iPhoneographerとして主にWEBメディアでの動画制作にiPhoneを活用している山﨑拓実さん。山﨑さんは、太陽企画で映像制作業務に関わった後、フリーランスとしてPV、MV、配信を手掛けてきた。WEBメディアの動画取材では、あえてiPhone を使うことで効率的に制作している。またMV制作においても、iPhoneを使いこなし、多くの作品を生み出している。取材案件ではなく、表現活動でもiPhoneを使いこなす山﨑さんのノウハウをお届けする。

講師  山﨑 拓実

映像制作Mc代表。1998年生まれ、明治大学国際日本学部卒。日英バイリンガル。新卒で太陽企画株式会社に入社した後、フリーランスのiPhoneographerに。現在はBusiness Insider Japan、Gizmodoを運営する株式会社メディアジーンに所属。Business Insider Japan、Gizmodoの映像・記事制作を行いつつ、個人の兼業でのPV、MV制作、配信なども行なっている

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iPhoneographerを名乗る

わたしは今、WEBメディアのBusiness Insider Japan、Gizmodoを運営する株式会社メディアジーンに所属して動画を作ったり、記事を書く仕事をしています。内訳としては映像のほうが7、8割を占めます。もともと映画好きで、制作の裏側が紹介されているコダックのメールマガジンを読んでいて、自分が本格的に映像を始めたのは、メルカリで買った8mmカメラが最初だったんです。

今の会社ではブラックマジックデザインのポケシネやソニーのFX30を所有していて、それらを使うこともできますし、自分も使ったことはあるのですが、わたしはあえてiPhoneographerと名乗って、自分のiPhoneで制作することが多いです。ビデオグラファーという肩書きでiPhoneを持っていくとさすがに驚かれてしまうので、トラブルを避けるためにも、iPhoneographerと名乗って、事前にクライアントにリールを見せて了解をとっておくことが重要です。

iPhoneographerという言葉自体は2013年ぐらいからあって、iPhoneographとかiPhoneographyというハッシュタグが広まっていますし、日本だと三井公一さんという写真家の方がiPhonegrapher(綴りとしてはoがない)として活動されています。

iPhoneで動画を撮ること自体は今や珍しいことではなく、たとえばアイドルのオフショットのように、メイキング映像などであえて親近感を狙って使うことは普通に行われています。しかし、ここでは、それとは逆に、iPhoneでありながら、FX3やFX6といったシネマカメラにいかに近づけるかという手法をお話ししたいと思います。


5年くらい前の20歳の頃の山﨑さん。ニコンの8mmカメラをメルカリで購入して映像制作を始めた。



会社で所有しているソニーのFX30。これ以外にもブラックマジックデザインのポケシネなどもあり、山﨑さんはこれらを使える立場でもある。



スタジオでの仕事を手伝ったときに使わせてもらったソニーのFX6。もちろんシネマカメラの良さは充分理解しているが。






山﨑さんがiPhoneで制作した作品のリール (2022)




なぜiPhoneなのか?

機動性

そもそもなぜiPhoneを使うのかですが、まずは機動性の高さです。カメラとしてはポケットに入るくらいのサイズであるということ。それでありながら、iPhone 11以降はProシリーズでは3つのレンズがついている。取材しているときでも、ボタンひとつでレンズを変えることができるわけです。しかもこの薄さですから、壁に貼ったり、狭いところにカメラを入れたり、POVカメラとしてなど、シネマカメラでは難しいアングルを得ることができます。


カメラの性能

これはAndroidでも優秀なカメラはありますが、iPhoneのカメラの性能はトップクラスであり、しかも進化はゆっくりですが、確実に世代を重ねるごとに良くなっています。iPhone 12以降は、Dolby Vision HDRの採用で幅広い階調と色域が得られるようになりました。アップルは毎回、著名な撮影監督にデモ映像の作成を依頼するなど、動画の画質に対する本気度がうかがわれます。


サードパーティのパーツの豊富さ

なによりもiPhoneに関連したサードパーティーのパーツが豊富というのが魅力です。SmallRigのようなカメラ用のケージを出していたメーカーもiPhone用のものを充実させています。移り変わりが激しいスマホの世界ですが、ここは心強いところです。わたしが使っているアクセサリーについては後ほどご紹介します。


ローリングシャッター歪みの少なさ

このことは案外重要だと思っています。シネマカメラのような大判センサーのカメラでは、KOMODOのようなグローバルシャッターのセンサーのカメラ以外はどうしても速い動きでの歪みが気になることがありますが、iPhoneはセンサーがそもそも小さいということもあって、ローリングシャッター歪みが抑えられています。わたしは仕事柄、ジンバルは使わずにリグをもって手持ち撮影することが多いので、ローリングシャッター歪みの少なさは安心です。


ディスプレイ

現在のiPhoneに採用されているSuper Retina XDRディスプレイは夏の晴れている屋外でもしっかり見えます。カメラのモニターは屋外では確認しにくかったりしますが、iPhoneのモニターならそれはありません。しかも画面が大きいし、タッチパネルなので、設定がやりやすい。大きく明るい画面というのは、設定のミスにも気がつきますし、周辺に映り込んでいる物に気づくことができます。


