パナソニックからF1.7通しの10-25mmのマイクロフォーサーズレンズが登場。一本で風景撮影から人物撮影にも対応できる便利なレンズを実際のフィールドで試す。

テスト・文●上田晃司/モデル●Yuji Takatori/協力●パナソニック株式会社

 

 

 

待望のレンズがいよいよ登場

フルサイズミラーレス機Sシリーズで注目を浴びているLUMIXから革命的なマイクロフォーサーズ(以下M4/3)用レンズLEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.が発表された。本レンズの注目すべき点はズームレンズにも関わらず、絞り値がF1.7と非常に明るい点だ。ズームレンズで明るいと言えば、例外はあるが一般的に開放F2.8が主流だった。ボケを活かしたり、ローライトシーンで使うにはM4/3の場合、F2.8は辛いことも多々あった。

筆者はM4/3の初期からLUMIXを使っているが、動画撮影では基本F値の明るい単焦点レンズを使ってきた。だが、動画撮影の現場ではレンズ交換の時間があまりなかったため、このレンズの登場を本当に楽しみにしていた。非常にハイスペックなので、さぞかし大きくて重いのだろうと思っていたが、実際はそうではない。全長は128mmで質量は見た目より軽量な690gだ。GHシリーズとのバランスもよく相性抜群と言える。

⬆テレ端(50mm相当) F1.7 1/50 ISO1600 シネライクD。モデルを東京駅バックに撮影したもの。望遠端で35mm判換算50mm相当の画角になる。絞り開放で撮影しているが驚くほどシャープでピント位置が際立っている。背景のボケは素直で自然なためズームレンズとは思えないほど美しく丸ボケの輪線も色づきがほとんどなく綺麗だ。

⬆ワイド端(20mm相当) F1.7 1/100 ISO1600 シネライクD

 

 

1本で単焦点レンズ5本分の画角をカバー

また、35mm判換算で20-50mm相当の画角をカバーしている点も注目したい。頻繁に使う画角である50、35、28、24、20mmの単焦点レンズ5本分をカバーしているので、幅広い被写体に対応できるのもポイント。もちろんズームレンズなので画角の微調整ができるのもありがたい。

動画撮影時の注意点だが、本レンズの画角の魅力を引き出すにはクロップなしで撮影できるGH5Sがベスト。GH5の場合は画角が1.1倍になるので、広角側が22mm相当と少し狭くなる。しかし、GH5を上手に使う方法もある。4K撮影時GH5SではEXテレコンを使った撮影はできないが、画素数の多いGH5ではクロップ撮影が可能。EXテレコンを使うと72mm相当の画角になり、より望遠効果を得られるので便利だ。

画質に関しても一切の妥協が感じられない。絞り開放にも関わらず単焦点レンズを超えるコントラストとシャープネスがMTFから見えてくる。本レンズは非球面レンズ3枚、EDレンズ4枚を使用した12群17枚の構成で、倍率色収差や歪曲収差をしっかり補正している。その結果、絞り開放から単焦点レンズ並みの描写を堪能できる。注目のボケ感もズームレンズとは思えないほど自然で柔らかに表現できるのも魅力だ。

 

35mm判換算で20mmの広角から50mmの標準域をカバー




⬆画角は広角端で35mm判換算20mmの超広角から標準域の50mmまでカバー。GH5Sに装着することで20-50mmまでレンズをフルに活かせる。 GH5の場合は4K撮影時1.1倍になるので少し画角のロスがある。ただし、GH5の場合、4K撮影時でもEXテレコンを使うことで画質の劣化なく72mm相当の中望遠としても使える。

動画での使用に向いた操作系統

操作系に関しても今回LUMIXのM4/3用レンズとしては初めて搭載された「フォーカスクラッチ」により直感的な操作が可能になった。フォーカスクラッチはフォーカスリングをスライドさせるだけのシンプル操作。スライドさせると距離指標も表れ、MF操作がしやすくなる。フォーカスリングは適度なトルク感があり、ピントの微調整もスムーズに行える。動画撮影時はリングの回転角の絶対位置にピントがくるようになっている。

また、ピント位置を大きく動かしてもフォーカスブリージングがほとんどないのが本レンズのポイント。フォーカスブリージングとはピント位置を変えた時に起こる画角の変化。静止画用のレンズではよくあるが、本レンズではフォーカスブリージングがほぼ無いためシネマレンズのような自然なピント合わせが可能だ。また、絞りリングにも秘密がある。本レンズのピントリングはクリックレス仕様で無段階調整が可能。クリックレス仕様により自然な露出の調整や被写界深度の調整ができる。絞りの制御はマイクロステップ制御により0.1段毎の調整ができる。スムーズでムラがないため絞りリングを動かしても気づくことはない。

