コロナ禍を経てリモートワークという働き方が急速に定着しつつある日本社会。本記事では、クリエイターと企業の結び付きに新たな選択肢を提示することに成功したクリエイターズコミュニティ「hive」を運営するNo.0代表の大野康介さん、Unplug代表の中川貴史さんを講師に招き、クラウドソーシングやビジネスマッチングともまた違う、新時代のコミュニティの在り方についてお話を詳しく伺った。

講師  大野康介   Kosuke Ono

IT業界の営業職を経て、2012年に株式会社gravieeを創業。“働き方をもっと自由に”をコンセプトとした、WEBクリエイターと企業とのマッチング事業を行う。2017年にクラウドソーシングサービス最大手の企業にグループインし、2020年に代表取締役を辞任。同年、株式会社No.0を立ち上げ、クリエイターズコミュニティ「hive」の運営をスタート。

HP ● https://number-zero.jp/


講師   中川貴史   Takashi Nakagawa

アパレル業界にてキャリアをスタートさせた後、IT系人材業界での営業・マネジメント経験を経て、「hive」を運営する株式会社No.0に参画。取締役として新規事業の立ち上げや営業体制の構築に携わる。2023年7月にモーショングラフィックス・3DCG領域に特化した株式会社Unplugを設立。代表取締役に就任した。

HP ● https://unplug-studio.jp/






● クリエイターズコミュニティ・hive(ハイヴ)

2020年9月に長野県軽井沢町で生まれた、250名以上の動画・映像クリエイターが集うコミュニティ。 「“仕事を面白くするつながり”が育つ場」を目指して、2024年より専門性の異なる約40社の企業とパートナーシップも開始した。




当時から掲げていたコンセプトは“働き方をもっと自由に”

株式会社No.0の代表を務めている大野康介です。私は、20代のときにIT業界の営業職を経て、2012年に株式会社gravieeという会社を立ち上げました。この頃は、WEBのクリエイターに対して、企業とマッチングさせてリモートワークの仕事を紹介するというサービスの事業をやっていました。当時から”働き方をもっと自由に”というコンセプトを掲げていて、従来の枠組みに捉われない仕事の仕方を広げていくなかで、2017年に大手クラウドソーシング会社とご縁があり、gravieeがグループインした形になります。

その後、プライベートで第2子が誕生したことをきっかけに東京から軽井沢へと移住したんですが、2020年にgravieeの代表を辞任、株式会社No.0を立ち上げ、クリエイターズコミュニティ「hive」の運営をスタートしました。また、2023年に中川がモーショングラフィックスのグループ会社であるUnplugを立ち上げ、現在はNo.0とUnplugの2社体制でプロジェクト運営をしています。








クリエイターズコミュニティ「hive」とは?

仕事を“真ん中”に置いた深まるつながり

参加するクリエイターや企業がつながって関係性や連携を深めていけるコミュニティ

hiveは2020年9月に長野県軽井沢で生まれた動画・映像クリエイターの集うコミュニティです。特徴として、スタート時から現在に至るまで完全招待制にこだわって運営をしていて、現在250名ほどのクリエイターが参加してくれています。「仕事を“真ん中”に置いた深まるつながり」というのがコミュニティのコアコンセプトで、コミュニティの中心には仕事があり、参加しているクリエイターや企業同士がつながって、メンバー間での関係性や連携を深めていけるようなコミュニティになっています。中心にある仕事は大きく分けて、「企業の動画・映像案件」「映画・アニメ作品のプロデュース」「新規サービスづくり」「新会社の設立」の4つになります。

現在までに4年ほどhiveを運営していますが、取引している企業さまや参加している企業さまから「どうやってこんなに優秀なクリエイターを集めているんですか?」「サービスや作品はどのように生み出しているんですか?」とよく質問されます。この記事では、コミュニティを立ち上げた2020年から2024年現在までのコミュニティの変遷と併せながら、「新時代の制作会社」をテーマにどのような新しい形でコミュニティを形成しているのかを詳しく解説していきます。




hiveコミュニティの現在までの変遷

基盤固めの年

完全招待制にこだわるための有料広告の出稿禁止というルール

2020年は基盤固めの年でした。まず、コミュニティを立ち上げ、どんなコミュニティ・コンセプトにするのかといった設計部分、WEBページの制作、クリエイターのプロフィールや実績を管理する機能や、クリエイター同士がWEB上で繋がることのできるシステムの実装などを行いました。そして、最も時間をかけたのはクリエイターを集める活動です。完全招待制にこだわりたかったため、「有料広告の出稿禁止」というルールを課し、まずはWEBやSNSでのリサーチを行いました。その中で目を引くクリエイターに、「hiveというコミュニティを立ち上げようと思っているので、一度ご挨拶させていただけませんか?」といった挨拶メールを個別に送って、そこからつながりを持てたクリエイターと打ち合わせをしていくという流れでした。

打ち合わせでは、「将来的にこんな作品をつくりたい」「こんな企業からこんな仕事を取っていきたい」など、クリエイターの希望を詳しくヒアリングしていきました。また、「私は動画の素人です」と正直に伝えたうえで、hiveというコミュニティがどういうものなのかを説明し、「hiveに参加すればこんな価値を提供できる」といったビジョンを中心にお話しました。

その結果、ありがたいことに一部のクリエイターの方々が興味を示してくれて、この年だけで70〜80名ほどのクリエイターに参加していただけました。これは、hiveをスタートしたタイミングがコロナ禍だったことも大きかったと思います。優秀なクリエイターもこの時期ばかりは仕事が減少していて、時間を持て余していた方が多かったんです。そんなタイミングで、コミュニティという「よく分からないけど、ちょっと面白そう」なhiveから声をかけられて、気軽に来てくれた方が多かったのかなと思いますね。