Log撮影

そして最後にLog撮影を挙げました。もちろんこれまでのiPhoneやAndroidでもFilmic Proというアプリを入れてLog撮影ができました。わたしもそうやって右の作例などは作ってきました。ほかにもLog撮影ができるカメラアプリは存在します。ところが、iPhone 15 Proから採用されたApple Logはこれまでとは次元が異なるものになっています。他社のアプリではさすがに輪郭強調まではOFFにできていなかったのですが、アップル純正のApple Logは本当に色域が広いだけでなく、輪郭強調もOFFになっているようです(後述)。最後のLog撮影の部分のみ、iPhone 15 Pro (MAX)限定の魅力ということになりますが、このレベルのLog撮影ができるなら、もうiPhoneを選ばない手はないと思っています。



これまでiPhoneで撮影されたということで話題になった作品の一部を紹介。iPhone 5sで撮影された劇場公開映画から、最近のMVまで。Olivia RodrigoのMVはiPhone 15 Pro登場に合わせて制作され、メイキングも存在するのでぜひ見てほしい。



● Shot on iPhone 5s




● Shot on iPhone 8




● Shot on iPhone 11Pro



●Shot on iPhone 14 Pro





山﨑さんがiPhoneで制作した作品

iPhone 12  miniで制作したMV『Nightly Thoughts』

2021年に公開したOonnのミュージックビデオをiPhone 12 Miniで全編ジンバルで動きながら撮影。ライトスタンド1灯のシーンでは階調が適度に残されている。




iPhone 12 miniで制作したMV『花は枯れて』

こちらも2021年に公開したTatsuro-BananaのミュージックビデオをiPhone 12 Miniで撮影。4:3でモノクロの映像もまぜながら、グレインを足してフィルムルックにしている。




iPhone  13 Proで制作したレポート動画

Business Insider Japan における「試乗レビュー ヒョンデの電気自動車IONIQ 5 公道走行、室内空間をチェック」をiPhone 13 Proで撮影。レポーターの編集長が車内の装備を紹介したり、走行しながらインプレッションを語る。車内での内装の説明でカメラを近づけやすいのがメリット。音声はRODEのWireless GO IIで収録。2022年8月に公開。





アクセサリーを使いこなす

NDフィルターが一番のポイント

前述したとおり、iPhoneの魅力はサードパーティのアクセサリーが充実していることです。本当に多くのメーカーから各iPhone用の製品が出されています。ここでは、わたしが今使っているものをご紹介していきます。

まずiPhone本体はiPhone 15  Pro Maxで、色は白が好きなのでホワイトチタニウム。ただそのまま使うのではなくMomentの黒いケースを利用しています。ストレージは最大の1TB。これで約25万円! それこそFX30が買えてしまうような金額ですね(笑)。

いろいろケージについていますが、実はクオリティにとってもっとも重要なのが、NDフィルターだと思っています。いかにもiPhoneで撮った動画のように見えてしまうのは、アクションカメラのようにシャッタースピードが上がったパラパラした映像のせいだと思っています。NDフィルターを入れてそれを抑えるだけで、映像のクオリティが上がって見えます。わたしが使用しているのは、NiSi True Color ND Varioです。実はここにこだわるというのがわたしが今回一番強調したいところもかもしれません。可変NDというと色被りの問題もありますが、このNiSiのフィルターはそれも少なく安心して使えます。67mmのフィルターマウントと組み合わせて3レンズをカバーすることができます。


BeastgripのケージとWireless PRO

ケージはBeastgrip Proを使っています。iPhone 15 Pro Max専用ではなく汎用なのでプロの制作現場では定番のケージと言っていいくらいよく使われています。真ん中で分割することができ、わたしは左側はNDフィルターを装着しているので、右手側のみで使用しています。

音声収録はRODEのWireless PROを使っています。32bitフロート録音がマイク側でできてしまうので、iPhone 15 Pro MaxのUSB-Cは外部SSD記録用に使うことができます。後述のiPhoneのカメラアプリ、Blackmagic Cameraはタイムコード対応なので、音は別に録って同期できるようになりました。


各社からiPhone用のアクセサリーが登場している。デジタル一眼用のケージが充実しているSmallRigも各種パーツを用意している。

● Freewell



● PolarPro



● SmallRig




山﨑さんが今使用しているアクセサリー

● Beastgrip Pro

iPhone用のケージとしては老舗だが、軽量で使いやすく、各所にネジが切られていて、愛用者は多い。



● Moment 67mm Phone Filter Mount

iPhone用ケースが充実するMoment。ケージもしくはカバーに挟み込み固定できるフィルターマウント。



● NiSi True Color ND Vario

1〜5ストップ(ND2〜32)の範囲でND濃度を調整できる可変NDフィルター。




● RODE Wireless PRO

2波使えるコンパクトなワイヤレス送受信機。マイク付きの送信機のほうでも記録できるのが便利。受信機側でモニタリングが可能。