若い世代を中心にTikTokやYouTubeショートなどで注目を集める縦型ショート動画。流行の兆しを見せるショートドラマに目をつけ、縦型ショートドラマレーベル「T36」を発足した映像制作会社THINGMEDIAの佐藤一樹さん、久保田直樹さん、鈴木勇那さんを講師に招き、本プロジェクトがどのように進行しているのかを、映像制作業界の取り巻く現状や課題を踏まえつつ、詳しく解説してもらった。
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THINGMEDIA Inc. Co-Founder / COO / Producer
講師 佐藤一樹 Kazuki Sato
2007年にAOI Pro.に入社。2018年3月に「THINGMEDIA株式会社」を創業。2024年には縦型ショートドラマレーベル「T36」を設立し、SNSを中心とした映像制作に注力している。
THINGMEDIA Inc. Producer
講師 久保田直樹 Naoki Kubota
2022年にTHINGMEDIAでのキャリアをスタート。大規模なイベント案件やMVをサバイブし続ける。バーチャル大臣、ファッション王を経て、次は縦型王を目指す。
THINGMEDIA Inc. Director
講師 鈴木勇那 Isana Suzuki
1999年生まれ。インパクトのあるCMルックorエモいヒューマンドラマはこの人にお任せ。新卒入社後、広告PMを経てディレクターに。MV、CMの次に課された「縦型ドラマ」を全力攻略中。
縦型ショートドラマに挑戦する映像制作会社THINGMEDIA
2018年、渋谷にて創業された映像ベンチャー企業。メンバーは約20名。映像・イベントなどの制作請負が主軸。最適で最善で最高な「BBBプロデュース」を提供することをモットーとし、2025年までに映像制作業界の仕組みと働き方のニュースタンダードを作ることをミッションとしている。
佐藤 THINGMEDIAという映像ベンチャー企業のCOO兼プロデューサーを務めている佐藤一樹です。2007年から約12年AOI Pro.という会社でプロダクションマネージャー、プロデューサーを経験し、2018年の3月に現社長である相方の田中博之とTHINGMEDIAを創業しました。THINGMEDIA自体は今年で7期目となり、メンバーは約20名ほどの会社で、映像とイベント制作の請負を事業の軸としています。
久保田 THINGMEDIAに入社して3年目のプロデューサーの久保田直樹です。新卒でTHINGMEDIAに入って、これまで広告やMVの案件を担当してきました。現在は縦型ショートドラマをメインに担当しています。
鈴木 同じく新卒からTHINGMEDIAに入り、今年3年目となるディレクターの鈴木勇那です。僕は入社してからPM(プロジェクトマネージャー)を経験しつつ、1年半ほど前から、晴れてディレクターになりMVやCMなどを担当してきました。現在は同じく縦型ショートドラマに全力投球しています。
佐藤 今回はこの3名で、THINGMEDIAが現在挑戦している縦型ショートドラマレーベル「T36」の話を中心に、映像制作会社を取り巻く現状や、僕らが普段動画制作で意識していること、実際にどんなコンテンツを作っているのか、視聴されるコンテンツとはどんなものなのかなど、詳しく解説できればと思っています。
THINGMEDIAの“作り方・届け方・稼ぎ方”
特化した強みを持つことで変わる“作り方・届け方”
「どんな映像でも作れます!」と言うよりも得意分野を作るほうが仕事に繋がりやすくなる
佐藤 映像制作会社とは、実績自体が仕事を生み、新しい機会を作るものだと考えています。要は、いかに頼まれやすい・覚えてもらいやすい状況を作るかが大事だなと。それに対してのアンサーは、「得意分野を作る」こと。
例えば、「ゲームに特化したチームを作ったぞ!」と人に話すことでゲームの仕事をもらえたり、「番組やイベントに特化したチームがあります」と言うことで、オンラインイベントやライブ配信の仕事が来たり。「御社の強みは?」と聞かれたときに「どんな映像でも作れます!」と言うよりも得意を作るほうが仕事に繋がりやすくなるんです。
また、得意分野を確立することにはいくつかのメリットがあります。まず、作り手が得意だと言う以上、それについてリサーチを重ねることになるので必然的に詳しくなれます。また、仕事を通じてさらに学び、調べ、実績が増えてより学び、詳しくなっていくというサイクルが生まれます。これを何度も繰り返すことでプロフェッショナルに近い状態に到達できることが大きなメリットとなります。
対してデメリットは、分野を絞ることで視野が狭くなり、それ以外の領域に興味を持たなくなる点や、ひとつの分野へのモチベーションや鮮度を作り手自身が維持しづらい点が挙げられます。なので、切り替えが大事なのかなと思いますね。ただ、デメリットを考えても、若手や業界未経験の人間を多く従えるチームが映像制作業界で生き残るためには、強みや特色・特徴を活かした、得意分野を作るのがベストな方法だと僕は考えています。
