学生時代から映像制作の仕事をはじめ、2021年、在学中にデザイン、映像制作、3DCGを手がける会社「IDENCE(アイデンス)」を仲間たちと立ち上げた板谷勇飛さん。個人のクリエイターからチームへ、そして法人化へと辿ったその経緯や営業手法。そして既存の映像制作会社があるなかで、どうやって起動に乗せ、差別化していったのか? AIが台頭する時代を見据えた今後の在り方まで赤裸々に語っていただいた。

講師   板谷勇飛   Yuhi Itadani (IDENCE. CEO、 Producer、 Creative Director)

岡山県岡山市出身、2001年生まれ。株式会社IDENCE代表取締役。クリエイティブサークルsense.ファウンダー。慶應義塾大学環境情報学部休学中。フリーランスの映像クリエイター/グラフィックデザイナー、サイバーエージェントグループ6秒企画(現 Cyber AI Productions)エディターを経て、2021年現会社を学生起業。ブランド広告からサービス紹介VP、コーポレートWEBに至るまで幅広いクリエイティブを手掛ける。現在は実写から3DCGに渡る幅広い知識を生かし、IDENCE全案件のクオリティ管理を担う。特技は街中でフォント名を当てること。






いかにしてチームから会社になったのか?

株式会社IDENCE創業までの歩み

私はいま、新卒2年目の年齢ですが、まだ慶応義塾大学の環境情報学部に籍はあり休学中です。生まれは岡山県岡山市。この地はなかなか映像や映像機器に触れにくく、ビックカメラがあっても、新しいカメラは紙の模型しか置いてない状況でした。その頃からビデオサロンも読んでいて、高校生のときに自主制作で作った作品を投稿し、選んでもらったこともありました。

中学校、高校と県立の一貫校に進学して、その文化祭でプロジェクションマッピングをやろうとしたんです。1年目に実際に制作し好評でしたが、2年目は縁があって、さんまさんの番組『さんま・玉緒のお年玉 あんたの夢をかなえたろか スペシャル』(2018年1月放送)に当選し、東京駅のプロジェクションマッピングを作った株式会社ネイキッドさんに協力をしてもらい、一緒に高校の文化祭でプロジェクションマッピングをやることになりました。その時に初めて、夏休み中の1カ月(2017年)、東京に泊まり込みでネイキッドさんのオフィスに通って制作するという貴重な経験をさせてもらいました。そのあたりから映像で生きていこうと決心しました。

同時にビジネスにも興味がありましたので、地元の銀行と新聞社が主催するビジネスコンテストにも出させてもらいました。実は、仕事を最初にいただけるようになったコネクションは、そこがきっかけです。

その後、慶応義塾大学 環境情報学部SFC(藤沢市)に進学しました。ここでメンバーを集め、詳しくは後で触れますが、SFCで出会ったメンバーを中心に株式会社IDENCEを創業し、今は浅草にオフィスを置いています。

弊社では、実写撮影から3DCG、2Dのモーショングラフィックス、そして楽曲制作まで幅広く手掛けていますが、これらを1社で作ることが特徴です。また、各クリエイターを“プロジェクトデザイナー”と呼ぶようにしています。これは、基本的に全員がディレクションができ、窓口対応できる。また、お客さんと実際にお話をしながら進行もしていけるように、技術だけでなく、考え方やプロジェクトの進め方も一緒に追求できるようにしているからです。

大変ありがたいことに、「映像作家100人」という、前年度活躍した映像クリエイターや映像制作会社を100人紹介する2024年版で選んでいただきました。


テレビ番組の企画で実現した高校時代のプロジェクションマッピング。




自分にはできない3Dができる相棒を見つけチームを組むことに

どうやってフリーランスからチームになり、会社になったのか? を説明したいと思います。SFCに入学したとき、たまたま同じクラスに“かとりく”というやつがいまして、これが今の共同代表、CGのトップをやってくれている加藤 陸です。彼はマインクラフトで長崎県の軍艦島を作っていて、これがLINEニュースになって、私も高校生のときに見たことがありました。これでマインクラフトからプロの認定を受け、彼自身、プロマインクラフターという肩書きで活動もしていましたが、これができるのなら3DCGは絶対に向いてるでしょ! と口説き、一緒に何か作っていこうという話になりました。

