文字には多種多様な造形が存在し、それぞれに固有の印象や深い歴史背景が存在している。本記事では、テレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』劇中曲『ギターと孤独と蒼い惑星』MVのリリックデザインを手掛けたデザイナーのアジャラカさんを講師に招き、文字表現の基礎から書体の与える印象までを掘り下げ、“作字”で個性ある文字表現を生み出すためのテクニックを、実演を交えながら解説してもらった。
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講師 アジャラカ ajalaca
グラフィックデザイナー/タイプフェイスデザイナー。2020年よりSNSでの活動をスタート。学生時代に学んだビジュアルデザインやタイポグラフィの知識を活かし、文字を扱った作品を中心に、グラフィックデザイン、ロゴデザイン、Web制作など幅広い領域で活動中。
WEB ● https://ajalaca.com/
X ● https://twitter.com/ajalaca
文字を扱うオールジャンルのデザイナー
個性溢れる文字表現を生み出す“作字”新しい文字表現がどう多くの人に刺さるのかを探っている
アジャラカという名前で活動しています。ジャンルを問わないデザイナーとして、グラフィックを中心にロゴデザインやUI設計、Web制作のようなデジタルプロダクトのお仕事などもやりつつ、映像に関する制作のお手伝いもしています。
また、2020年にSNSで作字活動をスタートしており、文字を扱った作品をはじめ幅広く制作しています。実績としては、VTuber事務所であるにじさんじ、ホロライブなどをはじめ、個人企業を問わずタレントや活動者のネームロゴ、イベントタイトルなど、特にエンタメジャンルに寄り添ったお仕事を多く扱っています。主にSNSへの投稿作品から知っていただくことが多く、お仕事のご依頼もそこからスタートすることが多くあります。実はできることが多いデザイナーなので、それをきかっけにしてWebやグラフィックなども一緒に担当させていただくこともあります。
映像作品としては、『ぼっち・ざ・ろっく!』というアニメの劇中曲『ギターと孤独と蒼い惑星』MVのリリックデザインや、Adoさんがボカロ企画でチームを募集していた際に、たまたまお声がけいただき、『アタシ×I×MY∴理想論』という楽曲MVのリリックとロゴデザインをお手伝いさせていただきました。
お仕事と並行し、ライフフワークとして作字を用いたグラフィック作品を作り続けています。自分の好きな楽曲をモチーフにしたり、文字をどう面白く扱えるかといった実験的な挑戦も試みながら、どのようなな表現がそれを見た人に響くのか、ということを日々研究しています。
今回の記事では、文字表現の基礎について詳しく説明しつつ、文字の造形がデザインやアートの印象にどう影響するのかを掘り下げていければと思っています。
コンテンツの文脈により想定されるスタイル
“らしさ”を知ることで表現の強化ができる
書体には、コンテンツの文脈により一般的に想定されるスタイルも存在するため、その知識を知っておくと便利です。例えば、マンガ的表現をしたい場合、ひらがな・カタカナはゴシック体で、漢字は明朝体を組み合わせた「アンチック体(アンチゴシック体)」というスタイルがセリフなどに良く使われます。こういった表現を取り入れることでマンガらしい表現を強化することができます。このように狙ったテイストの画作りや作品作りをするうえでは、“らしさ”をよく知っておく必要があります。
文字の歴史背景
書体の生まれた背景を文字選びのヒントにする
文字自体の歴史背景を知っておくと、文字選びの際のヒントになります。例えば、「TRAJAN」という書体は、現存する最も古いローマ字と言われる遺跡の碑文から取られた書体です。そういった歴史背景があることから、厳かな雰囲気や歴史を感じさせる文字表現をしたいときなどにうまく作用させることができます。
とはいえ、そういった事情を厳密に守らなくてはいけないわけではなく、例えば、「イタリアで作られた書体は、フランス料理店の看板やメニューに使ってはいけない!」という俗説がありますが、実際にはそのようなセオリーはないとされており、お店の雰囲気やテーマ、コンセプトを優先して書体選びを考えてよいと思います。書体はその時々のニーズや場面によっても変わるものなので、「その書体にまつわる背景は、選ぶときのヒントとして知っておくといい」と考えてもらえればと思います。
使用を推奨されない書体
その文字を使うことでどういう印象を持たれるか
その一方で、使うことに対して抵抗があったり、推奨されない書体も存在します。ハイブランドのロゴやグラフィックに一時期よく使われていた「Gill Sans」という有名な書体がありますが、これを作った書体デザイナー、エリック・ギル氏の生前のエピソードが問題となり、欧米圏ではこの文字の使用を控えたり、ロゴを変更することを余儀なくされる動きがありました。文字そのものに罪はありませんが、その文字を使うことによってどういう印象を持たれるか、どういう影響が起こるかということは事前知識として知っておくことも重要です。
