Blackmagic Designは、株式会社TBSテレビがゴルフのメジャー選手権のひとつであるマスターズ・トーナメントのリモートプロダクションに、Blackmagic DesignのATEM Television Studio HDを活用していることを発表。
マスターズ・トーナメントは、アメリカ ジョージア州のオーガスタで毎年4月に開催される。日本ではTBSが1967年にアメリカのCBSと業務提携を結びテレビ放送を開始し、1976年からは生放送が開始された。同社では4年前からこの中継の一部をリモートプロダクションでおこなっており、現地で撮影されている映像を日本から遠隔でスイッチングしているという。
「マスターズはTBSが長年やっている番組で、国際映像とTBS独自で設置しているカメラなど 複数の映像を組み合わせてスイッチングしながら本編を作っています。コロナ禍前は、スタッフ全員で現地に行って制作をしていたのですが、コロナ禍で人の移動が難しくなったこともあり、制作のやり方をもっと効率化していかなければならないと、考えるようになりました」と話すのは同社メディアテクノロジー局未来技術設計部の亀田遼氏。
コロナ禍による人の移動の制限に加え、映像を伝送するための高額な回線費用も悩みの種だったという。そこで同社が取り入れたのがリモートプロダクションだ。同社独自のLive Multi Studio(以下LMS)とBlackmagic DesignのATEM Television Studio HDを組み合わせたユニークなワークフローにより、日本にいるスタッフが遠隔でアメリカの映像をスイッチングすることを可能にした。
Live Multi Studio
このLMSを開発したのが同社メディアテクノロジー局未来技術設計部だ。「スタジオ制作や中継など、制作技術に近い領域の開発を行なっているのが未来技術設計部です。現場で必要とされる新しいソリューションを生み出しています。現場からの意見を聞いて開発することもありますし、基礎研究の延長で、AIを活用してこんなことができますよ、と弊部からの提案姿勢でヒアリングしながら開発するパターンもあります」と未来技術設計部テクニカルエバンジェリストの永山知実氏は話す。
未来技術設計部の勝俣祐輝氏は「LMSは弊社と株式会社WOWOWが共同開発した超低遅延の映像・音声・制御信号伝送プロトコルです。インターネットを介してPCやスマートフォン間で通信が可能です。LMSとATEM Television Studio HDを組み合わせてリモートプロダクションを実現しています。」と話す。
「ATEM Television Studio HDのマルチビューを、弊社で独自に開発したLMSハードウェアでキャプチャし、LMSを使用して、TBS放送センターまで伝送します。その伝送されたマルチビューを見ながら、独自開発のスイッチングシステムを用いて、現地のLMSハードウェアに制御信号を伝送して、そこからATEMを制御することで、リモートスイッチングを実現しています。リモートプロダクションにおいては、低遅延性が重要なのですが、LMSの低遅延性のおかげでストレスのないリモートスイッチングが実現できています。」と勝俣氏。
「また、LMSの特徴に、マルチレイテンシー機能があります。この機能は、ひとつの帯域から、カメラのリモート操作などに使える低遅延の映像と、遅延は多少あるが配信や放送用の綺麗な映像を作ることができる機能で特許も取得しています。実は、この機能はマスターズでのリモートプロダクションにおいて、低遅延映像でスイッチングを行いながら、本線用の映像は別で送る、というワークフローから着想を得て生まれた機能なんです。」と勝俣氏は話す。
マルチレイテンシー機能
ATEM Television Studio HDをワークフローに取り入れた理由について勝俣氏はこう語る。「安定性が高いことが選定理由のひとつです。長い期間スイッチャーを使っているのですが、まったく壊れない。マスターズのときは、予備機も含めて毎回2台持っていきますが、普段は予備機を使わず本線用の機材でずっと動いています。ふたつめは、サイズ感ですね。海外に持っていくので、大きいものを持っていくと、リモートプロダクションの良さが薄れてしまうので手軽に持ち運べるところが便利です。SDI端子に合わせてHDMIの端子もついている汎用性が高いところも助かります。」
亀田氏もこう付け加える。「私たちが普段リモートプロダクションで使っているカメラは、必ずしも業務用のカメラというわけではなく、SDI出力があるとは限りません。それを考慮するとHDMIとSDI接続が両方あることは、リモートプロダクションの用途では利便性が高く使いやすいです。」
「リモートプロダクションによって、スタッフの渡航費や滞在費が削減できるのに加えて、回線費も削減できます。さらに日本でスイッチングするので、複数のスタッフで気軽にオペレーションを交代することができるため、現地のスタッフも他のことができる点もメリットです。」と勝俣氏は結んだ。