一方でSFCなら、もっとクリエイティブに興味がある人はいるはずと思っていたのですが、入学してみると、意外とその当時は映像を扱えるゼミやサークルがありませんでした。それならふたりでクリエイティブができるサークル作ってしまおうということになりました。私はフリーランスで仕事を始めていたので、その繋がりで同年代のカメラマンやシステム開発をやっている友達が徐々に集まってきて、「sense.(センス)」というサークルを作ったのが2019年、大学1年の5〜6月頃でした。

マイクラから始まった加藤は、Cinema 4Dを触ってから2週間で、フォトリアルな山手線を作ってしまい、「やっぱり、お前できるんだ!」とテンションも上がり、「インスタレーションを作ってみよう」という話になりました。SFCの文化祭で教室を借りて、そこに自分たちで木材を加工して作り、自動改札機も作ったりして、簡単なインスタレーションも作って遊んでいました。

私はsense.のサークルの活動とは別に、フリーランスとして仕事を継続していました。岡山にいたときも、ビジネススクールに通っていた関係で、地元の中小企業の社長さんや、ビジネススクールを管轄していた地元の広告代理店の方から声を掛けていただき、地元の小さな仕事を請けていました。また、X(当時Twitter)で知り合った埼玉に住んでいる同い年のカメラマンと意気投合して、彼がよくしてもらっていたビデオプロダクションに私も一緒にお世話になり、ビデオグラファーとして撮影に参加していました。その間、加藤やsense.のメンバーたちがどんどん3Dのレベルを上げていきました。


“かとりく”こと加藤さんがマインクラフトで作った長崎県の軍艦島。




活動を仕事として捉えるメンバーと営業活動も開始

その頃から「家がバラバラでは作業しにくいよね」という話になり、共同の作業場を借りることになりました。大学の近くに家賃4万5000円、築50年。来年には壊されるから初期費用0円という物件があり、そこをみんなでお金を出し合って借りて作業していました。そうこうしてるうちにコロナ禍になり、そのタイミングでsense.の新人歓迎会をオンラインに切り替えて、SNSに動画を載せて募集したところ、これが好評で、それまでは部員数15人だったところ、一気に100人が入部しました。そのときに出会ってくれたメンバーが、実は今、弊社の社員として働いてくれています。

徐々にサークルの活動も広がり、sense.の中でも仕事としてやっていこうという思いのある人が何となく見えてくるので、その人達と一緒に仕事をする機会が増えました。それまでは、板谷勇飛の名前で仕事を受け、それを再委託していましたが、それでは共同体意識が持ちにくい。そこで名前を作ることになり、「IDENCE」という名前を作ったところがチーム結成までの経緯で、2020年の12月頃の話です(法人化はまだです)。

そこから1年間はひとつのチームとしてずっとやっていて、徐々にメンバーも増え、同じ藤沢にある若干広い事務所に移りました。ここからどうやって仕事を増やしていったかというと、大学の先輩が就職した先の仕事をいただいたりもしましたが、「自分達でも営業もしないとね」ということで、“クリエイターEXPO”にチームとして出展。そこには名だたる大企業の方たちも来られていて、名刺交換して、実際にここからいろいろな仕事をいただくことになりました。

このとき、「IDENCE」という名前で表舞台に出るに当たり、ホームページを整備したり、ブランディングを考えたりするうちに、組織体制が徐々に整っていきました。この頃は全員社員ではありませんし、大学にフルで通っていたので、集まる機会を作るために“水曜ミート”を作り、水曜日の朝10時に集まり、ライティングやCGの検証をしたり、それぞれの知識や好きなことを共有するために“蛇足ですが”っていうコーナーを作ってみたり、企画を持ち込んでスライドでプレゼンしたりもしました。

