https://3dplusone.jp/

●360°カメラを使った映像(動画)の制作
株式会社 ミライヒ
https://miraihi.co.jp/

●撮影協力
HYPERMIX
https://hypermix.jp/