 

ブリージングが少ないためフォーカス送りの表現にも使いやすい

AF/MFの切換はフォーカスクラッチでできる。フォーカスクラッチはフォーカスリングをスライドさせるだけで行える。また、フォーカス送りの際に画角が変化してしまう「フォーカスブリージング」も最小限に抑えられ、フォーカス位置を無限遠付近から近接まで動かしても画角変化がなくシネマレンズのような違和感のない表現ができる。

 

 

フィルターワークがしやすい

フィルター枠にもポイントがある。本レンズは大口径レンズということもありフィルター枠は77mmと非常に大きい。大きくなったことでメリットがある。映像表現には欠かせないフィルターワークが楽になった点だ。映像撮影では角形のハーフNDなどフィルターを使うことが多いが、前玉が小さすぎるとフィルターの効果を活かすことが難しい。そのためハーフNDなどは使いづらかったが、本レンズでは本格的なフィルターワークが可能になった。筆者は 100mm×150mmの角形フィルターを使っているが問題なく使うことができた。輝度差のある場所などフィルターワークが必要なシーンで効果を発揮できた。

 

⬆本レンズには77mmのフィルター枠が備わっている。M4/3としては大きめではあるが、実は前玉が大きくなることで今まで以上にフィルターワークがしやすくなった。ハーフNDなど動画撮影では欠かせない大きめのフィルターを効果的に使えるのも魅力だ。

 

 

クリックレスの絞りリングを搭載

絞りリングはクリックレス仕様を採用。 LUMIXのLEICAレンズでは通常クリック感のある絞りリングを採用しているが本レンズはクリックレス仕様。それにより絞りを使った露出制御を可能にし、時にはシームレスに被写界深度の調整もできる。絞りはリングでの操作時のみ0.1ステップで変更可能だ。


 

 

ジンバルと組み合わせても使いやすい

本レンズは大型のレンズではあるがAF速度も速い。インナーフォーカス方式を採用し作動音も聞こえない。ジンバルに載せて動きながらの撮影も楽々行える。さらにGH5Sと組み合わせれば人体認識を活用してピント合わせが行えるため人物撮影も楽にこなせる。また、ズームをしてもレンズのバランスがあまり変わらない点も評価できる。ジンバル撮影ではバランスの調整が重要だが、筆者が使っているRONIN-Sであればバランスを取り直さなくても充分使用できた。

⬆20mmの画角でモデルに近づきフォローした。被写体の大きさも大きく変化するスピーディーなシーンではあるが、GH5Sの人体認識の正確さと本レンズのAFの精度の高さでしっかり撮影できた。

 

●バランス調整不要でそのまま使える

⬆ズームレンズのためズームするとレンズの鏡筒は多少前後するが、バランスは大きく変化しない印象。筆者愛用のRONIN-Sであればバランスを再度とり直すことなく撮影できるので、機動力を活かして時間を無駄にせず撮影ができる。

 

●GH5Sとの組み合わせならば人体認識が使える

⬆GH5SであればLUMIXの魅力のひとつである人体認識を使える。ジンバル撮影で的確に人物をフォローするのであれば人体認識がオススメだ。本レンズのAFは精度が高いのでAF撮影でもピント位置を気にせず構図や動きに集中できる。

⬆GH5SのAF速度や追従感度を調整できるメニュー。今回の撮影では追従感度をやや下げて-2にして撮影を行なった。

 

 

カメラバッグにもコンパクトに収納

⬆筆者が日頃愛用しているthinkTANKphotoのカメラバッグ。複数のレンズを用意せずに撮影に臨めるため、GH5Sと本レンズ、GH5を収納して余ったスペースには、予備バッテリー、小型の電動スライダー、フィルター類を収納できる。

 

本レンズは今までにない開放F1.7のズームレンズであり、単焦点レンズ5本分を一本でまかなえるので動画撮影ユーザーには大きなメリットだろう。時間の制約がある撮影においては本レンズは間違いなく強みになるはずだ。画質面でも一切妥協がなく、絞り開放からシャープでボケも美しいハイエンドなレンズなので是非クリエイティブに使いこなしてほしい。

 

ビデオSALON2019年8月号より転載