そんな中、さんまさんの番組でお世話になったネイキッドの代表、村松氏と再会する機会があり、その際に「業務提携したいから、会社にしないか? 一緒にいろいろできるから」というお話をいただきました。ちょうどその頃、売り上げ的な面でも法人にしようかどうか迷っていた時期でしたので、そのタイミングで法人化を決め、2021年12月28日に株式会社になりました。

そこから半年後、「東京に出よう」ということで、目黒の事務所に移転。それと同時にマネージャーが参入してくれました。私の中高の同級生で、オンラインでいろいろと関わってくれていた人です。弊社としては初のクリエイターではない人材でしたが、そのおかげもあって法人として、きちんと回っていくことになりました。


みんなでDIYで作っていった藤沢市の2番目の事務所。


「IDENCE」の名前でクリエイターEXPOに出展。ブースに立つ加藤さん。当時の様子はIDENCEのサイトにある「Letter」で読むことができる。







IDENCEが目指す“差別化”ポイントはどこ?

最新の実績・事例紹介

Nikon Future Vision for CES 2024


コンセプトデザインから手掛けた Nikon Future Vision for CES 2024

最近の仕事の中から、弊社が力を入れているポイントが分かるものをふたつご紹介させてください。まず「Nikon Future Vision for CES 2024」です。CESというラスベガスで開催されている世界最大の技術展用に制作した映像です。これは総力戦で取り組んだもので、制作会社がロボットさん、エンドクライアントがニコンさん。CESのブースを全体統括されているクリエイティブディレクターの方がいらっしゃって、この映像の部分に関してはその方と一緒に弊社が企画から入り、最終完パケまで並走させていただいたものです。3DCGパート一式と、最後の女の子のカットの撮影と音楽の作曲まで担当しました。

今回は3DCGを全面的に使い、CGだけのカットが多く、エンタメ的な演出ではないサービスやビジョンを紹介していくものです。海外では最近、ものすごく多く見られるスタイルですが、日本ではあまり目にする機会が少ないものなので、そこにチャレンジしたいと提案し、実現しました。最後にはVFXにも挑戦しています。撮影部の手配もすべて弊社で行なっています。

冒頭に3DCGの舞台がありますが、この舞台のコンセプトデザインから手掛けているのがポイントです。未来のニコンを表現し、今後ニコンがどういう会社になっていくのか、どういう未来を見せていくかを映像に落とし込みたいという要望でしたので、それなら舞台をひとつ作り、その上でいろいろなストーリーを展開したらどうかと提案。ニコンのイメージング技術から着想を得て、カメラ特有の機構や光の挙動を感じられるような造形を配置しています。



Nikon Future VisionはCG制作だけでなく、実写部分や音楽制作も担当した。動画の最後のシーンはスタジオで撮影した。




Vortex City Future Vision


架空の街ごと3DCGで作成した Vortex City Future Vision

もう1件ご紹介します。新しい資源循環を実現した未来の街「Vortex City」のコンセプトムービーです。こちらも肝入りの案件です。これ自体はエンドのクライアントが慶應義塾大学SFC研究所と大成建設さんの共同プロジェクトです。市民に向けて分かりやすくビジュアルとして見せるために制作し、市民説明会でも実際に放映されました。

短尺で注意を引くものではなく、ひとつひとつ、どういった未来になるかをゆっくりと見せていく構成になっていて、イメージ的には美術館のモニターで流れているような説明映像をフルCGで作りました。

これは今後、鎌倉市以外にも横展開していく可能性があるというオーダーでもあったので、完全に鎌倉市だと特定されないような地形にしています。同じような人口規模の街や地形をサンプリングして、架空の地図を最初に起こすところから始め、それをフル3Dで起こしています。全体的にデフォルメしているので、1:1スケールではありませんが、街ごと全部CGで作るという結構労力のかかった案件でした。CG自体は弊社の加藤がCGディレクターを務め、CGデザイナーとしてふたりプラスして、ほぼ3人で作っています。ちなみにCGの制作ソフトはMaxon のCinema 4Dを使用しています。

フューチャースケープ的な3Dの映像は、真っ白で鳥瞰図のような少し無機質で、そこに実際にいる感じはしない映像が多い印象があったので、より実感が持て、そこに自分が暮らしているイメージが持てるようにしています。