パナソニック LUMIX S1のある現場から〜Osamu Hasegawaさんの場合


7月公開の有償アップグレードソフトウェアキー「DMW-SFU2」でV-Log撮影に対応したLUMIX S1。4:2:2 10bitに対応したことで、動画での描写力が大幅に向上。いち早くV-Logの威力を体感したOsamu HasegawaさんにS1の画の魅力についてレポートしてもらった。

テスト・文●Osamu Hasegawa/モデル●Lili、Ken/協力●パナソニック株式会社

 

今回LUMIX S1で撮影したパナソニックの公式ムービー『Gravitation 2』。

 

▲使用レンズや撮影設定を盛り込んだバージョン

 

V-Logとフルサイズセンサーの恩恵はカメラワークと創造性の自由度である

7月にDMW-SFU2が発売されたS1は、動画機能がより一層強化された。ここでは、DMW-SFU2でアップグレードされたS1の公式プロモーション映像の制作を通して、そのインプレッションをレポートする。まず最も印象的だったのがV-Logとフルサイズセンサーによる14+ストップのダイナミックレンジの魅力だ。これはマイクロフォーサーズ(以下MFT)のV-Log Lに慣れ親しんできたユーザーからすると非常に魅力的で、撮影時の背面モニターでも一目でMFTとの違いが認識できるレベルだ。それがSDカード記録で4K/30p 4:2:2 10bit、アトモスNINJA Vなどの外部レコーダーへのHDMI出力で4K/60p 4:2:2 10bitが記録可能となる。この記録スペックと14ストップを超えるダイナミックレンジの組み合わせを考えたときに、ボディ価格50万以下のカメラでは他に選択肢を探すのは難しい。

 

4:2:2 10bit収録に対応したV-Logの画力

▲LEICA SL 16-35mm F3.5-4.5 4:2:2 10bit 4K/30p 内部記録 V-Log ISO640

昼・夕どちらも10bitの階調の効果で、太陽を含むワイドショットでも太陽の周りにバンディングがなく、4:2:2のカラーサンプリングの効果で発色も鮮やか。カラーグレーディングを施しても破綻しにくいことが実感できる。さらに、14+ストップのダイナミックレンジの効果で逆光の影になる階段や人物も黒ツブレすることなくきちんと階調が残っている。

▲グレーディング前

▲グレーディング後 LEICA SL 16-35mm F3.5-4.5 4:2:2 10bit 4K/30p 内部記録 V-Log ISO640

夕暮れのショットのような人物を含む逆光のシチュエーションでは、本当は人物の被写体にレフを当てたいところだが、スタビライザーとワイドレンズで複雑な動きをするためにそれができない。このような状況ではS1のダイナミックレンジの広さに大いに助けられる。

 

 

 

一般的にLogモードの搭載において、ダイナミックレンジを広くする設計にするほどシャドウ部がノイジーになっていく傾向にあるが、今回S1のV-Logを使い逆光のシチュエーションで撮影した際、シャドウ部のS/Nにはかなり余裕があった。カラーグレーディングの際、後処理でノイズリダクションを施す必要性さえも感じさせないほどだ。単にダイナミックレンジの拡張を追い求めれば、シャドウ部がノイジーな画質になってしまいがちだが、ダイナミックレンジを広く確保しつつノイズの心配のない高品質な映像に仕上がっている。

V-Logが使えるようになることは、単に白トビ黒ツブレを防げるということだけに留まらない。例えば、人物を撮影した場合、今までの感覚では照明やレフがないと厳しいシチュエーションでも、14+ストップのダイナミックレンジがあることでカメラひとつで撮影できてしまう。また、スタビライザーや複雑な移動ショットの場合は被写体に照明やレフを当てるのがなかなか難しい。だが、S1はその制約から我々を解放してくれて、カメラワークの自由をもたらしてくれる。そうすると作り手の創造性やショットの自由度も一気に広がる。カメラの革新が撮影や演出の革新を促してくれる。ワンマン・少人数制作者にとってS1にV-Logが搭載されることの意義は、14+ストップのダイナミックレンジの画そのものだけでなく、そこから派生して可能になるカメラワークの自由度だと思う。

