「必ず観たことのないものをお見せします」というキャッチフレーズのもと、デミ・ムーアの怪演が光る話題のSFホラー映画「サブスタンス」。5月16日に公開される本作品について、一足先に鑑賞し、その“ヤバさ”に打ちのめされたと語る、テレビ東京の大森時生プロデューサーと山中璃子監督のトークセッションが都内にて行われた。

第97回アカデミー賞で、デミ・ムーアは本作で主演女優賞にノミネートされた。(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS
【あらすじ】
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、容姿の衰えから仕事が減少し、ある再生医療“サブスタンス”に手を出す。だが薬を注射するやいなや、エリザベスの上位互換“スー(マーガレット・クアリー)が、エリザベスの中から現れる!若さと美貌に加え、エリザベスの経験を武器に、たちまちスターダムを駆け上がっていくスー。だが、一つの心をシェアするふたりには【一週間ごとに入れ替わらなければならない】という絶対的なルールがあり…。

頭の中に想像していたものを軽々超えていくラストシーン

作品についての率直な感想を聞かれると、大森さんは、「“終わると思ってから全然終わらない映画”というのが最初の印象でした。自分でも映画を観る時に、大体ここで終わりかなというようなことを思って見ることが多いんですけれど、それが8回くらいあったなと(笑)。完全に自分の想像を超えたところに到達しましたね」と語る。

一方、山中監督は、監督作「ナミビアの砂漠」で昨年、カンヌ国際映画祭に出品され国際映画批評家連盟賞受賞した際に、現地で同じく公開された「サブスタンス」の話を多くの人がしていたという。「終わってからみんな『サブスタンス』の話をしていて(この作品を)嫌いな人も好きな人も同じくらいの高い熱量で話をしていて…。我慢できなくて、あらすじを聞いたんです(笑)」と振り返った。「あらすじを聞いていて、なんとなく自分で想像をしていたお話というのが頭の中にあったんですけれど、そういうところも軽々超えていって、最後の方のシーンで泣いてしまったんですがなんで自分が泣いているのもあまりよく分かっていないような切なさを持った感情で見ていました」と言及した。

さらに、「“このふたりが関係ない”というのも面白い構図だなと思っていて、女優・スターがもうひとりの自分と対峙するという点で言うと、映画『ブラックスワン』や『パーフェクトブルー』などのような、“殺しあう、ごっちゃになる”というような物語が待っているのかなと思っていたのですが、完全に分離していて連携が取れないというのが、“遊戯と闇遊戯”が出ている『遊戯王』みたいな構造だよなと思いましたね(笑)」と他作品を引き合いに出しながら、本作の構造について解説。「年をとった自分ととる前の自分が、あそこまで断絶して、足を引っ張り合えるのかというのも面白いなと思って。自分に置き換えると、社会人なりたての22.3歳の時の自分と、30歳になろうとしている自分ですら、自分の中の正義とか許せることとか、大切にしていることなどが変わってきているなと感じることがあるので、そう考えるとあれくらい恨めるのかなと思いました」と振り返った。

「ボディ・ホラー」というジャンルの新しいアプローチ

また、作中のお気に入りのシーンについて、山中監督は「“歯が抜ける”という小さい綻びから絶望的な状況になっていくというのが印象に残っていますね。精神的に追い詰められている時に、歯が抜ける夢を見たりするじゃないですか。全員がある程度、理解できるところというのも、まさに突飛なところではなくて、小さいところから大きな崩壊に向かうというのがやはり怖いなと思いました」と話す。

さらに、血を2万リットル使ったというラスト部分に関して、大森さんは「こんなに呆然とするというか、想像を超えるという文句って映画ではよく使われますけれど、この映画は確かに言ってもいいなと思いますね」とし、山中監督も「最後はもうたくさん血が見れて嬉しいという感想でした(笑)。撮影楽しそうとも思いました。でも全然内輪ノリではないというか、本当に過剰でしたね」と微笑んだ。

自身もホラー作品を制作する大森さんは、ホラーという観点からどうかと問われ「ボディ・ホラー的なもって、“個”の話になっていくことが多いと思うんですよね。ボディって、個のものだから『ヴィデオドローム』みたいにひとりの人間が狂っていく、ひとりでおかしくなってしまった人の話が描かれることが多いと思うんです。ただ今回の『サブスタンス』もボディ・ホラーというジャンルだと思うのですが、デヴィッド・クローネンバーグ的なものとはまた違った飛距離を持った作品としての発見がありましたね」と解説した。

最後に、本作を⼀⾔で表すとと聞かれると、⼭中監督は「ご⾃愛ください。⾃分をケアしよう」と語り、そして「まるで⼆⽇酔いの⾟さを⼤きくしたようなところのある映画なので“先の事を考えて⾃分を⼤事にしよう”という様なメッセージを受け取りました」と評した。⼤森は「ラストを⾒た時に、⼈⽣ってこんなものなのかな、と思ったので、人生ですね」と深みを味わっていた。

作品詳細

■題名:サブスタンス
■公開:5月16日(金)公開
■監督・脚本:コラリー・ファルジャ『REVENGE リベンジ』
■出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
イギリス・フランス/142分/R-15+ 配給:ギャガ 
(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS