結婚式を撮影し、その場で編集して披露宴の最後に上映する「撮って出しエンドロール」。即座の判断・対応力が試されるウエディングムービーの現場ではどのような準備をし、本番でどう動いているのか。ビデオグラファーの次石さんが、ネットで話題を呼んだ実際の作例と共に解説する。

次石悠一

ウエディングビデオグラファー歴19年。丁寧なヒアリングをベースとした「結婚を決めたふたりの想い」を伝える鮮烈で美しい映像が強い共感を呼び、これまでのウエディングムービーになかった新たな世界観が評価されている。Tomato Red Motionは2013年よりチームとして活動を開始。ウエディングムービーを原点とし、ドキュメンタリーテイストの映像を得意としている。現在はコーポレートムービーなども多く手がけ、全国各地、世界へと活動の幅を広げている。






インスタで7万回再生された撮って出しエンドロールの裏側を紹介

僕は20歳でウエディングビデオグラファーの仕事を始め、もう20年近く続けています。最初は会社に所属していわゆる「記録ビデオ」と呼ばれるベタ撮りや、プロフィール映像のスライドショーなどを手がけていましたが、2013年に独立してTomato Red Motion(以下トマト)という会社を設立しました。最近ではウエディングに限定せず、企業イベントの撮って出しや自治体のPR映像なども手がけています。

今回はトマトが手がける「撮って出しエンドロール」がどのように作られているのかを、2023年に制作した『World Peace Begins with Love Close at Hand』を例にお話しします。昔からの知り合いにayakoさんという有名なブライダルフォトグラファーがいるのですが、彼女が8月に結婚式を挙げることになり、その際に依頼を受けて作ったエンドロールです。この映像はインスタでかなりバズり、7万回くらい再生されました。企業機密もありますが、この撮って出しエンドロールがどのように制作されていったのか、話せる範囲で制作の裏話をお届けしたいと思います。





エンドロール制作のワークフロー

挙式当日までの4つのステップ

式当日までの流れはこんな感じになっている。カップルとの打ち合わせは2カ月前にオンラインで1回のみ行う。ここは映像の仕上がりを左右する需要な工程。具体的な撮影準備は1週間前に行い、当日はサブカメラマンと2名体制で撮影し、披露宴の最後に映像を上映する。




挙式の2カ月前に企画を練り始め1週間前に字コンテを作る

ではまず、式当日までの制作フローを見ていきましょう。始まりは制作依頼から。依頼を受けるのは大体半年前が多く、早い場合は1年前に来ることもあります。ただ、次に行うカップルとの打ち合わせは2カ月前。依頼から間が空きますが、式や披露宴の具体的な中身は2〜3カ月前になるまで決まらないため、このあたりで行うのが一番効率的なのです。はじめましての挨拶からスタートして、1時間で大体を掴む感じです。そして1週間前には撮影準備を行います。この工程で重要なのは字コンテの作成。Premiere Pro上で文字を中心にしたVコンを作るのですが、なぜPremiere Proかというと、当日の会場で撮って出しの編集をする時に、字コンテを目安にそのまま編集できるようにするためです。そして当日は僕とサブカメラマンの2名体制で撮影・編集をし、披露宴の最後に映像を上映してDVDにします。







ヒアリングを元に企画を固める

ヒアリングで聞き出す5つのポイント



ふたりの価値観が全然違うことがわかったら、そのコントラストを見せるように作ったら面白いのではないか、親御さんが亡くなっていたとしたら、結婚式でこんなことをしたら感動的なエンドロールになるんじゃないかというように、ヒアリングを通して企画のヒントを見つけていく。「この人たちのここがいいな」と思った部分が一番の企画の種になる。





式場を選んだ理由を訊くのは、カップルが魅力的だと感じた部分を映像に残すため。また、撮影スタッフは式場の下見ができないので、ヒアリングを通して撮影環境や自由に撮れる時間の有無などを把握しておく。ウエディングの進行を妨げることはできないので、与えられた条件の中でできることを探っていく。



ヒアリングを元にテーマと切り口を決定

あくまでカップルふたりの人柄が落とし込まれた企画にすること




カップルからのヒアリングで何を拾うかが腕の見せどころ

制作工程で大事なのは、とにもかくにも2カ月前の打ち合わせで行う、カップルからのヒアリングです。作品の仕上がりを大きく左右する、制作の起点とも言えるでしょう。ここでの課題は、結婚するふたりと仲良くなることと、友達になるくらいの勢いで人となりを知ることです。初対面で、しかも1時間の間に生い立ちから価値観、仕事、出会いから結婚の経緯まで話してもらわなければなりません。聞く側は相手が喋りやすい雰囲気を作ったり、共感を示したりすることが大切です。