そして4K/60p記録によるスローモーションのポテンシャル、高画質の写真がもたらすタイムラプスなどを組み合わせることで、本当に沢山の表現がクオリティ高くこのカメラ一台でできてしまう。加えて4:2:2 10bitのカラースペックがあれば、攻めのカラーグレーディングが可能となる。映像のルックは今やWEB向けの動画であっても、作品のトーンを印象付ける重要な要素だ。カメラワークの幅も、カラーグレーディングの幅も、ともに有償アップグレードされたS1がその可能性を広げてくれる。

 

外部レコーダーと組み合わせれば4K/60p 4:2:2 10bit撮影にも対応

▲グレーディング前

▲グレーディング後 LUMIX S PRO 50mm F1.4 4:2:2 10bit 4K/60p NINJA V使用 V-Log ISO640

アトモスNINJA Vとの組み合わせ。NINJA Vは5インチとコンパクトサイズで、バッテリーも1つで稼働するので、ミラーレスとの相性が良い。この組み合わせで、4:2:2 10bitで4K/60pまで対応可能となる。24p再生すると、40%までの滑らかなスローモーション表現が可能となり、作品中でもしばしば40%スローを使用した。また、NINJA Vとの組み合わせで手持ち撮影でも使用したが、S1の手ブレ補正効果は相変わらず抜群に素晴らしい。

 

屋内撮影でもダイナミックレンジの広さが際立つ

V-Logと14+ストップのダイナミックレンジが威力を発揮するのは、屋外の日差しの下だけではない。ライティングなしの環境での室内撮影で、外から明るい光が差し込む白いカーテンも白トビせず、また室内のシャドウ部も黒ツブレせずに描写できた。

▲LUMIX S PRO 50mm F1.4 4:2:2 10bit 4K/60p NINJA-V使用 V-Log ISO640

▲LEICA SL 16-35mm F4.3-4.5 4:2:2 10bit 4K/60p NINJA-V使用 V-Log ISO640

▲上の映像の波形モニター

 

マウントアダプターでシグマレンズも活用

今回はシグマから発売されているマウントアダプター「MC-21」を一部使用した。EFマウントをLマウントに変換できるので、Lマウントレンズが出揃うまで少し時間のかかる間に、MC-21とEFの組み合わせがあれば、Lマウントレンズで対応していない焦点距離や明るさのレンズをカバーできる。マウントアダプター経由で明るいレンズをチョイスし、ISO5000までに抑えた。もともと高感度のポテンシャルが高いS1にとって、ISO5000の夜間撮影ではノイズは全く気にならない。

▲SIGMA ART 14mm F1.8 DG HSM(キヤノンEFマウント)4:2:2 10bit 4K/30p 内部記録 V-Log ISO5000

 

新ファームウェアの主な機能を紹介

また、有償アップグレード後はXLRアダプターを使用すればハイレゾでの音声記録が可能になる。2つのXLR端子を備えるアダプターは、インタビュー撮影やワイヤレスマイクを使用した移動しながらのロケにも重宝する。実際GH5/GH5SでもこのXLRアダプターとの組み合わせを筆者はとても重宝してきた。ハイレゾ記録ならRun&Gunで撮影した多少バラつきのある音声も後処理での修正に対応できる心強さもある。

■好みのLUTを当てられる


▲「V-Logビューアシスト機能」が加わり、LUTを当てた状態で背面モニターを見られる。プリインストールされているRec.709のLUTに加え、任意のLUTを4つまで追加できる。

 

■波形モニターを表示できる

▲「波形モニター」(ウェイブフォーム)の表示が可能になった。写真のように画面右下に表示される。

 

■ハイレゾ音声記録に対応

▲別売のXLRマイクロホンアダプターDMW-XLR1(オープン価格・実売3.5万円前後)を使用することで、MOV記録時にハイレゾ音声記録(最大96 kHz / 24ビット録音)が可能となる。

 

SFU2での進化に加えて、動画ユーザーにとっても“使えるオートフォーカス”も備わっていて、夜間でもワンマンで回せてしまうS1は、個性を伸ばしたいクリエイターにとって可能性に満ち溢れた魅力的なカメラだ。機能・スペックから派生する沢山の効果や自分なりの活かし方を見つけ、使いこなすまで多少時間はかかるかもしれないが、長く付き合う価値のある一台だ。

 

 

 

◉DMW-SFU2(オープン価格・実売2万円前後)
製品サイト https://panasonic.jp/dc/p-db/DMW-SFU2.html

 

ビデオSALON2019年9月号より転載

vsw