文脈の重要性
前後の文脈によってメッセージを効果的に伝える
「文脈」も情報を理解する重要な要素です。左の画像の場合、中央の文字の形は左右で同じですが、その前後をAとC、12と14でそれぞれ挟むことで、左の場合はB、右の場合は13と読むことができます。このように、前後の文脈によって誤ったメッセージを伝えてしまうこともあれば、効果的に伝えることもできます。この効果を利用することで、多少文字の形が崩れたとしても、意図した文字を文脈から読み取ってもらうことが可能です。
文字を読む方向と時間軸
文字と文字が表す内容に対して時間軸を持って視点は動いていく
基本的に、文字を読む方向に対して目線は動いていくため、その動きに合わせて時間の流れも動いていきます。この視点の動きを「グーテンベルク・ダイヤグラム」と呼び、ます。文字表現を映像作品の中で扱う際に意図した順番で読ませるためにはこういったルールを頭に入れておく必要があります。
ただし、映像表現にはタイムラインが存在するため、そこまで厳密にこの流れに沿って文字を配置しなければならないというわけでは決してなく、基礎的な知識として知っておくということが大事です。
サブスクリプションサービスの充実
フォントのサブスクが充実してきているフォントを揃えるのが容易に
では、実際にそういったフォントや文字を使用するにはどうすればいいのでしょうか。以前までは、買い切りの書体をその都度購入しPCにインストールする必要があったため、気軽に文字の種類を揃えることは難しい状況にありました。
それが近年では、フォントのサブスクリプションサービスの充実により、以前と比較して数多くのフォントを揃えることが容易にできるようになりました。各社サービスによって色々な特色があるので、自身の使用用途に合わせて契約するのがよいでしょう。
Adobe Fontsは様々なフォントメーカーのフォントを使うことができて、とても便利ではあるのですが、一定期間を過ぎるとフォントメーカーが提供をやめて、過去には使えていたフォントが使えなくなることもあるので注意が必要です。
フォントサブスクリプションサービスの一例
● 株式会社モリサワ 「モリサワフォント」
● アドビ株式会社 「Adobe Fonts」
● フォントワークス株式会社 「LETS」
● ダイナコムウェア株式会社「Dyna Smart V」
● エヌアイシィ株式会社 「NIS Ticket」
● シヤチハタ株式会社 「JFONT」
無料で使えるフォントを使うか、自分でイチから作る
フリーフォントやオープンソースフォント、「作字」をする選択肢も
選択肢として、フリーフォントやオープンソースフォントを選ぶのもひとつの手段です。最近では、Google提供のオープンソースフォントを探せるサービス「Google Fonts」などを利用して、自分好みのオープンソースフォントを簡単に見つけ出すことも可能です。
また、「作字」と呼ばれる方法で自分だけのオリジナルの書体を制作し、作品などに取り入れるというやり方もあります。「作字」であれば、自分の好きなように使うことができます。
フリーフォント/オープンソースフォントのメリット・デメリット
改変や加工の自由度が高くフォントを崩す、変形するなども可能
フリーフォントやオープンソースフォントのメリットとして、無償で使えることが多い点や、買い切りやサブスクのフォントと比較して用途やライセンスを気にせずに利用することができる点が挙げられます。ただ、フリーフォントに関しては、商用利用が禁止されているものもあります。利用規約を必ず確認しましょう。改変・加工も割と自由度が高くできるため、オープンソースのフォントを崩したり、変形させて利用することも可能です。
デメリットとしては、サブスクリプションサービスのフォントと比べると種類が限られている点や、品質的な部分がものによってしまう点が挙げられます。また、数が限られているため使用するフォントが被りやすく、既視感のある文字表現になりやすいです。加えて、日本語の漢字をしっかりと揃えているフォントはそこまで多くないため、使える文字が限られるというデメリットもあります。
・無償
・用途を気にせず自由に利用できる
・改変、加工も可能
・種類が限られている
・既視感のある文字表現になりやすい
・文字が限られる(漢字が存在しないなど)
「作字」のメリット・デメリット
作字をすることで作品に合ったオリジナリティや個性のある表現ができる
一方、「作字」をする際のメリットとしては、当然ながら自分で文字を作るので無償で使えるし、用途を気にせずに利用することができます。そのうえで、しっかりと作品に合ったオリジナリティや個性のある表現ができる点などが挙げられます。
デメリットとしては、一文字一文字手作りで文字を作っていくため工数がかかってしまう点と、しっかりしたものを作ろうと思うと、ある程度の技術が必要になる点などが挙げられます。
・無償
・用途を気にせず自由に利用できる
・オリジナリティのある表現が可能
・工数がかかる
・ある程度の技術力が必要