具体的には上記の5つを訊いていきますが、1〜3は企画のための質問、4〜5は当日の撮影の参考にするための質問です。ただ、いろいろ話してもらったとしても、その中から何を拾い上げるかは自分の観点と感性次第です。「ここがふたりにとってスペシャルなポイントではないか」「この人たちのここがいいな」と思った部分が一番の企画の種になるはずです。



「ふたりらしい」映像になるようにテーマと切り口を導き出す

次はヒアリングを元にテーマを導き出します。無口な人とよく喋る人のカップルなら、そのコントラストを見せるような構成にしてみてもいいし、両親との関係が良いのであれば、両親に焦点を当ててみてもいい。場数を踏んでいくと、こんなエピソードならこういうテーマだろうとすぐにアイデアが出てくるようになります。数種類の方向性をストックしておいて、それをふたりに合わせてアレンジしていく感じです。

テーマが決まったら、次はそれをどのように料理するかを考えます。たとえば天国のお父さんに捧げる物語にするなら、それを思い切りスタイリッシュに見せるのか、ありのままを切り取ってドキュメンタリーテイストで見せるのか。切り口次第で、ジンバルを使って綺麗に「決まった」感じにするのか、あるいは手持ちでリアリティを出すのかなど、使う機材も変わってきます。

ただ、テーマや切り口は好き勝手に決めるのではなく、撮影環境やふたりの人柄を含めて考えることが大切です。あくまでも、ふたりのその人らしさが落とし込まれた映像であるべきだと僕は考えます。







今回の作例の企画はこうして決まった

ヒアリングで拾ったポイント

新婦は旅好きで世界各地を旅行してきた

結婚相手は外国人で、日本で出会った

導き出したテーマ

“世界中を旅してきた自分が見つけたかったものは、すぐ近くにあった”

“結婚式を行う会場が、旅の最終目的地”



ヒアリングで拾ったポイント

新婦は勝気な性格で、活発なイメージがある

彼とは普段から喧嘩が多い

導き出したテーマ

普段の印象とは違う、素直に相手を想う姿を映し出したい



最終的に設定した企画のゴール

World Peace Begins with Love Close at Hand

世界中を旅してきた自分が見つけたかったものは、すぐ近くにあった。結婚式を行う会場が、旅の最終目的地。


三幕構成を使い、ストーリーを感じさせる映画のようなエンドロールにする




現場で効率よく撮れるように企画のゴールを頭に入れておこう

今回のエンドロールでは、ayakoさん夫婦からのヒアリングを元に4つのポイントを拾い上げました。まず、世界数十カ国を訪れたことがあるという新婦の経験を彼女の人生のスペシャルなポイントとして抜き出し、それでも外国人である新郎のエドさんとの出会いは日本だったというエピソードに物語の種を感じました。ここから導き出したのが、「世界中を旅してきた自分が見つけたかったものは、すぐ近くにあった」「結婚式を行う会場が、旅の最終目的地」という第一のテーマです。文字にするとすごくクサいですが、切り口次第で抜け感を出してバランスをとることができます。

また、新婦の人柄にも注目しました。僕は付き合いが長いので裏の姿も知っていますが、ayakoさんは普段は勝ち気で活発な印象なので、そんな彼女が素直な気持ちを涙ながらに話すような画があれば、見る人の心を打つだろうと想像しました。さらに、日常的に喧嘩が多いふたりなら、結婚式は互いへの感謝や想いを伝え合う良い機会になるかもしれません。こうして「普段の印象とは違う、素直に相手を思う姿を映し出したい」という第二のテーマが導き出されました。

これらのアイデアを元に、最後に企画のゴールを設定します。無駄を省いて常にシーンの目的を考えながら撮影できるように、タイトル、あらすじ、切り口の3点を具体的に決めて頭に入れておこうというのが目的です。あらすじは少しクサいですが、飾らない撮り方で中和する予定。そして、それを表現する切り口として、今回はストーリーを感じる映画のような構成がいいと考え、映画などでよく使われる三幕構成を使うことに決めました。