営業の年

クリエイターの技術力や実績と自分たちの営業力を掛け合わる

2021年は営業の年でした。前年に多くの優秀なクリエイターの方々にご参加いただけたこともあって、各クリエイターの技術力や実績と、弊社の営業力とを掛け合わせる形で少しずつ企業さまから仕事の依頼や相談が増えていきました。実際にクリエイターの方々と仕事をすることによって、hive内部の関係性もより深まっていった年だったと思います。



変化の年

クリエイターの強みを引き出すサービスを自分たちが作ればいい

2022年からは新しいサービスや作品づくりに取り組んでいきました。具体的には、「キカク会議」という脚本家や放送作家など企画のプロを交えて会議できるサービスや、YouTubeチャンネル立ち上げ・運営のサービスをリリースしました。以前から、クリエイター側の営業での課題や悩みを聞いていて、「もったいない」と感じていたんです。それぞれ素晴らしい実績や強みを持っているのに、それらを自分自身の強みとして捉えていなかったんですね。そこで、「だったら私がクリエイターの強みを最大限に引き出すサービスを作ればいいんじゃないか…?」と考えたのが、こういったサービスを立ち上げたきっかけでした。

 また、hiveに参加する映画監督の高島優毅さんとオリジナル短編アニメーション『グルメ・ファウスト』を制作するなど、作品づくりにも携わった年でした。


脚本家や放送作家など、企画のプロを交えて動画に関する企画会議を開催するサービス「キカク会議」。


高島優毅さんが監督を務めた『グルメ・ファウスト』は、4カ国の映画祭にてオフィシャルセレクションに選ばれた。




広がった年

多くのクリエイターが参加したことで対応できる仕事の範囲が拡大

2023年は企業案件での対応範囲が広がった年でした。それまでは部分的な撮影や編集、モーショングラフィックスのみといった仕事が多かったのですが、この年以降は企画段階から入ったり、TVCMやWEB CMなど規模の大きな仕事、制作人数の多い案件に関わることも増えていきました。そうなった理由としては、参加するクリエイターとの関係性がより深まったこと、多くの優秀なクリエイターが参加してくれたことで対応できる範囲が広がったからです。

そのほかに、企業向けの人事部専属映像制作サービス「人映」のローンチや、中川が代表を務める新会社・Unplugの立ち上げなどもこの年です。加えて、短編だけでなく長編のオリジナルドキュメンタリー映画制作にもチャレンジするなど、新たな取り組みが広がった年でもありました。

採用活動や教育研修など、人事に関するさまざまな事案を動画・映像でサポートするサービス「人映」。




次のフェーズへ…







なぜ「コミュニティ」という選択をしたのか?

新たに所属できる場所や環境としてコミュニティが必要になる時代

私は新卒でIT業界に入った2005年頃からクリエイターの働き方の変遷を見てきました。その当時はフリーランスという働き方をする人はほとんどおらず、一部の優秀なエンジニアやクリエイターのみがフリーランスを選択していました。2012年頃に「クラウドワークス」や「ランサーズ」といったクラウドソーシングサービスがスタートし、企業とクリエイターがオンライン上で発注・受注できる環境が整い始めたことをきっかけに、フリーランスの数がじわじわと増え始めた印象です。さらに、コロナ禍によって働き方の選択肢が大幅に増え、特にリモートワークが当たり前のように浸透しました。フリーランスで活躍していた20〜30代のクリエイターはしだいに30〜40代になり、結婚して家族ができたり、体力が落ちてきたりと、私も含めてライフスタイルがかなり変化しました。

最近ではAIの普及によって世の中が急速に変化し続けています。そんな状況であれば、「このままフリーランスをやっていて大丈夫なのか…?」「固定の取引先から同じような仕事をずっと受けていていいのか…?」と、フリーランスの方々は悩みを感じていると思ったんです。そこで、「クラウドソーシングやビジネスマッチングとは違う、新たに所属できる場所や環境としてコミュニティのようなものが必要になる時代なんじゃないか?」と思い立ったのが、hiveというコミュニティを作った理由です。



hiveでのつながり方

規模の大きな案件が舞い込んできても、すぐに優秀なクリエイターをアサインし、層の厚いチームを作ることが可能な点がhiveの強み。さまざまなクリエイターを巻き込んで制作することで、企業との関わりや外への広がりも増えていく。また、完全招待制ならではの信用がベースにあることで完全リモートでの作品・サービス、会社づくりを実現しており、プロジェクトが実現するまでのスピードが従来より早い点もhiveの特徴。



クリエイターのキャリアが大きく変化したり偶発的な出会いが生まれる場所を作りたい

フリーランスの方々がすでにお付き合いしている企業や制作パートナーを縦のつながりとした場合、hiveに参加することでこれまでのキャリアでは接点が持てなかったような横のつながりや斜めのつながりを作っていきたいと考えました。つまり、hiveに参加することで、キャリアが大きく変化したり、確変したりするような偶発的な出会いを生み出せたら面白いな、と。また、意図しないところで出会える場を作りたいとも思っていました。

たとえば、映像カメラマンの方とNo.0が仕事をしたとします。そこで、No.0の持ってきた案件がTVCMなど規模の大きいものだった場合、ひとりでは完結できませんよね。そんなとき、hiveに参加するメンバーからディレクターやCGクリエイターなどのメンバーをアサインしてチームを作るんです。ここで、いままで繋がりの持てなかった他のクリエイターと横のつながりを持てるようになります。

また、hiveには多数の企業が参加しているため、そのクリエイターが他の企業に対して特にアクションを起こさずとも、納品物を見た他の企業がそのクリエイターに別の仕事を依頼するといった流れが自然とできています。このように意図していないところでも企業やクリエイターと出会えるような状態がhiveで生まれています。