「彼女感」のあるポートレートリールが評判になり、2021年に始めたInstagramはフォロワー7.8万人(2024年8月現在)の人気アカウントに成長。わずか10秒程度で人の心を捉えるリールはどのように作られているのか? テーマ選びからフィルムルックを実現するグレーディングまで、そのノウハウを語ってもらった。

講師   SOKONIARU(市電) そこにある(しでん)

札幌を拠点に映像制作や写真撮影、グラフィックデザインを行う。クリエイティブユニット「市電」(現在は個人で活動)として2021年からInstagramへの女性ポートレート写真・動画の作品投稿を続けている。個人活動では企業PVやウエディングなどの作品も投稿している。本業は理学療法士であり、9人組ラップクルー・QUMOのメンバーとしても活動。

Instagram:@shiden.creative(市電)、@sokoniaru(SOKONIARU)








ポートレートのリールが注目のきっかけに

僕はクリエイティブユニット「市電」として、普段はInstagramのリールで作品を配信しています。市電は2021年の8月に結成したふたり組のユニット(現在は個人で活動)で、僕が動画、もうひとりが写真を交互に上げていくという構想で活動を始めました。

最初は今とはまったく違うスタイルで詩の朗読のような動画を発表していたのですが、Instagramにリールという短尺動画機能が追加されたのを機に、メディアに合わせたコンテンツを作ろうという話になり、当時のトレンドだった「彼女感」「フィルムルック」と流行の曲を組み合わせた動画を上げてみたところ、だんだんと再生数が伸びていくようになりました。

最初のうちはたくさん再生されているフォロワー数の多いアカウントを参考に投稿の内容を考えたり、統一感のあるテンプレートを用意してみたりしていました。ゼロから作り上げるというより、何が正解が分からない中で、ひたすら他の方々を参考に作っていった感じです。

現在の市電の映像づくりでは、「彼女感」に加えて「既視感」も意識しています。それは「自分にも経験がある」と感じるような瞬間を再現して共感してもらうこと。今の言葉で言うと「エモさ」の演出です。今後も同じコンセプトを続けるかは未定ですが、初めてリールを作る人も、このポイントを意識すると作りやすいと思います。


市電のInstagramアカウント。リール映像が統一感のある美しいサムネイルと共に並んでいる。







撮影の前に準備すること

テーマを考える

ワンシーンからアイデアを膨らませる

僕の場合、最近観た映画やMVの中からいいなと思った部分を膨らませて自分なりにアウトプットすることが多いです。たとえば映画で縁側が写っているシーンがあったら同じような場所を探してみようといったふうに、まず撮ってみたいワンシーンを画として思い浮かべるのです。始めたての頃は長い映像を作るのが難しかったのですが、そうやってワンシーンだけ寄せて作ってみる方法はリールという短尺のメディアに合っていて、創作のハードルを大きく下げてくれました。

アイデアを膨らませるポイントは3つあります。ひとつは、最近聴いている音楽やリールで流行っている曲から発想を広げる方法。ふたつめは季節に合わせる方法。夏だったら花火大会というように、その時の季節とイベントに合わせて考えると作りやすいです。最後に大事なのは、決めすぎないということ。現場でのアドリブを大事にしつつ、良い意味で適当に動くようにしています。





ロケーションを決める

なるべく人の少ない場所を選ぶ

ロケーションはあらかじめ撮りたい場所をざっくり決めておいて、あとは当日のモデルさんとの待ち合わせの時間帯によって映像の雰囲気を変えたりしています。

場所選びの参考として、僕は普段から散歩中に気になった場所をGoogleマップにピン止めしています。「この公園はこの時間がいいな」というように、どの時間帯に良く見えるかも選択のポイントです。

花火大会など、大勢の人が集まっているほうが雰囲気が出るシチュエーションもありますが、周りの人の顔が写り込みやすいので、普段の撮影ではできるだけ人が少ない場所を選んだほうがいいと思います。

下の作例は地元・北海道の団地です。冬の綺麗な自然風景より、雪の積もった団地を歩いている姿のほうがリアルで北海道らしいのではないかと思って選びました。





モデルを見つける

インスタでいいなと思った人に声をかける

ユニットのもうひとりが元々ポートレートを撮っていたこともあり、最初はそのつてでモデルを紹介してもらうこともありましたが、今は主にInstagram経由で撮影を依頼されたり、こちらから声をかけたりしています。北海道のカメラマン同士で情報交換することもあれば、いろいろなアカウントを見に行き、フォロワー数は関係なく「この人に出てほしい」と思える人がいたらDMで依頼する場合もあります。モデル選びの明確な基準はありませんが、モデルらしいポージングではない素の部分を撮りたいので、そこは意識して見ています。

モデルの衣装は自前です。事前にPinterestなどで検索して服装のイメージを伝えておき、それに寄せてコーディネートしてもらっています。





機材を準備する

その他によく使う機材。左は2007年に発売されたJVCのビデオカメラ、Everio GZ-MG275。よく依頼するモデルの方から譲ってもらったもので、高画質の映像に古いビデオカメラの映像を意図的に混ぜることでメリハリをつけるという。
右はドローンのDJI Mavic Air 2。ただ「かっこいい」という理由で欲しくなって購入した。市電の撮影ではなく、sokoniaru名義の仕事でウェディングの前撮りなどに使っている。



使うのはソニーα7 IV+24-70mmだけ

メイン機材はソニーα7 IVとFE 24-70mm GM IIのふたつだけで、他にレンズは持っていません。映像制作を始めて最初に買ったのがα7 IIIとタムロンの28-75mmという王道のセットで、次に上位互換として買うなら何だろうと考えて選択肢に挙がったのがこの組み合わせでした。

機材選びのポイントは、AF性能が良く、暗所に強いということ。僕の撮影は、フォーカスは基本的にオートです。カメラ頼りというか、今の高性能なカメラが出てきてくれたから僕のような人の創作が成り立っているのだと考えて、プライドを捨ててカメラのすごい機能にすべて任せようと思っています(笑) ただ、雰囲気を出すために、一度AFでピントを合わせた後に、マニュアルであえてボカすというような演出をすることもあります。



4K24pでシネマライクな画に

カメラの設定は4K24pで、S-Log3で撮影しています。リールには8〜10秒の短い映像しか載せないので、バッテリーが保たなかったり機材的な事情があったりする時を除いて、最高画質の4Kで撮るようにしています。

フレームレートはシネマライクな24pに設定。4K/60pだとファイル容量が一気に大きくなりますし、60pで試してみたものの、撮って出しの画にどうも違和感があり、結局24pで撮り直したということもありました。24pにすると後からスローにできないというデメリットはあるのですが、最初は魅力的に思えてもやっているうちに飽きてきてしまい、最近は使わなくなりました。

露出の設定はマニュアルで、基本は絞りF2.8、シャッタースピード1/50秒で撮影します。ただ、この数字のままでは露出オーバーになってしまうので、NiSiの可変NDフィルターを装着して減光します。また、同じくNiSiから出ているブラックミストの1/4濃度はとても使い勝手がよく、これもほぼマストで入れています。

人物を写す時はF2.8で背景をボカし、全体を見せたい時は絞り込んで背景を見せるのが基本ですが、最近はいかにもポートレートっぽくボカすより、F8くらいまで絞って撮るほうにハマっています。