● 得意分野を作る=特化した強みを作る
“稼ぎ方”を変える3つの要素
3つの要素と受け皿さえ押さえれば仕事の絶えない状態に持っていくことができる
佐藤 THINGMEDIAはベンチャー企業なので、大手制作会社や実績豊富なクリエイティブチームと遜色のない「何か」を提供する必要があります。その何かとは、一般的な答えだと「クオリティ」などが当てはまりますが、弊社ではクオリティの他に3つのことを意識しています。
まずは、「低コスト」であること。大手と比べても遜色のない進行管理なのに低コスト、突出した実績を持つチームと比べても遜色のない仕上がりなのに低コストであると。これは分かりやすいですね。
次に、「対応が早い」こと。早さはどんなものにも勝る大切な要素です。特に大手の場合、人も仕事も制約も多いので小回りが効かず弱い部分です。また、突出した実績のチームはスーパープレイヤーを活かした布陣のため、確認や対応が遅くなる場合があります。
そして、「解像度が高い」こと。解像度の高さとは、その商品やプロダクト、企業に対して理解度が高い状態のことです。この3つの要素と先ほどの「得意分野を作る」という受け皿さえ押さえていれば、現時点での結論としてある程度仕事の絶えない状態に持っていけると考えています。
久保田 得意なことや好きなことがあるとクライアントと対面するときも営業しやすいだろうなと。例えば、僕はゲームが好きではないんですが、案件が来たとしても、ある程度は仕切れる自負があります。ただ、その上でクライアントから「この人に継続してお願いしたいな」と思ってもらえるような発想やクリエイティブに対する提案みたいなものは、前提に好きがなければ出てこないんですよね。そういう部分があるとより泥臭い営業ができて、さらに尖ったチームになれるんじゃないかなと思います。
● 大手や突出した実績を持つチームとの差別化
映像制作会社を取り巻く現在の状況
映像の需要はあるが薄利多売
潤沢な制作費が見込める仕事は減っている
佐藤 映像制作会社を取り巻く現在の状況を考えてみると、映像制作という仕事自体は、個人も会社もめちゃくちゃ需要はあります。ただ、映像一点張りの施策というのは、特に広告に限っては本当になくなってきているんですよね。わかりやすく言うと、1本数億円みたいな潤沢な制作費が見込める仕事は著しく減っています。
また、これは制作会社側の課題でもあるんですが、「縦型も作ってください」「TikTokバージョンもください」など、制作する動画の対応幅が広くなったため、工数が以前よりかかり、どうしても薄利多売になってしまいます。薄利になるということは外部に仕事を振ることもできないため、内部スタッフで何とかしなければいけません。つまり、スタッフがどんどん疲弊していくということ。こういった課題を現状としては抱えています。
久保田 外部のスタッフと話していると「予算が少ない、足りない」とみんなが口を揃えて言うので、業界全体として映像1本に対する金額が下がってきているんだろうなと感じています。スタッフ側からするとやりたいことが実現しにくくなっているし、プロデュース側からすると目標とするクオリティを実現させるために頭を悩ませる時間が長くなっています。その結果かなりハードモードになっている現状はありますね。
進む広告系映像制作会社の二極化
大手クライアント案件とスモールチームでの経営を両立できる会社には幅も余裕もある
佐藤 広告系の映像制作会社は現在二極化が進んでいます。それは大手広告会社や大手クライアントを相手にしているところと、単体の案件は小さいけれどスモールチームで経営しているチームです。断言できるのは、ふたつを両立できている会社は、基本的に幅があって余裕もあるので、これから映像業界に就職するという方には、そういった会社を探すことをお勧めします。
新たなことに挑戦する会社の人材は強い
予算をもらい続けるだけではなく生み続ける方向にも舵を切るべき
佐藤 そして、映像制作会社には、これまでのやり方を踏襲している会社と新しいことに挑戦している会社があります。個人的には後者のような会社において最前線で戦っている人間はいい人材だと思っているので、そういった頭ひとつ抜けた“凸った”人材を中心としたチーム編成を組めているチームや会社は強いなと思いますね。
鈴木 このあたりの話を紐解いていくと、今の映像業界は生きるか死ぬか、やるかやらないかの時代になってきているなと僕は思っていて。だからこそ、予算をもらい続けるだけではなく、生み続ける方向にも舵を切るべきだと思うんです。そこで先ほどの二極化ともまた違った選択肢が、今回の本題であるショートドラマレーベル「T36」になります。